2018年03月23日

シルバー民主主義と若者世代~超高齢社会における1人1票の限界~

  清水 仁志

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2|選挙制度改革
高齢者と若者の投票率の差を小さくすることで、一定程度、高齢者優遇は軽減されることが期待出来る。しかし、(図表3)で示したように、有権者の高齢化は避けることの出来ないトレンドであり、高齢者と若者の投票率格差だけでシルバー民主主義を是正するには限界がある。これを克服するには選挙制度そのものの改革が不可欠であろう。具体的には、今後の有権者の更なる高齢化を見据え、若者世代の1票の価値を高める改革が必要であると考える。
(図表16)新たな投票理論 (図表16)は、実際に議論されている主な投票理論だ。そのひとつが、米国の学者ポール・ドメインにより提唱された「ドメイン投票」である。この制度では、未成年者を含む全国民に投票権を与える。ただし、実際には未成年者は投票が困難なため、親が代わりに投票するという仕組みだ。そうすることで、より若い世代の民意を反映しやすくなる他、負担が重い子育て世代へ配慮した政策が打ち出しやすくなるというメリットがある。実際に、ドイツでは、ドメイン投票導入をめぐり国レベルで本格的に議論された歴史もある。ただ、この投票制度は、若い世代でも未成年の子を持つ有権者とそうでない有権者との間で投票権に格差が生じるといった世代内の不平等問題や、必ずしも親が子どものために投票するとは限らないといった導入効果に関する問題もある。
(図表17)選挙の4原則 未だにどの国でも新しい投票理論が実現していないのは、有権者1人1票同一価値の原則が大きなハードルとなっているためである。日本の場合は「選挙の4原則」である(図表17)。若者の1票の価値を上げようとすれば、「身分・性別・信条などによらず、1人1票が与えられる」と解釈される平等選挙の原則が崩れてしまうことになる。

選挙制度改革は上記の選挙原則に関する理由や、既に政治的プレゼンスが高い層の反対などにより困難を極めるが、諸外国では新たな投票理論導入の検討が続いている。先に述べた、高齢化率が世界で3番目に高いドイツでは、2003年、08年に議会で議論された。ハンガリーでも11年に新憲法草案作成の際にドメイン投票を盛り込むことが提案された。日本においても、14年に衆院の参考人質疑11の際に「ドメイン投票法」が紹介されたことがある。しかしどの国においてもまだ実現には至っていない。

2008年以降も定期的に子供への選挙権の付与が提案されているドイツや、憲法に取り入れようとするハンガリーなど本格的に議論されている国に比べ、日本は遅れをとっている。世界で1番高齢化が進む日本は、シルバー民主主義はもはや待ったなしの問題であり、世界に先駆けて制度改革の検討をすべきである。
 
11 国会の特別委員会などで、識者や専門家を招き意見を求めること。
 

7――おわりに

7――おわりに

本稿では、選挙制度に着目し、シルバー民主主義を発生させる要因として「有権者の高齢化」と「若者ほど低い投票率」の2つを挙げ、日本におけるシルバー民主主義の存在を検証した上で、それの解消にはどのような対応が必要であるかについて述べた。

日本は他国に先んじて高齢化が進んだことから、シルバー民主主義の進行も著しい。有権者の高齢化でシルバー民主主義が台頭したとは言え、1人1票の原則に則り民主主義が実現しているので問題はないという見方もある。

しかし、国の借金は世界でも群を抜いており、このまま高齢者優遇の政治が続けば、抜本的な変革が先送りとなり社会保障制度も破綻しかねない。もちろん既に引退し年金などの社会給付で生活している高齢者への支出を減らすことだけを考えるわけではない。現在、低負担・中福祉だと言われている日本がどのような姿を目指すのかを議論するに先立ち、必要な改革を阻止するというシルバー民主主義を解消することが必要である。

そのためには、若者世代の投票率を上げることを前提に、若者世代の1票の価値を高める選挙制度改革が必要であると考える。特に、有権者の高齢化が深刻な日本においては、もはや1人1票では世代間の政治的プレゼンスの公平性は維持できない。人口構造がさらに大きく少子高齢化に傾く「2025年問題」も目前に迫っている。高齢化が進めば進むほど、変革は難しくなる。

将来に責任ある政治にするためにも、今こそ抜本的な選挙制度改革に向けた議論を行うべきではないか。
(参考文献)
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・井上結梨子・儀保里沙・立山奏子・中塚裕亮・藤本海人(2013)「世代別選挙区制度の導入-世代間格差の是正に向けて-」WEST論文研究発表会2013
・植松健一(2015)「ドイツの民主制における阻止条項の現在(1)-自治体選挙と欧州選挙の違憲判決を契機として-」立命館法学2015年1号(359号),pp.1-51
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・大竹文雄・佐野晋平(2009)「人口高齢化と義務教育支出」大阪大学経済学Vol.59 No.3,pp.106-130
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・公益財団法人 明るい選挙推進協会(2015)『第47回衆議院議員総選挙全国意識調査』
・公益財団法人 明るい選挙推進協会(2010)『若い有権者の意識調査(第3回)』
・坂井豊貴(2015)『多数決を疑う-社会的選択理論とは何か-』岩波書店
・佐藤令(2011)「諸外国の選挙制度-類型・具体例・制度一覧-」国立国会図書館, 調査と情報-ISSUE BRIEF- NUMBER 721
・佐野洋・中谷友樹(2000)「多政党における小選挙区制の選挙バイアス-1996年度衆議院議員総選挙を基に-」地理学評論73A-7,pp.559-577
・島澤諭(2017)『シルバー民主主義と政治経済学』日本経済新聞出版社
・島澤諭(2018)「世代間格差の犯人は「シルバー民主主義」ではなかった」『ダイヤモンド・オンライン』ダイヤモンド社,2018年1月5日
・清水恵(2009)「無党派の投票行動と影響力—世論調査に基づく分析」武蔵野大学政治経済研究所, 武蔵野大学政治経済研究所年報 (1), pp.203-231
・総務省・文部科学省(2015)『私たちが拓く日本の未来-有権者として求められる力を身につけるために-』
・総務省(2017)『目で見る投票率』
・中部圏社会経済研究所 経済分析・応用チーム(2016)「18 歳選挙権と世代間格差について~全国・中部圏における若者の政治的影響力の今後と若者の政治参加の必要性について~」中部社研 経済レポートNo.5,2016年6月21日
・中井遼(2016)「エストニアの選挙戦とインターネット投票(特殊選挙の風景)」日本貿易振興機構アジア経済研究所,アジ研ワールド・トレンド 251巻,pp.34-35
・中村昭(2013)「政治に期待するものは世代間で異なるのか」ニッセイ基礎研究所,研究員の眼,2013年2月4日
・中村昭(2014)「働いて納税しても選挙権のない人々-若年層への選挙権拡大に国民的議論を!-」ニッセイ基礎研究所,研究員の眼,2014年11月25日
・那須俊貴(2015)「諸外国の選挙権年齢及び被選挙権年齢」国立国会図書館,レファレンスNo.779,pp.145-153
・西沢和彦(2013)「世代間問題の視点」一橋大学経済研究所・日本総研共催 記者勉強会『社会保障における世代間問題を考える』,2013年2月19日
・日本経済新聞「進むシルバー民主主義 65歳以上が投票者の4割」2018年2月2日付け電子版
・日本労働組合総連合会(2015)『若者の関心と政治や選挙に対する意識に関する調査』
・前田俊之(2014)「社会保障をめぐる議論は票にならない?~世代別人口動態からみる選挙~」ニッセイ基礎研究所,研究員の眼,2014年11月27日
・待鳥聡史(2015)『代議制民主主義-「民意」と「政治家」を問い直す-』中央公論新社
・矢嶋康次(2017)「「人づくり革命」の財源を消費税使途変更で捻出」ニッセイ基礎研究所,基礎研レポート,2017年9月28日
・八代尚宏・島澤諭・豊田奈穂(2012)「社会保障制度を通じた世代間利害対立の克服-シルバー民主主義を超えて-」NIRAモノグラフシリーズNo.34
 
 

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清水 仁志

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(2018年03月23日「基礎研レポート」)

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