2018年03月23日

シルバー民主主義と若者世代~超高齢社会における1人1票の限界~

清水 仁志

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3|選挙制度:小選挙区制による選挙バイアス
上記の「高齢化」、「投票率」がシルバー民主主義の主な原因だが、日本の選挙制度が、更に高齢者優遇を加速させている。
(図表7)小選挙区の得票率と議席占有率 日本の衆議院議員総選挙は小選挙区比例代表並立制(定数465)を採用している。289の小選挙区からそれぞれ最も多く票を獲得した候補者が1人ずつと、11の比例ブロックから政党ごとの得票数に応じて176人が選出される4。近年の諸外国の選挙制度は小選挙区制を含む多数代表制から比例代表制へと改正する例が多いという分析がある5。背景には、多数代表制は比例代表制に比べ、少数意見が反映されづらいといった弊害が多いという理由があるようだ。特に、多数代表制の中でも、1つの選挙区から1議員を選出する小選挙区制はこの弊害の影響が大きく出る。(図表7)は、小選挙区における政党ごとの得票率と議席占有率を表している。選挙バイアス6が生じなければ、得票率と議席占有率は、45度線上にプロットされ、有権者の意思が完全に議席数にリンクする。しかし実際は、それぞれの選挙で得票率が一番高い政党(赤色のプロット)は45度線よりも上に、得票率が2位以下の政党(青色のプロット)は下に位置する。このような得票率が一番高い政党に有利な選挙バイアスは、政治的プレゼンスが小さい層、つまり若者の民意を軽視する方向へと導かれる。
 
4 比例代表の政党ごとの議席数配分はドント方式による
5 佐藤令(2011)「諸外国の選挙制度-類型・具体例・制度一覧-」
6 選挙制度により有権者の意思が正確に反映されず、各政党の得票率と獲得議席数に相違が生じること。多数代表制における死票(落選した候補者に投じられた票)や、選挙区の区割りなどを主な原因とする。
4|選挙制度:多数決投票における中位投票者定理
多数決投票における均衡に関する代表的な定理の1つとして「中位投票者定理」がある。この定理によれば、投票結果は中位投票者(有権者を一列に並べたときにその中央に位置する人)の選好により決まる。日本の有権者の中位年齢は約53歳、有権者のうち投票者に限れば約58歳だ。島澤(2017)では、以上を前提に考えると、「各政党とも政権奪取のために、中位投票者である高齢者の選考に合致した政策ばかり掲げ、あるいは高齢者に痛みを強いる政策を打ち出さず、高齢者に対する大盤振る舞いを競うようになるのだ。」と指摘している。実際に、金岡諭史・高見浩輔・武井哲也・寺田昇平(2011)では、高齢者の政治的プレゼンスの上昇により、2007-2010年の国政選挙のマニフェストは主に高齢者の要望を反映しているという分析をしている。
 

4――高齢化によるシルバー民主主義の確認(推定モデルによる検証)

4――高齢化によるシルバー民主主義の確認(推定モデルによる検証)

前節では、シルバー民主主義を引き起こす様々な環境要因が我が国に存在することを示してきた。では、実際に日本でシルバー民主主義が発生しているのか確認したい。ここでは、47都道府県のパネルデータを用いて、高齢化により高齢者優遇の政治が起こっているのか検証する。

推計モデルは、大竹・佐野(2009)、八代・島澤・豊田(2012)を基に設計した。大竹・佐野(2009)では、都道府県ごとの高齢化率と生徒1人当たり義務教育支出、八代・島澤・豊田(2012)では、都道府県ごとの中位年齢と高齢者1人当たり老人福祉費の関係性を検証している。これら検証に基づき本稿では、高齢化による高齢者とその他の世代の支出構造の変化を測定するために「高齢者1人当たり老人福祉費対生徒1人当たり義務教育支出」を被説明変数とし、「高齢化率」などを説明変数とした。

シルバー民主主義が発生している場合、高齢者の政治的プレゼンス拡大(高齢化率の上昇)により、高齢者優遇(高齢者優先の支出構造=被説明変数の増加)になると考えられるため、高齢化率の係数αが正の値をとることが期待される。その他の変数については、先行研究を参考に、1人当たり県民所得、失業率、生徒一人当たり国庫義務教育支出を用いた。推計期間は2005年から2014年の10年間(図表8)。また、被説明変数として採用した、老人福祉費と義務教育支出は、年金などと違い都道府県ごとに裁量が働き有権者の意向を反映しやすいという特徴がある。
(図表8)推定モデルによる検証
結果は(図表9)の通りだ。高齢化率の係数αが有意にプラスとなった。都道府県レベルで高齢化により、高齢者優遇の支出構造というシルバー民主主義が発生していることを示す。

国の社会保障においても、同様に高齢化による高齢者優遇が起こっていることが考えられる。しかし、国レベルで考えた場合、借金という形で将来世代へツケを回すことによって現在選挙権を持つ人へ受益のシフトが起こっているため、直接的な測定は困難である7
(図表9)検証結果
 
7 2008年の「子ども手当」が議論された時期を境に現役世代向け支出が増加し、支出構造を示す高齢者向け支出対現役世代向け支出は低下している。しかし、借金を前提に成り立っている現役世代向け支出の増加をもって、高齢者と若者への割り振りの是正は行われているとは言いがたい。そのため国レベルにおいて、社会保障費の支出構造からシルバー民主主義の存在を判断することは困難だと考える。
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清水 仁志

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