2018年03月29日

株式市場の反応は資金の募集形式により異なるか?

金融研究部 研究員・年金総合リサーチセンター兼任   水野 友理那

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3――考察

情報の非対称性を補うために、一般投資家は金融機関の行動に着目していたと言えるだろうか。

まず、(b)の転換社債について考察する。転換社債発行の場合、その商品性から、転換価額が発行時株価に近いほど株価はマイナスに反応する。株価が転換価額を上回れば、株に転換されていく。そのため、「発行時株価に対する転換価額の超過率」が小さいほど、転換される(つまり希薄化が起こる)リスクを高く見積もり、投資家は否定的に捉える。しかしながら、図表5の「発行時株価に対する転換価額の超過率」を見ると両者はおおよそ一致している。したがって、公募と私募の差は、転換価額と発行時株価の差によるものである可能性は低い。一方、企業規模の違いではないだろうか。Slovin, Sushka and Polonchek (1992)によると、規模の小さい企業ほど融資公表後の株価上昇幅は大きくなる。規模の小さい企業は情報発信力が小さく、情報の非対称性が大きくなるからだ。図表5の総資産と純資本項目の平均を見ると、転換社債(公募)の発行企業は転換社債(私募) の発行企業より規模が小さい。そのため、転換社債(私募)と比べてより大きく下落した可能性がある。このため、転換社債の結果については、募集形式の違いではなく企業規模の差にすぎないかもしれない。また、図表5の純資本に対する調達額の割合にも大きな相違があり、転換社債(私募)の場合に発行済株式数に占める新規発行株式数の割合も大きくなると考えられるため、希薄化懸念の影響は否定できない。

一方、(a)の普通社債と劣後ローンについては、企業規模の相違はないためおおよそ正当な評価ができるはずである。さらに、株式に転換されないため、そもそも希薄化懸念は起きない。ただし、劣後ローンのシグナルが遅れている点は注目すべきである。前述のLummer and McConnell (1989)など、多くの先行研究では翌日からせいぜい3営業日後の公表後累積超過収益率を用いて上昇あるいは下落効果を示していた。しかし、劣後ローンの場合、15営業日後にはじめて有意に正になっている。これは、劣後特約付であることも影響しているのではないかと考える。劣後ローンは返済順位を下げる特別な条件が付いた融資だ。その内容によって企業価値への影響も異なるため、企業を評価するのに時間がかかった可能性がある。しかし、タイムラグはあったとしても、劣後ローンを出すという金融機関の行動に着目した一般投資家の行動によって株価は上昇したと考えられる。

最後に、近年の実証研究をもとに総括する。近年の日本市場において、劣後ローンなどの融資の発表により株価は上昇する傾向があることが確認された。もちろん、企業が置かれている状況やその他の情報により、融資公表後の反応にはばらつきがある9ため、各事例に合わせ個別で判断しなくてはいけない。加えて、Fields, et al.(2006)において、米国市場では、1980年から2003年にかけて融資による株価上昇効果が縮小していることが指摘されている。同論文では、IT化の進展によりプロ投資家と一般投資家との間でも情報の非対称性が軽減されたためだと結論付けた。したがって、今後は日本においても米国同様、融資の発表によって株価が上昇しやすい傾向が消えてしまう可能性もあるかもしれない。
【図表5】対象企業の基本情報
 
9 例えば、Lummer and McConnell (1989)では制限付き融資や融資の中止が公表される場合は株価が下落する傾向が指摘される

(参考文献)

Dann, L.Y. and W.H. Mikkelson, 1984. Convertible debt issuance, capital structure change and financing-related information: Some new evidence, Journal of Financial Economics, 13,157-186.
Fields, L.P., Fraser D.R., Berry, T.L., and Byers, S. 2006. Do Bank Loans Relationships Still Matter? Journal of Money, Credit and Banking, 38 (5), 1195-1209.
Fields, L.P., Mais, E.L., 1991. The valuation effect of private placements of convertible debt, Journal of Finance, 46 (5), 1925–1932.
James, C., 1987. Some evidence on the uniqueness of bank loans, Journal of Financial Economics, 19, 217–235.
Krishnamurthy et al., S., Spindt, P., Subramaniam, V., Woidtke, T., 2005. Does investor identity matter in equity issues? Evidence from private placements. Journal of Financial Intermediation 14, 210–238.
Lummer, S.L., McConnell, J.J., 1989. Further evidence on the bank lending process and the capital market response to bank loan agreements. Journal of Financial Economics, 25, 99-122.
Mikkelson, W.H., and Partch, M.M. 1986. Valuation effects of securities offerings and the issuance process. Journal of Financial Economics, 15 (1-2), 31-60.
Myers S.C. and Majluf N., 1984. Corporate financing and investment decisions when firms have information that investors do not have, Journal of Financial Economics, 13, 187-221.
Slovin, M., S. Johnson and J. Glascock , 1992. Firm size and the information content of bank loan announcements, Journal of Banking and Finance, 16, 1057−1071.
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金融研究部   研究員・年金総合リサーチセンター兼任

水野 友理那 (みずの ゆりな)

研究・専門分野
証券・企業分析、資産運用

(2018年03月29日「基礎研レポート」)

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