2018年03月02日

2期目の黒田日銀で想定される4つのシナリオ~次の5年も険しい道のり

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2.日銀金融政策(2月):政府が次期日銀正副総裁人事を提示

(日銀)現状維持
2月は金融政策決定会合が予定されていない月であったため、必然的に金融政策は現状維持となった。次回会合は3月8~9日に開催される予定。
 
2月16日に、政府は4月8日に任期満了を迎える黒田総裁を再任する国会同意人事案を提示した。同時に、3月19日に任期満了を迎える両副総裁の後任に、雨宮正佳日銀理事と若田部昌澄早稲田大教授を充てる人事案を示した。雨宮氏は長年金融政策の企画・立案に携わってきた「日銀のエース」、若田部氏は金融緩和の拡大を唱える「リフレ派の論客」と目されている。本日から来週8日にかけて衆・参議院で所信聴取が行われ、今月中旬までに本会議での採決が行われる見通し。
短期政策金利の見通し/長期金利誘導目標の見通し
今後の金融政策については、物価目標の達成が見通せない状況が続くため、長期にわたり現行緩和の維持が続くと予想している。なお、現行の枠組みのなかで副作用を抑制するために日銀はいずれ小幅な金利上昇を促す調整を行うとの予想に変更はないが、最近の円高進行を受けて実施のハードルが上がった。調整のタイミングは後ズレし、少なくとも年末頃までは金利上昇を許容しないだろう。ETF買入れについても減額に踏み切りにくくなり、しばらく現状維持を続けざるを得ない。

なお、今回の日銀正副総裁人事は、当面の金融政策には大して影響を及ぼさないだろう。黒田総裁以下、日銀執行部の大半が現行政策の維持を支持してきたなかで、黒田総裁の再任と雨宮理事の副総裁昇格が決まったことで、現行政策の連続性が担保される。

ただし、若田部新副総裁の対応は不透明要因になる。同氏は現行政策には関わっていないうえ、直近まで追加緩和を主張してきた。今後、毎回反対することは考えにくいが、大幅な円高や景気後退懸念が高まる際に、追加緩和を積極的に主張する可能性がある。また、副作用よりも効果を重視し、緩和の縮小や出口戦略開始の判断を遅らせる方向に影響を与えるということも考えられる。
 

3.金融市場(2月)の振り返りと当面の予想

3.金融市場(2月)の振り返りと当面の予想

(10年国債利回り)
2月の動き 月初0.0%台後半でスタートし、月末は0.0%台半ばに。     
月初、米金利上昇の波及により0.1%の節目に接近したが、日銀による国債買入れ増額と指し値オペ実施を受けてやや低下。その後は米金利上昇による金利上昇圧力と、(米金利上昇による)世界的な株安に伴う金利低下圧力が拮抗し、0.0%台後半での膠着した推移となる。以降も円高の進行、日銀正副総裁人事の国会提示を受けて緩和縮小観測が後退し、16日には0.0%台半ばへと低下。さらに月の下旬には年度末を控えた機関投資家による債券需要の高まりを受けて、0.0%台前半へと低下。月末はやや戻り、0.0%台半ばで終了した。

当面の予想
今月に入っても、年度末を控えた機関投資家による債券需要が強いなか、トランプ政権による鉄鋼・アルミの輸入制限措置導入表明を受けたリスク回避の高まりで金利は低下し、足元は0.0%台前半で推移している。今後もしばらく株価下落や米保護主義に対する市場の警戒が続くことが、長期金利の抑制に働く可能性が高い。当面は0.0%台前半から半ばでの推移が予想される。
日米独長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化/日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(2月)
(ドル円レート)
2月の動き 月初109円台前半でスタートし、月末は107円台前半に。
月初、米国の3月利上げ観測や日銀の指値オペ実施を受けてドルがやや買い戻され、5日に110円を回復したが、雇用統計を受けた米金利上昇発の世界的な株安でリスク回避の円買いが発生し、6日には108円台後半に下落。以降はしばらく108円台~109円台での推移となったが、リスク回避地合いの中で米国の財政赤字拡大、悪い金利上昇が意識されてドル売りが加速し、16日には105円台後半まで下落した。一方、その後は株安の一服やパウエル新FRB議長の議会証言を控えたポジション調整からややドル高となり、107円を挟んだ一進一退の展開に。月末はパウエル議長の議会証言でタカ派的な発言が目立ったことでドルがやや買い戻され、107円台前半で終了した。

当面の予想
今月に入り、トランプ政権による鉄鋼・アルミの輸入制限措置導入表明を受けてリスク回避の円買いが進み、足元は105円台後半で推移している。今後もしばらく株価下落や米保護主義に対する市場の警戒が続くことで、円高圧力の強い状況が続きそうだ。米国のファンダメンタルズが崩れない限り、市場が落ち着いた段階でドルが戻りを試すと見ているが、しばらく時間がかかりそうだ。少なくとも、今月21日のFOMCを通過するまでは、神経質な展開が予想される。
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
(ユーロドルレート)
2月の動き 月初1.24ドル台後半からスタートし、月末は1.22ドル台前半に。
月初、1.24ドル台で推移した後、世界的な株安を受けてドル買いユーロ売りが進み、6日に1.23ドル台へ、8日には1.22ドル台に下落した。その後は株安一服を受けてユーロが買い戻され、15日には1.24ドル台後半となったが、ポジション調整的なユーロ売りや米景気への強気の見方が示されたFOMC議事要旨を受けたドル買いにより、21日には1.23ドル付近へ戻る。月末はパウエルFRB議長の議会証言を受けてドルがやや買われ、1.22ドル台前半で終了した。

当面の予想
今月に入り、米長期金利がやや低下したことを受けてドルが売られ、足元は1.22ドル台後半で推移している。最近のユーロはリスク選好通貨の色彩を帯びており、リスク回避局面ではドルに対して売られやすい(ちなみにその際に円はドル以上に買われやすい)。今後も世界的な株価下落等に対する市場の警戒が続くとみられ、当面ユーロドルの上値が重い状況が続きそうだ。目先の焦点は、3月4日に行われるイタリア総選挙の行方と同日に判明する独連立政権樹立を問うSPD党員投票の結果だ。イタリア、ドイツの政局混乱をもたらす結果となれば、ユーロはもう一段下落すると見込まれる。
金利・為替予測表(2018年3月2日現在)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2018年03月02日「Weekly エコノミスト・レター」)

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