2018年03月23日

シルバー民主主義と若者世代~超高齢社会における1人1票の限界~

総合政策研究部 研究員   清水 仁志

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1――はじめに

シルバー民主主義とは一般に「高齢者優遇の政治により必要な改革が阻止される現象」と定義されることが多い。昨年話題になった、経済産業省・次官若手プロジェクト「不安な個人、立ちすくむ国家」においても、「シルバー民主主義を背景に大胆な改革は困難と思い込み、誰もが本質的な課題から逃げているのではないか。」とある。

昨年の10月22日の第48回衆議院議員総選挙では、幼児教育の無償化や高等教育の負担軽減など、高齢者中心の社会保障を低所得者・若年者に向ける「全世代型社会保障」が争点として浮上したのも、シルバー民主主義に端を発する世代間格差の拡大が背景にあると言われている。

2016年の英EU離脱の国民投票においては、残留派の割合が高い若者の意見は、離脱派の割合が高い高齢者に押し切られる形となった。

選挙は民主主義の基本理念である「1人1票」と「多数決」の原則に則り実施される。少子高齢化が進む日本では、高齢者の割合が高くなり、その政治的プレゼンスが大きい層に政治家が配慮するのは当然のことである。しかし、日本の将来を考えた場合、受益を優先する高齢者の意向を優先させ、人口構成上ますます少数派に転じる若者世代などの声を多数決の原則によりばっさりと切り捨ててよいものなのか。

本稿では、社会保障の現状、シルバー民主主義が発生する要因と存在の検証をした上で、筆者が考える解決策について述べたい。
 

2――国際比較でみた日本の高齢者優遇

2――国際比較でみた日本の高齢者優遇

(図表1)は日本の社会保障費の推移を表している。1980年以降増加傾向にあり、その大部分を占めているのが高齢者向け支出だ。高齢化の進展に伴い高齢者向け支出は増加してきたが、高齢者1人当たりに換算すると、最近では減少傾向にある。

1人当たりの高齢者向け支出が2002年を境に減少傾向になっていることから、一見シルバー民主主義と逆行しているようにみえる。しかし、そのことを判断するにはGDPや国民所得、後期高齢者の割合などのその他の要因を考慮する必要がある。実際に1人当たり高齢者向け支出は、名目GDPのトレンドとおおよそ一致していることから、最近の減少傾向は日本の成長率低下が主な理由であると考えられる。

次に高齢者と現役世代の支出構造を確認する。国際的に見ると日本の1人当たりの高齢者向け支出は金額では決して高い水準にあるとは言えない。一方で、現役世代向け支出1の対比でみた場合、日本15倍、米国20倍、英国4倍、ドイツ6倍、フランス7倍と高齢者優遇の支出構造となっていることが分かる(図表2)。
(図表1)社会保障費の推移/(図表2)社会保障費の国際比較(2013)
 
1 1人当たり現役世代向け支出は、家族関係、住宅、労働移動、失業の合計を生産年齢人口で除した値
 

3――シルバー民主主義の環境要因

3――シルバー民主主義の環境要因

1|有権者の高齢化
日本は世界で高齢化が最も進んでいる国だ。少子高齢化により、相対的に高齢者の割合は高まっている。WHO(世界保健機構)では全人口に占める65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)が14%以上で「高齢社会」、21%以上で「超高齢社会」と定義されているが、日本は2007年に21%を超え、世界で初の超高齢社会となり、その比率は現在も右肩上がりに増加している。高齢化率が上昇すれば、全有権者に占める高齢者の割合も高まり、その政治的プレゼンスが大きくなる。政治家が高齢者に配慮した政策を優先的に打ち出す背景はここにある。

(図表3)は年齢別の有権者の割合を示している。1950年には全有権者のうち「若者世代2」の割合は50%を超えていたが、2015年には30%弱まで低下している。逆に、「高齢世代」の割合は14%から40%に上昇している。また、2050年には、有権者の半分以上が「高齢世代」になることが予想される3
(図表3)高齢化率と年齢別有権者割合
 
2 「若者世代」=2,30歳代、「中間世代」=4,50歳代「高齢世代」=60歳代以上とする。
3 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来人口推計(平成29年推計)」より推計
2|世代間の投票率格差:若者ほど低い投票率
高齢化に加え、若者の投票率の低さが、高齢者の政治的プレゼンスをより一層高めている。(図表4)は世代別の衆院選の投票率を表している。どの年代においても全体的に低下傾向にあり、国民の選挙あるいは政治に対する関心が低下してきていることがうかがわれる。しかしここで問題なのは、若者世代の投票率が高齢世代の投票率よりも一貫して低く、その差は拡大傾向にあるということだ。1969年の第32回衆議院議員総選挙では、若者世代と高齢世代の投票率の差は7%だったが、14年の第47回衆議院議員総選挙では、25%にまで拡大している。

有権者に占める高齢世代割合の増加に加え、高齢世代の投票率が相対的に高いことで、総投票数に占める高齢世代の投票シェアは一層高くなる。69年の衆院選の際には、投票数全体に占める高齢世代の投票シェアは20%に満たなかったが、14年の衆院選の際には、約半数を占めるまでに上昇している。逆に、若者世代のシェアは年々減少しており、69年に約半数あったものが、14年には19%まで低下している。また、直近の投票率が今後続くと仮定すると、高齢化の進展により、高齢世代の投票数シェアはますます増加していくことが予想される(図表5)。
(図表4)年齢別投票率/(図表5)投票者数に占める年代ごと投票数
(図表6)高齢者と若者の投票率の差 若者の投票率が低いことは日本に限ったことではない。(図表6)は各国の高齢者と若者の投票率の差を表している。ほとんどの国で日本と同じく若者の投票率は高齢者の投票率を下回っている。しかし、日本の高齢者と若者の投票率の差は国際的に見ても大きい。市村(2012)では、若者に選挙に行かない理由をアンケート調査した結果、その理由は「選挙、政治に対して無関心とするもの」、「政治、選挙側に問題があると非難するもの」に大別されると述べている。また、有権者全体を調査対象とした明るい選挙推進協会「第17回統一地方選挙全国意識調査」の調査結果と比較分析し、「本アンケートでの20歳代の意見では、政治への不信感が非常に強いこと、1票の影響力がないことが大きな理由とされていることが全体とは異なっている。」と指摘している。
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総合政策研究部   研究員

清水 仁志 (しみず ひとし)

研究・専門分野
日本経済、労働市場

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