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病床削減に向けて県の権限は強まるか?-非稼働病床を中心に今後の方向性を考える

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳
厚生労働省は2018年度からの医療計画改定に併せて、地域医療構想の進め方について、医療計画の見直し等に関する検討会ワーキンググループで議論を重ね、昨年12月に「進め方」を公表した。
「進め方」によると、各都道府県に対して、地域医療構想の推進に関する「具体的対応方針」を毎年度に策定するよう要請しており、具体的対応方針には調整会議での合意をベースにしつつ、2025年を見据えた医療機関の役割や病床数を盛り込む必要性とともに、公的医療機関の役割を明らかにすることも求めた。
さらに、本レポートで考察している都道府県の権限行使に関して、「進め方」は表2のような内容を定めた。ここの部分に絞って考察すると、医師や看護師を確保できないなどの理由で稼働していない非稼働病床に関しては、全ての病床が1年間稼働していない病棟を有する医療機関を把握した場合、都道府県は当該医療機関に対し、調整会議への出席を速やかに促すとともに、(1)病棟が稼働していない理由、(2)病棟の今後の運用見通しに関する計画―について説明するよう求めると定めた8。
その上で、稼働していない病床を維持する正当な理由がないにもかかわらず、要請を受けた医療機関が措置を講じない場合、都道府県医療審議会の意見を聴いた上で、当該措置を講ずべきことを勧告するとともに、命令または勧告を受けた医療機関が従わなかった場合、その旨を公表するとしている。
次に、過剰病床の取り扱いである。新たに病床を整備したり、開設者を変更したりする医療機関を把握した場合、都道府県は医療機関に対し、調整会議に出席することを求め、地域医療構想との整合性を確認するとしている。具体的には、(1)病床の整備計画と将来的な病床数の必要量との関係性、(2)新たに整備される病床が担う病床の機能と、構想区域における病床の機能区分ごとの将来の病床数の必要量との関係性、 (3)当該医療機能を担う際の雇用計画や設備整備計画の妥当性―などの点であり、開設許可前の段階で説明を求める必要性を示した。
さらに、(1)新たに整備される病床が担う医療機能が当該構想区域で不足する以外の機能となっている、(2)当該構想区域における不足する医療機能について、機能転換に向けた既存医療機関の将来的な意向を考慮しても充足する見通しが立たない―といった場合、都道府県は調整会議の意見を聴いた上で、病床を整備しようとする医療機関に対して、開設許可に際して不足する医療機能の提供を条件として付与するほか、正当な理由がないにもかかわらず、その医療機関の開設者や管理者が条件に従わない場合、都道府県医療審議会の意見を聴いた上で、期限を定めて当該条件に従うよう勧告するなどとした。
「進め方」は調整会議による協議、都道府県医療審議会の議論を経ることを強調しているが、都道府県の権限行使を一つの方策として挙げた点は注目に値する。
さらに、地域医療構想に基づく2025年の必要病床数に達している地域で、医療機関が病床の新設・増床を申請した場合、都道府県が許可しないことができるようにする法改正が検討9されており、地域医療構想を進める際の方策として、都道府県の権限行使がクローズアップされている。
8 ただ、病院・病棟を建て替える場合など事前に調整会議の協議を経て、具体的対応方針を決まっているケースについては、対応を求めなくても良いとした。
9 2017年1月23日『毎日新聞』。
3――権限行使を巡る関係者の動向
では、地域医療構想の推進のために「強化」されたとする都道府県の権限行使は当初、どのように考えられていただろうか。実は、法改正した時点で厚生労働省は前向きとは言えなかった。当時の厚生労働省幹部は比喩として「懐に武器を忍ばせている」と述べつつ、「(例:権限を)実際に使うことを想定しているわけではない」と述べていた10。

地域医療構想を策定した各都道府県も積極的な対応とは言えなかった。地域医療構想の文言を精査したところ、都道府県の権限に言及したのは図2の通り、11道府県にとどまった。
こうした都道府県の対応の背景には、地元医師会に対する配慮があったと考えられる。先に触れた通り、日本医師会は都道府県主導による病床削減に懸念を示していた上、むしろ在宅医療の整備などに際しては、地元医師会の協力が欠かせないため、都道府県としては、地元医師会と連携することで切れ目のない提供体制を構築しようという雰囲気が強かったと思われる。
つまり、厚生労働省、日本医師会、都道府県は総じて都道府県による権限行使に消極的だったと言える。
10 2014年4月23日第186回国会衆議院厚生労働委員会における原徳壽医政局長の答弁。
11 2014年5月7日第186回国会衆議院厚生労働委員会における中川俊男日本医師会副会長の発言。
これに対し、経済財政諮問会議(議長:安倍晋三首相)や財務省は都道府県の権限行使に期待感を示していた。まず、経済財政諮問会議では、地域医療構想による病床削減を通じて医療費適正化を進めようとしており、昨年6月に閣議決定された「骨太方針2017」では地域医療構想の実効性を高めるため、「調整会議の具体的議論を促進する」「病床の役割分担を進めるためのデータを国から提供し、個別の病院名や転換する病床数などの具体的対応方針の速やかな策定に向けて、2年間程度で集中的な検討を促進する」と規定し、具体的な議論が進まない場合に備えるため、「都道府県知事がその役割を適切に発揮できるよう、権限の在り方について、速やかに関係審議会等において検討を進める」と定めていた。
この点については、経済財政諮問会議を中心に2015年12月に策定した「経済・財政再生アクション・プログラム」でも同じである。具体的には、「2014年の法律改正で新たに設けた権限の行使状況などを勘案した上で、関係審議会等において検討し、結論。検討の結果に基づいて2020年央までに必要な措置を講ずる」との考えを盛り込んでおり、毎年末に改定される工程表でも同じ表現が踏襲されている。
財務省も都道府県の権限強化を求めている。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)が年2回まとめる建議(意見書)に盛り込まれた文言の変遷を見ると、病床過剰地域で病床を新設しても健康保険法の保険医療機関として認めない医療計画制度と同じ手法に傾斜しつつ、都道府県の権限強化を求めていることが分かる。
以下、建議の文言を詳しく見ていこう。まず、2014年12月の建議では「権限の的確な行使のための環境整備」という表現にとどまっていたが、2015年6月の建議で「勧告に従わない病院の報酬単価減額などの措置」に言及した。これは都道府県の勧告に従わない民間医療機関に対し、1点10円の報酬単価を引き下げることで、都道府県が病床削減を進めることに期待感を示した文言と言える12。
さらに、2015年11月の建議では「保険医療機関の指定に係る都道府県の権限の一層の強化といった課題に明確な実施期限を設定して取り組んでいく必要がある」と指摘しており、「保険医療機関の指定」という文言が登場する。その後も「民間医療機関への保険医療機関の指定等にあたり、他施設への転換命令等を付与するなど、医療保険上の指定に係る都道府県の権限を一層強化すべき」(2016年11月)、「要請・勧告に応じない場合に保険医療機関の指定をしないことを可能とするなど、医療機能の転換等に係る民間医療機関への都道府県知事の権限を強化すべき」(2017年5月)などと、主張を具体化させた。
こうして見ると、財務省は医療費適正化を図る観点に立ち、病床削減に関する都道府県の権限強化を主張するだけでなく、地域医療構想に基づく病床削減を進める方法論として、医療計画制度で用いている手法、つまり保険医療機関に指定しない方法を求めている様子が見て取れる。厚生労働省が「進め方」の作成に際して、4年前は「想定していない」と述べていた権限行使に言及することになった一因として、こうしたプレッシャーがあったことは間違いないだろう。
12 併せて、2015年6月の建議では高齢者医療確保法第14条に言及しつつ、医療費の地域差を解消するため、都道府県独自の報酬単価を設定する必要性を指摘した。これも都道府県の権限強化に位置付けられるが、本レポートでは触れない。
(2018年01月23日「基礎研レポート」)

03-3512-1798
- プロフィール
【職歴】
1995年4月~ 時事通信社
2011年4月~ 東京財団研究員
2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
2023年7月から現職
【加入団体等】
・社会政策学会
・日本財政学会
・日本地方財政学会
・自治体学会
・日本ケアマネジメント学会
【講演等】
・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)
【主な著書・寄稿など】
・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数
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