- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 社会保障制度 >
- 社会保障全般・財源 >
- シルバー民主主義と若者世代~超高齢社会における1人1票の限界~
2018年03月23日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
3|選挙制度:小選挙区制による選挙バイアス
上記の「高齢化」、「投票率」がシルバー民主主義の主な原因だが、日本の選挙制度が、更に高齢者優遇を加速させている。
上記の「高齢化」、「投票率」がシルバー民主主義の主な原因だが、日本の選挙制度が、更に高齢者優遇を加速させている。

4 比例代表の政党ごとの議席数配分はドント方式による
5 佐藤令(2011)「諸外国の選挙制度-類型・具体例・制度一覧-」
6 選挙制度により有権者の意思が正確に反映されず、各政党の得票率と獲得議席数に相違が生じること。多数代表制における死票(落選した候補者に投じられた票)や、選挙区の区割りなどを主な原因とする。
4|選挙制度:多数決投票における中位投票者定理
多数決投票における均衡に関する代表的な定理の1つとして「中位投票者定理」がある。この定理によれば、投票結果は中位投票者(有権者を一列に並べたときにその中央に位置する人)の選好により決まる。日本の有権者の中位年齢は約53歳、有権者のうち投票者に限れば約58歳だ。島澤(2017)では、以上を前提に考えると、「各政党とも政権奪取のために、中位投票者である高齢者の選考に合致した政策ばかり掲げ、あるいは高齢者に痛みを強いる政策を打ち出さず、高齢者に対する大盤振る舞いを競うようになるのだ。」と指摘している。実際に、金岡諭史・高見浩輔・武井哲也・寺田昇平(2011)では、高齢者の政治的プレゼンスの上昇により、2007-2010年の国政選挙のマニフェストは主に高齢者の要望を反映しているという分析をしている。
多数決投票における均衡に関する代表的な定理の1つとして「中位投票者定理」がある。この定理によれば、投票結果は中位投票者(有権者を一列に並べたときにその中央に位置する人)の選好により決まる。日本の有権者の中位年齢は約53歳、有権者のうち投票者に限れば約58歳だ。島澤(2017)では、以上を前提に考えると、「各政党とも政権奪取のために、中位投票者である高齢者の選考に合致した政策ばかり掲げ、あるいは高齢者に痛みを強いる政策を打ち出さず、高齢者に対する大盤振る舞いを競うようになるのだ。」と指摘している。実際に、金岡諭史・高見浩輔・武井哲也・寺田昇平(2011)では、高齢者の政治的プレゼンスの上昇により、2007-2010年の国政選挙のマニフェストは主に高齢者の要望を反映しているという分析をしている。
4――高齢化によるシルバー民主主義の確認(推定モデルによる検証)
前節では、シルバー民主主義を引き起こす様々な環境要因が我が国に存在することを示してきた。では、実際に日本でシルバー民主主義が発生しているのか確認したい。ここでは、47都道府県のパネルデータを用いて、高齢化により高齢者優遇の政治が起こっているのか検証する。
推計モデルは、大竹・佐野(2009)、八代・島澤・豊田(2012)を基に設計した。大竹・佐野(2009)では、都道府県ごとの高齢化率と生徒1人当たり義務教育支出、八代・島澤・豊田(2012)では、都道府県ごとの中位年齢と高齢者1人当たり老人福祉費の関係性を検証している。これら検証に基づき本稿では、高齢化による高齢者とその他の世代の支出構造の変化を測定するために「高齢者1人当たり老人福祉費対生徒1人当たり義務教育支出」を被説明変数とし、「高齢化率」などを説明変数とした。
シルバー民主主義が発生している場合、高齢者の政治的プレゼンス拡大(高齢化率の上昇)により、高齢者優遇(高齢者優先の支出構造=被説明変数の増加)になると考えられるため、高齢化率の係数αが正の値をとることが期待される。その他の変数については、先行研究を参考に、1人当たり県民所得、失業率、生徒一人当たり国庫義務教育支出を用いた。推計期間は2005年から2014年の10年間(図表8)。また、被説明変数として採用した、老人福祉費と義務教育支出は、年金などと違い都道府県ごとに裁量が働き有権者の意向を反映しやすいという特徴がある。
推計モデルは、大竹・佐野(2009)、八代・島澤・豊田(2012)を基に設計した。大竹・佐野(2009)では、都道府県ごとの高齢化率と生徒1人当たり義務教育支出、八代・島澤・豊田(2012)では、都道府県ごとの中位年齢と高齢者1人当たり老人福祉費の関係性を検証している。これら検証に基づき本稿では、高齢化による高齢者とその他の世代の支出構造の変化を測定するために「高齢者1人当たり老人福祉費対生徒1人当たり義務教育支出」を被説明変数とし、「高齢化率」などを説明変数とした。
シルバー民主主義が発生している場合、高齢者の政治的プレゼンス拡大(高齢化率の上昇)により、高齢者優遇(高齢者優先の支出構造=被説明変数の増加)になると考えられるため、高齢化率の係数αが正の値をとることが期待される。その他の変数については、先行研究を参考に、1人当たり県民所得、失業率、生徒一人当たり国庫義務教育支出を用いた。推計期間は2005年から2014年の10年間(図表8)。また、被説明変数として採用した、老人福祉費と義務教育支出は、年金などと違い都道府県ごとに裁量が働き有権者の意向を反映しやすいという特徴がある。
7 2008年の「子ども手当」が議論された時期を境に現役世代向け支出が増加し、支出構造を示す高齢者向け支出対現役世代向け支出は低下している。しかし、借金を前提に成り立っている現役世代向け支出の増加をもって、高齢者と若者への割り振りの是正は行われているとは言いがたい。そのため国レベルにおいて、社会保障費の支出構造からシルバー民主主義の存在を判断することは困難だと考える。
(2018年03月23日「基礎研レポート」)
清水 仁志
清水 仁志のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2022/03/22 | 高齢化の企業利益への影響-産業別マクロ統計を用いた推計 | 清水 仁志 | 基礎研レポート |
2021/10/25 | 公定価格の見直しによる給料引き上げは適切か、その財源は | 清水 仁志 | 基礎研レター |
2021/09/07 | 成果主義としてのジョブ型雇用転換への課題-年功賃金・終身雇用の合理性と限界 | 清水 仁志 | 基礎研マンスリー |
2021/07/02 | 成果主義としてのジョブ型雇用転換への課題-年功賃金・終身雇用の合理性と限界 | 清水 仁志 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年05月01日
米GDP(25年1-3月期)-前期比年率▲0.3%と22年1-3月期以来のマイナス、市場予想も下回る -
2025年05月01日
ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 -
2025年04月30日
2025年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~ -
2025年04月30日
「スター・ウォーズ」ファン同士をつなぐ“SWAG”とは-今日もまたエンタメの話でも。(第5話) -
2025年04月30日
米中摩擦に対し、持久戦に備える中国-トランプ関税の打撃に耐えるため、多方面にわたり対策を強化
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【シルバー民主主義と若者世代~超高齢社会における1人1票の限界~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
シルバー民主主義と若者世代~超高齢社会における1人1票の限界~のレポート Topへ