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生活保護受給者には医療が無償提供されるの?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――生活保護受給者と医療
2――生活保護受給者の増加
1 「平成26年版厚生労働白書」(厚生労働省)では、「(生活保護受給者の)増加の要因は、就労による経済的自立が容易でない高齢者世帯等が増加するとともに、厳しい社会経済情勢の影響を受けて、失業等により生活保護に至る世帯を含む世帯が急増している(略)こと等によると考えられる。」とされています。(第2部第4章 第1節 2 生活保護の現状と課題 より抜粋)
3――生活保護受給者に対する医療扶助の現状
2 この他、国民健康保険には未納者がいる点に注意が必要です。国民健康保険の保険料収納率は、2014年度に90.95%(「平成 26年度 国民健康保険(市町村)の財政状況について(速報)」(厚生労働省)より) で、約9%の被保険者が未納となっています。保険料の滞納が続くと、保険証が回収され、医療機関窓口でいったん医療費全額を負担する必要が生じることがあります。
生活保護受給者は、国民健康保険制度や後期高齢者医療制度が適用除外となります3。その代わり、医療扶助として、原則、医療費がすべて支給されます。ただし、母子保健法や障害者総合支援法等の公費負担医療が適用される人や、被用者保険の被保険者・被扶養者は、各制度で給付されない部分が、医療扶助の給付対象となります。
3 一方、介護については、被保護者が40~64歳で医療保険未加入の場合、公的介護保険制度にも加入せず、要介護時には介護扶助が支給されます。被保護者が65歳以上の場合や、40~64歳で医療保険に加入している場合、公的介護保険制度に加入することとなります。その場合の保険料は、生活扶助の一部として支給されます。また、要介護時に公的介護保険制度から給付されない自己負担分は、介護扶助として支払われます。
被保護者が医療を受けるためには、福祉事務所に申請をする必要があります4。申請を受けた福祉事務所は、医療扶助の適否を判断するための資料として、申請者に対して医療要否意見書(以下、「意見書」)を発行します。
申請者は、指定医療機関で意見書に記入をしてもらい、福祉事務所に提出します。意見書は、1医療機関につき1枚必要です。外来では6ヵ月ごと、入院では1回の入院ごとに1枚必要となります。入院が6ヵ月を超えた場合には、そのつど必要となります。福祉事務所は、意見書の内容を精査し、医療の要否を検討します。併せて、障害者総合支援法等の他の法律の適用を確認し、申請者の生活状況などを総合的に判断した上で、医療扶助の決定を行っています。
医療扶助が決定された場合は、入院、入院外、歯科、調剤等の必要な医療の種類に応じて、医療券や調剤券が発行されます。医療券は暦月単位で発行され、有効期間や、指定医療機関が記載されます。調剤券には指定調剤薬局名が記載されます。
4 ただし、緊急を要する場合で、保護の必要があると認められれば、申請がなくても必要な保護が行われます。
医療扶助の対象範囲は、基本的に、国民健康保険と同じ内容となります5。例えば、入院費は支給されますが、本人希望で個室等に移る場合は、差額ベッド代は自己負担となります6。また、先進医療等の保険外併用療養費に関する医療は、原則として医療扶助は適用されません。
国民健康保険との違いは、指定医療機関での受診が必要な点です7,8。指定医療機関以外で受診すると、患者の全額自己負担となります。つまり、医療扶助では、医療へのアクセスが制限されるのです。
5 (1)診察、(2)薬剤又は治療材料、(3)医学的処置、手術及びその他の治療並びに施術、(4)居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護、(5)病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護、(7)移送が対象となります。
6 しかし、病院側が治療に必要と判断した場合は、医療扶助の範囲内となります。
7 医療扶助の場合、複数の病院で、同時に同じ科を受診することはできません。例えば、ある病院で受診しながら、別の病院で、セカンドオピニオンを聞くようなことはできません。
8 ただし、緊急を要する場合には、医療券を持たない被保護者でも、受診後に届け出る等の取り扱いが認められることが一般的です。(具体的な手続きは、自治体により異なります。)
4――生活保護受給者に対する医療の課題
1|生活保護受給者の精神疾患改善対策や、健康管理の推進が重要です
生活保護受給者は、かかりやすい病気に、特徴があります。まず、入院について、医療扶助は、後期高齢者医療や一般保険医療に比べて、精神・行動障害の割合が高いのです。これは、精神疾患を患った結果、収入が得られず、生活保護を受けるケースが多いためとみられます9。この結果、医療扶助の受給金額は、入院が入院外の2.1倍と、後期高齢者医療や一般保険医療に比べて高くなっています。精神療法、作業療法、生活技能訓練など、リハビリテーションを進めて、精神疾患の改善を図ることが重要と考えられます。
一方、入院外では、後期高齢者医療と同様に、循環器系疾患の割合が高いという特徴があります。内分泌・栄養・代謝や、筋骨格系・結合組織の疾患の割合も高水準です。高血圧、糖尿病や、高齢期フレイルの患者が多いことを示唆しています。生活習慣病予防や介護予防等により、ある程度、予防や重症化防止が可能でしょう。日常生活での健康管理を、更に充実させることが重要と考えられます。
9 一般に、精神科では、患者の入院が長期化しやすいとされます。長期の入院をする患者がいる世帯では、「世帯分離」が行われることがあります。世帯分離は、入院患者だけが保護を受け、他の家族は、保護を受けずに自立した生活を送るために、家族間で世帯を分けることを指します。精神科では、世帯分離をした上で、入院患者が生活保護を受給することがあります。
医療扶助には、原則として自己負担がありません。かかった医療費は、すべて扶助から支給されます。このため、診療と医薬品処方の両面で、医療の過剰診療を招きやすいという問題があります10。
(診療) 医科、歯科の診察費や、保険診療内の治療費、手術費は医療扶助の対象となります。これには、リハビリテーションも含まれます。患者としては、医療を受けても、金銭面の負担がありません。このため、高頻度入院や、外来での頻回受診が発生しやすくなります。
(医薬品) 保険薬局等で処方される医薬品にも、患者負担がありません。このため、患者に、医薬品を減らすインセンティブは働きません。その結果、ジェネリック医薬品の使用が進まない恐れがあります。また、精神疾患では、向精神薬等の重複処方が生じやすくなります。
10 生活保護制度では、不正請求の問題が取り沙汰されています。2014年の生活保護法改正では、不正・不適正受給対策の強化が、改正内容の主要項目とされました。これにより、福祉事務所の調査権限の拡大や、罰則の引上げ・不正受給に係る返還金の上乗せ、本人の事前申出を前提とした保護費との相殺などの規定が整備されました。
5――おわりに
(2018年04月23日「基礎研レター」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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