2018年03月23日

『SDGsウォッシュ』と言われないために~「SDGsの実装化」に向かう日本企業のグッド・プラクティス~

客員研究員 川村 雅彦

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2――「SDGコンパス」 によるSDGs導入の要点

【SDGs導入の5ステップ】
それでは、実際にSDGsを企業経営に統合する(組み込む)にはどうすればよいのか。そのための導入指南書として作成されたのがSDGコンパス(羅針盤の意味)である。その目的は企業がいかにしてSDGsを経営戦略と整合させ、SDGs達成への貢献を測定し管理していくかについて指針を提供することであり、SDGコンパスは具体的に5つのステップを提示した。すなわち、①SDGsの理解、②優先課題の決定、③目標の設定、④経営への組み込み、⑤報告とコミュニケーションである(図表2)。
図表2:SDGsを経営に組み込むための5ステップ
現在、日本企業のSDGsへの取組はどこまで進んでいるのだろうか。グローバルに事業を展開する大企業中心のやや古いデータではあるが、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)の2016年9月の調査2では、以下のような結果であった。

SDGコンパスを参照する99企業・団体において、半数以上(54%)がステップ1(SDGsの理解)の段階にあり、ステップ2(優先課題の決定)は22%、ステップ3(目標の設定)とステップ4(経営への統合)はともに10%前後に留まっていた。調査時点から既に1年半経過している現在では、段階はかなり上がっているものと考えられるが、ここで効果的なSDGs導入の手法が、SDGコンパスが推奨する「バリューチェーン・マッピング」と「アウトサイド・イン・アプローチ(社会基点)」である。
 
2 GCNJ、IGES『動き出したSDGsとビジネス~日本企業の取組みの現場から~』2107年3月
【SDGsのバリューチェーン・マッピング】
この5ステップから分かることは、まずSDGsの狙いと本質を理解したうえで、17目標の中からバリューチェーンにおいて自社が取り組むべき戦略的優先課題を決定することである。そのためには、バリューチェーンにおいて自社の事業プロセスとプロダクトが環境や社会に及ぼす影響(インパクト)を自ら評価し特定する必要がある。このことは、SDGsのめざす諸課題の解決に向けて、企業が中核事業で貢献できる領域を特定することに他ならない。これが「正しい紐付け」であり、ISO26000のCSRデュー・デリジェンスやGRIのマテリアリティに近い考え方である。要点は以下のとおり。
  • 自社のバリューチェーン全体のマッピングを広い視野で実施し、169のターゲットに照らして直接・間接の正と負の影響(インパクト)を及ぼす領域を特定する。
  • この関連性分析を基に、自社の製品・サービスや事業活動の及ぼす現在と将来に考えられる影響(インパクト)の大きさについて自己評価を行う。

なお、企業の事業活動や製品・サービスの及ぼす影響(インパクト)にはプラスとマイナスの両面があり、「正の影響の強化」はビジネス要素の強いCSV的、「負の影響の最小化」はリスク要素の強いCSR的な位置づけと考えられる(図表3)。
図表3:SDGsの 「バリューチェーン・マッピング」 の例示(製造業)
繰り返すが、ここで大事なことは、169のターゲットレベル(定量的・定性的)で、バリューチェーンにおける自社事業の環境・社会への正・負のインパクトを将来にわたって予測・分析することである。なぜならば、現在の状況に基づくだけのSDGsマッピングでは、特定すべき目標の適否を時間軸をもつて正しく判断できないからである。

ただし、これは全ての企業がSDGsの17目標の全てに愚直に取り組むことを意味しない。17目標の全部に対応しなければならないと思い込み、二の足を踏んでいる日本企業も少なからずあり、それがSDGsの取組が進まない要因とも考えられる。厳密にいえば、プロダクトとプロセス、そしてバリューチェーンは企業ごとに異なるため、必然的に環境や社会へのインパクトと取組の優先順位は異なる。それゆえ、自社がSDGsの達成に効果的に貢献できることは何かを考えることが肝要である。

ご参考までに、図表4に筆者が作成したバリューチェーン・マッピングのためのチェックシートを示す(業種によるバリューチェーンの違いとインパクトのプラス・マイナスを強調している)。
図表4:SDGsの 「バリューチェーン・マッピング」 のためのインパクト・チェックシート
【アウトサイド・イン・アプローチ】
さらにSDGコンパスは、ステップ3で企業がSDGsに整合的な目標を設定する際のアプローチとして、従来の「インサイド・アウト」から新しい「アウトサイド・イン」に転換すべきだと提唱している。両者の違いは以下の通りである(図表5)。
  • インサイド・アウト・アプローチ(企業基点)
    目標設定にあたり、自社の過去と現在の業績を分析し、同業他社と比較しつつ当面の社会経済動向と道筋を予測する従来型の方法。しかし、この短期的かつ企業内部中心的な発想では、将来の社会的・環境的課題に十分に対処することはできない。
     
  • アウトサイド・イン・アプローチ(社会基点)
    将来のありたい姿や何が必要かを企業外部の視点から検討し、それに基づいて目標を設定する方法。現状の達成度と将来求められる達成度のギャップを埋めていくことでもある。SDGsは、世界的な視点から2030年の国際的に望ましい到達点に関する政治的合意である。
図表5: 「インサイド・アウト」 と 「アウトサイド・イン」 の違い
CSRのビジョンづくりや目標設定においては、将来のあるべき姿から逆算して現在行うべきことを考える手法を「バックキャスティング」と呼ぶ。これは、地理的・物理的なイメージを超えて時間軸をもったアウトサイド・イン・アプローチと考えることもできる。

例えば、気候変動に関する目標設定に当たっては、「科学に基づく目標設定(Science Based Targets:SBT)3」を検討してもよいのではないか。SBTはパリ協定が採択される前の2015年5月に世界の企業に呼びかけられたもので、「企業版2℃目標」とも呼ばれる。地球の平均気温上昇を2℃以内に抑える目標と企業のCO2削減目標(の総和)とのギャップを埋める取組である。2018年2月現在、世界で350社を超す企業(日本は51社)が参加しておリ、企業の本気度を示す行動とみることができる。

なお、このようにしてステップ3で設定された企業独自のSDGsに貢献できる目標は、ステップ4では「持続可能性に向けた目標(sustainability goals)」と表現されている。
 
3 CDP、UNGC、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の共同イニシアティブ
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