2017年11月27日

米国財務省が金融規制のための政府のコア原則に関する報告書を公表-保険業に関する勧告内容について-

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1―はじめに

米国における金融規制に関しては、トランプ政権下で、その緩和に向けた各種の見直しの検討が進められている。こうした一連の動きの中で、米国財務省は、2017年10月26日に、資産運用管理及び保険業界の現行の規制枠組みを調査し、規制の枠組みが金融規制のための政府のコア原則と一致することを確実にするように勧告する報告書「経済的機会を創出する金融システム:資産運用管理と保険(A Financial System That Creates Economic Opportunities Asset Management and Insurance)」1(以下、「報告書」という)を公表した。

今回のレポートでは、この報告書の中から、保険に関する勧告内容のうち、主として保険会社の資本規制に関連する部分の概要について報告し、併せてこの報告書に対する保険業界団体の反応について紹介する。  

2―報告書の概要

2―報告書の概要

この章では、財務省のプレスリリース資料2及び報告書のエグゼクティブサマリーに基づいて、今回の報告書の全体概要を説明する。

1|報告書の位置付け
この報告書は、2017年2月3日にトランプ大統領が発行したエグゼクティブ・オーダー(Executive Order:大統領令)13772に対応している。エグゼクティブ・オーダー13772は、財務省に対して、エグゼクティブ・オーダーに記載された金融規制のコア原則と矛盾する法令等(法律、条約、規則、ガイダンス、報告書及び記録保管要件、その他の政府方針)を特定するように求めていた。財務省は、このエグゼクティブ・オーダーに対応して一連の4つの報告書を作成することになっているが、この報告書はそのうちの第3番目の報告書である。

なお、金融規制のコア原則は、以下の通りである。

A.米国民が、市場における独立した金融上の決定と情報に基づく選択を行い、退職に備え、個人の富を築くことができるようにする。

B.納税者の支援を受けた救済措置の防止

C.モラルハザードや情報の非対称性などのシステミックリスクや市場の失敗に対応する、より厳格な規制影響分析を通じて、経済成長と活力のある金融市場を育成する。

D.米国企業が国内外の市場で外国企業と競争できるようにする。

E.国際金融規制の交渉と会議における米国の利益の促進

F.規制を効率的、効果的、適切に調整する。

G.連邦金融監督機関の公的説明責任を回復し、連邦金融規制の枠組みを合理化する。

2|報告書の対象範囲
2017年4月21日、トランプ大統領は、財務長官に2つの大統領覚書を発出した。1つは、ドッド・フランク法のTitle IIに定められているOLA(Orderly Liquidation Authority:秩序ある清算権限)の見直しを求めており、もう一つは、FSOC(Financial Stability Oversight Council:金融安定監督評議会)が、ノンバンク金融会社が、米国の金融の安定性を脅かす可能性があり、そのような会社が連邦準備制度理事会(連邦準備制度)の監督と強化されたプルデンシャル基準の対象になると決定するプロセス及びFSOCが金融市場ユーティリティ3をシステム上重要なものとして指定するプロセスを見直すように求めている。この報告書に記載されている問題のいくつかは、OLA及びFSOCの指定に関連しているが、財務省はこれらのトピックに関して、この報告書とは別の報告書を大統領に提出する、としている。

今回の報告書は、資産運用管理及び保険業界を対象としており、これらのセクターの金融機関及び商品の規制構造に関連する問題を検討している。

(参考)米国の資産運用管理及び保険業界の状況について
米国の資産運用管理及び保険業界は、活気に満ちた資本市場や多様な投資機会を促進するための世界的リーダーであり、米国民が予期せぬ出来事から自分自身、財産及びビジネスを守ることを保証している。

世界のトップ10の資産運用管理会社のうち9社が米国に本社を置いており、さらに、米国の保険市場は世界最大で、世界市場の29%のシェアを有している。
 
3 金融市場ユーティリティ(Financial Market Utilities:FMUs)は、金融機関間または金融機関とそれらのシステムの間の移転、決済及び支払設定、有価証券及びその他の金融取引に不可欠なインフラストラクチャーを提供する多国間システムである。
3|報告書の焦点と具体的な勧告内容
今回の報告書における財務省の評価は、(1)システミックリスクの適切な評価、(2)効果的な規制と政府プロセスの確保、(3)国際的関与の合理化、(4)経済成長と情報に基づく選択の促進、の4つの主要分野に焦点を当てている。

勧告を提案している具体的な項目は、以下の通りである。

(1)資産運用管理会社や保険会社が提供する商品やサービスの規制枠組みを改善するための方法
・資産運用管理及び保険業界におけるシステミックリスクの活動ベースの評価の支援
・FIO(連邦保険局)と州の保険監督当局との調整の改善
・米国の資産運用管理及び保険業界ならびに米国の規制枠組みを促進するための国際フォーラムへの継続的な関与
・国際基準設定プロセスの透明性の向上
・資産運
・ファンドの株主報告書を最新化することにより、電子開示についての黙示の同意の使用を許可
・DOL(労働省)、証券取引委員会及び州によるさらなる評価がなされるまで、DOLの受託者規則(フィデューシャリー・ルール)の実施を延期
・適切に較正された資本要件により、保険会社によるインフラ投資を促進

(2)規制や政府プロセスの効率性を改善するための方策
・登録投資会社の流動性リスク管理規則作成のためのプリンシプルベースのアプローチの採用
・「プレーンバニラ」為替取引ファンドの承認ルールの前進
・5つの焦点の柱についての連邦保険局の役割を再編成し、州の保険監督当局との調整と保険業界との透明性を改善
・連邦準備制度理事会と州の保険監督当局の調整と協調を改善することにより、保険会社を保有する貯蓄貸付持株会社の重複した非効率な監督を削減
・NAIC(全米保険監督官協会)の保険データセキュリティモデル法に基づいて、統一された州のデータセキュリティ基準と違反通知要件を採用

(3)その他の勧告事項
・投資会社の二重の登録要件を回避するための規則の改正
・事業者提供退職制度の投資オプションとして年金を認めることで、消費者の選択肢を増加
・投資顧問及び投資会社に対する法定ストレステスト要件を排除するための立法措置の支持
・介護保険に関連する政策に焦点を当てるための連邦政府機関全体のタスクフォースの招集
・HUDB(住宅都市開発省)の差別的効果ルールとその保険利用可能性への影響の再考
・テロリズムリスク保険に関する既存のデータコール間の矛盾を軽減又は排除するための保険規則の調整
・保険業界における情報共有の改善

なお、今回の報告書について、Steven T. Mnuchin財務長官は、「資産運用管理業界と保険業界の規制の枠組みを大幅に改善することができる。」とし、「退職に備える貯蓄の機会を個人に提供しつつ、消費者が必要とする商品にアクセスできるようにするため、より効率的かつ効果的な規制を勧告している。」と述べている。
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中村 亮一

研究・専門分野

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