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- トランプ政権のインフラ投資計画-2,000億ドルの連邦政府支出を呼び水に、1.5兆ドルのインフラ投資の実現は可能か
2018年02月16日
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3.トランプ政権のインフラ投資計画の概要
(連邦政府支出の内訳)今後10年間で2,000億ドルの歳出を要求
今回提示されたインフラ投資計画では、連邦政府自身の支出は2,000億ドルに留まっており、残りの1.3兆ドルは州・地方政府、および民間資金に頼っている所に特徴がある。2,000億ドルの支出の内訳は、1,000億ドルが州・地方政府、民間部門に対してインフラ投資の20%を上限に補助金を支給するインセンティブ補助金となっており、残りの500億ドルが地方のインフラ投資のための補助金、200億ドルが将来の国民生活に大きな恩恵をもたらしうる斬新なプロジェクトに対して80%を上限に支給する補助金、140億ドルが現行の連邦融資制度の増額と対象インフラの拡大、100億ドルが長期でリースしている資産を連邦政府が購入するための基金、残り60億ドルが非課税の民間活動債券(PAB)となっている(図表5)。
今回提示されたインフラ投資計画では、連邦政府自身の支出は2,000億ドルに留まっており、残りの1.3兆ドルは州・地方政府、および民間資金に頼っている所に特徴がある。2,000億ドルの支出の内訳は、1,000億ドルが州・地方政府、民間部門に対してインフラ投資の20%を上限に補助金を支給するインセンティブ補助金となっており、残りの500億ドルが地方のインフラ投資のための補助金、200億ドルが将来の国民生活に大きな恩恵をもたらしうる斬新なプロジェクトに対して80%を上限に支給する補助金、140億ドルが現行の連邦融資制度の増額と対象インフラの拡大、100億ドルが長期でリースしている資産を連邦政府が購入するための基金、残り60億ドルが非課税の民間活動債券(PAB)となっている(図表5)。
(その他のポイント)許認可の迅速化、政府資産売却、職業訓練などに言及
上記の6項目以外には、これまで平均10年かかっていたインフラ計画の許認可について、環境規制の緩和に加え、新たな政府機関が一括して対応することで2年に短縮することを盛り込んだ。
また、鉱物やエネルギー関連の収入を主な財源にした国有地インフラ基金を国務省内に設立して国有公園などのインフラ投資に充当することや、不要な国有資産の売却なども盛り込まれた。
さらに、今回のインフラ投資計画では、米国に投資する上で最も重要な資産は人材であるとして、職業訓練プログラムの強化などの人材育成策も盛り込まれた。
上記の6項目以外には、これまで平均10年かかっていたインフラ計画の許認可について、環境規制の緩和に加え、新たな政府機関が一括して対応することで2年に短縮することを盛り込んだ。
また、鉱物やエネルギー関連の収入を主な財源にした国有地インフラ基金を国務省内に設立して国有公園などのインフラ投資に充当することや、不要な国有資産の売却なども盛り込まれた。
さらに、今回のインフラ投資計画では、米国に投資する上で最も重要な資産は人材であるとして、職業訓練プログラムの強化などの人材育成策も盛り込まれた。
(インフラ投資計画の評価)州・地方政府、民間資金を活用したインフラ投資拡大は疑問
これまでみたように、米国内のインフラ投資は主に州・地方政府が担っている。今回のインフラ投資計画では、許認可期間の迅速化などの方策は取られるものの、インフラ投資に係る州・地方政府の負担を増加させる内容となっている。このため、実際に州・地方政府などがインフラ投資を増加させるのか、その実現性に疑問の声も挙がっている。
現在、州際道路など連邦政府が出資する道路建設では、連邦政府負担が8割、州政府負担が2割となっている。また、鉄道などの大量輸送プロジェクトでは連邦政府と州政府が5割ずつ負担することになっている。今回の計画では、連邦政府の負担を2割に削減する一方、州・地方政府の負担は逆に8割に増加することになるため、州・地方政府の財政負担の増加が見込まれる。
全米予算担当者協会(NASBO)によれば2、17年度の歳入実績が当初予算を下回ったのが27州と10年(36州)以来の多さとなったとしており、州政府には財政拡大余地が乏しいのが現状だ。
トランプ政権は、補助金を支給する際に州・地方政府などが不動産税や、インフラ利用料の引き上げなどを通じて歳入を増加させることを求めているが、実際にどの程度の州・地方政府が歳入増加策を採用して、インフラ投資を拡大するのか予想するのは難しい。
2 “SUMMARY: FALL 2017 FISCAL SURVEY OF STATES” https://higherlogicdownload.s3.amazonaws.com/NASBO/9d2d2db1-c943-4f1b-b750-0fca152d64c2/UploadedImages/Issue%20Briefs%20/Summary_-_Fall_2017_Fiscal_Survey.pdf
これまでみたように、米国内のインフラ投資は主に州・地方政府が担っている。今回のインフラ投資計画では、許認可期間の迅速化などの方策は取られるものの、インフラ投資に係る州・地方政府の負担を増加させる内容となっている。このため、実際に州・地方政府などがインフラ投資を増加させるのか、その実現性に疑問の声も挙がっている。
現在、州際道路など連邦政府が出資する道路建設では、連邦政府負担が8割、州政府負担が2割となっている。また、鉄道などの大量輸送プロジェクトでは連邦政府と州政府が5割ずつ負担することになっている。今回の計画では、連邦政府の負担を2割に削減する一方、州・地方政府の負担は逆に8割に増加することになるため、州・地方政府の財政負担の増加が見込まれる。
全米予算担当者協会(NASBO)によれば2、17年度の歳入実績が当初予算を下回ったのが27州と10年(36州)以来の多さとなったとしており、州政府には財政拡大余地が乏しいのが現状だ。
トランプ政権は、補助金を支給する際に州・地方政府などが不動産税や、インフラ利用料の引き上げなどを通じて歳入を増加させることを求めているが、実際にどの程度の州・地方政府が歳入増加策を採用して、インフラ投資を拡大するのか予想するのは難しい。
2 “SUMMARY: FALL 2017 FISCAL SURVEY OF STATES” https://higherlogicdownload.s3.amazonaws.com/NASBO/9d2d2db1-c943-4f1b-b750-0fca152d64c2/UploadedImages/Issue%20Briefs%20/Summary_-_Fall_2017_Fiscal_Survey.pdf

昨年12月に成立した税制改革法によって、連邦政府の債務残高(GDP比)は、足元の8割弱の水準から10年後には10割近くに増加することが見込まれている(図表6)。このため、債務残高を増加させる政策については与党共和党を中心に議会からの反発が予想される。
今回提示されたインフラ投資計画の連邦政府支出額である2,000億ドルについて、具体的な財源は提示されていない。トランプ政権は税制改革の実現に伴い成長率が高まることで歳入増が見込まれるとしているほか、交通省をはじめ非効率な歳出の削減によって捻出するとしている。なお、歳出削減として挙げられている項目には、オバマ前政権時代に開始され、州や地方政府を対象に実施されている交通インフラに対する助成プログラムであるTIGER(The Transportation Investment Generating Economic Recovery)なども含まれている。
一方、今回のインフラ投資計画とは関係なく、連邦政府のインフラ投資のための財源は枯渇が懸念される状況である。連邦政府は、道路や公共交通機関などの建設費用をガソリンなどの燃料税を財源とする特別会計である道路信託基金(HFT)から捻出している。

トランプ大統領はインフラ投資の財源を確保するために、民主党が求めるガソリン税率を1ガロン当り25セント引き上げることに一定の理解を示しているが、共和党議員や実業界にはガソリン税率の引き上げは経済に悪影響を及ぼすとして反対の立場を示しており、HFTの財源問題は、今後のインフラ投資計画実現のための財源確保とも絡んで議論の難航が予想される。
いずれにせよ、税制改革に伴って債務残高が大きく増加することが見込まれる中で、既存のインフラ投資の財源すら充分とは言えない状況で、どのように2,000億ドルの財源を確保するのか非常に不透明な状況である。
3 “Projections of Highway Trust Fund Accounts – CBO’s June 2017 Baseline
https://www.cbo.gov/sites/default/files/recurringdata/51300-2017-06-highwaytrustfund.pdf
4.今後の見通し
トランプ大統領は今年の重要政策課題としてインフラ投資を掲げており、今後、インフラ投資に関する議論が本格化するとみられる。
財政赤字の拡大が見込まれるインフラ投資の拡大は、議会共和党は消極的であり、寧ろ連邦政府支出を増加させてインフラ投資を拡大したい野党民主党と政策の親和性は高い。
しかしながら、枯渇が懸念されるHFTの財源問題も含め、インフラ投資の財源をどのように確保するのか、インフラ投資計画の実現には非常に困難な問題を抱えている。
また、米国では11月に中間選挙を控えているため、中間選挙前にインフラ投資で与野党が政策協調することは困難とみられる。さらに、中間選挙で仮に民主党が上下院ともに過半数を確保できた場合に、インフラ投資計画に対してどのような政治スタンスを採るのか不透明である。
そう考えると、実業界をはじめインフラ投資に対する要望は強いものの、トランプ政権が目指すインフラ投資計画がそのままスムーズに実現する可能性は低いとみられる。
財政赤字の拡大が見込まれるインフラ投資の拡大は、議会共和党は消極的であり、寧ろ連邦政府支出を増加させてインフラ投資を拡大したい野党民主党と政策の親和性は高い。
しかしながら、枯渇が懸念されるHFTの財源問題も含め、インフラ投資の財源をどのように確保するのか、インフラ投資計画の実現には非常に困難な問題を抱えている。
また、米国では11月に中間選挙を控えているため、中間選挙前にインフラ投資で与野党が政策協調することは困難とみられる。さらに、中間選挙で仮に民主党が上下院ともに過半数を確保できた場合に、インフラ投資計画に対してどのような政治スタンスを採るのか不透明である。
そう考えると、実業界をはじめインフラ投資に対する要望は強いものの、トランプ政権が目指すインフラ投資計画がそのままスムーズに実現する可能性は低いとみられる。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2018年02月16日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1999年 NLI International Inc.(米国)
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
2014年10月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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