- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 保険 >
- 欧米保険事情 >
- 米国の個人年金販売に異変? 変額年金販売額が縮小-生保会社のリスク回避と規制改定の影響-
2017年11月14日
米国の個人年金販売に異変? 変額年金販売額が縮小-生保会社のリスク回避と規制改定の影響-
3) 指数連動型年金の好業績
2016年の指数連動型年金の販売額は609億ドル、9年連続での過去最高の更新を達成した。
指数連動型年金の販売動向は、労働省のFDルールの改訂の状況に敏感に反応した。
2015年に公開されたFDルール改定案の初回版では、変額年金が厳しいルールの適用を受ける商品に分類されたのと異なって、指数連動型年金は厳しいルールの適用を免除される扱いになっていた。そのため、2015年第2四半期以降、生保会社は指数連動型年金への取り組みを強化し、指数連動型年金の成長が加速した。それまで変額年金を中心事業としていた生保会社も指数連動型年金に積極的に取組み、販売実績を挙げるようになった。この動きは2016年上期も持続した。
しかし2016年下期になると、労働省が指数連動型年金も変額年金と同様にFDルール上、厳しいルール適用の対象とする方向に改定案を変更するという予期せぬ出来事が起こった。この変更は生保会社を混乱に陥らせ、指数連動型年金の販売にネガティブに働いた。指数連動型年金の販売に急ブレーキがかかった。
このような形で下期を終えたにもかかわらず、指数連動型年金も確定利率据置型定額年金と同じく、上期の貯金が大きかったため、2016年通年の指数連動型年金販売額は対2015年60億ドルの増加を達成した。
2016年の指数連動型年金の販売額は609億ドル、9年連続での過去最高の更新を達成した。
指数連動型年金の販売動向は、労働省のFDルールの改訂の状況に敏感に反応した。
2015年に公開されたFDルール改定案の初回版では、変額年金が厳しいルールの適用を受ける商品に分類されたのと異なって、指数連動型年金は厳しいルールの適用を免除される扱いになっていた。そのため、2015年第2四半期以降、生保会社は指数連動型年金への取り組みを強化し、指数連動型年金の成長が加速した。それまで変額年金を中心事業としていた生保会社も指数連動型年金に積極的に取組み、販売実績を挙げるようになった。この動きは2016年上期も持続した。
しかし2016年下期になると、労働省が指数連動型年金も変額年金と同様にFDルール上、厳しいルール適用の対象とする方向に改定案を変更するという予期せぬ出来事が起こった。この変更は生保会社を混乱に陥らせ、指数連動型年金の販売にネガティブに働いた。指数連動型年金の販売に急ブレーキがかかった。
このような形で下期を終えたにもかかわらず、指数連動型年金も確定利率据置型定額年金と同じく、上期の貯金が大きかったため、2016年通年の指数連動型年金販売額は対2015年60億ドルの増加を達成した。
2――2017年の個人年金販売状況
2017年に入ってからも、個人年金販売の変調は続いている。LIMRA Secure Retirement Instituteの” U.S. Individual Annuities Sales Second Quarter2017”によると、2017年上期の個人年金の総販売額は1,058億ドルであった。これは2016年上期と比較して10%減少しており、上期中の個人年金の販売額としては2001年以来の低水準であった。四半期ベースで見ると、個人年金の総販売額は、2016年第2四半期から2017年第2四半期まで、5四半期連続で対前年同期比マイナスとなっている。
変額年金、定額年金で区分してみると、特に変額年金の苦境は深刻である。変額年金の販売額は、2017年第2四半期まで14四半期連続で対前年同期マイナスの状況が続いている。
2017年第2四半期は、変額年金だけでなく、定額年金も、対前年同期比マイナスに沈んだが、定額年金販売額額が変額年金販売額を上回る状況は6四半期連続で続いている。
FD ルールの改定が進行し、規制強化が迫ってくるという規制環境が、個人年金市場を変えつつある。FD ルールに抵触する可能性のある、販売者が販売のつど、生保会社から手数料(コミッション)を受け取るという形態ではなく、販売者が顧客から報酬(フィー)を受け取る形を取る変額年金も登場した。いまだ2017年第2四半期でも、当該商品の販売額が変額年金全体の販売額に占める割合はいまだ2%にすぎないが、こうしたフィーベースの変額年金商品は増加の兆しが見られるという。
変額年金、定額年金で区分してみると、特に変額年金の苦境は深刻である。変額年金の販売額は、2017年第2四半期まで14四半期連続で対前年同期マイナスの状況が続いている。
2017年第2四半期は、変額年金だけでなく、定額年金も、対前年同期比マイナスに沈んだが、定額年金販売額額が変額年金販売額を上回る状況は6四半期連続で続いている。
FD ルールの改定が進行し、規制強化が迫ってくるという規制環境が、個人年金市場を変えつつある。FD ルールに抵触する可能性のある、販売者が販売のつど、生保会社から手数料(コミッション)を受け取るという形態ではなく、販売者が顧客から報酬(フィー)を受け取る形を取る変額年金も登場した。いまだ2017年第2四半期でも、当該商品の販売額が変額年金全体の販売額に占める割合はいまだ2%にすぎないが、こうしたフィーベースの変額年金商品は増加の兆しが見られるという。
さいごに
労働省のFDルールの改定については、オバマ政権時代に長い時間をかけて検討が行われてきたものであるが、トランプ政権への移行に伴い、見直し機運も高まり、関連業界団体からの訴訟提起やロビー活動等、揺り戻しを図る動きも盛んに行われた。
そうした中、労働省は2017年1月に予定されていたルール改定の部分施行は約半年遅れの6月に施行にこぎつけたが、2017年8月になって、2018年1月予定の完全施行については、2019年7月1日まで18か月間延期することを決定した。また規則内容が見直されることも確実視されている。
変額年金、指数連動型年金の販売を取り巻く環境は、こうしてまた変化し、懸念されていた程には規制強化が行われない可能性も出てきた訳だが、それでも、約2年にわたって不安定な規制環境が続くこととなる。
こうした状況を受け、LIMRA Secure Retirement Instituteが発表した、「個人年金市場はFDルールの延期の恩恵を受けると予測される」とする、「2017年と2018年の個人年金販売予想(Annuity Sales Forecast for 2017 and 2018)」は、以下のように述べている。
以上見てきたように、米国の個人年金市場は、規制強化の動きと、その不透明さから、大きな影響を受けた。個人年金とFD規制の今後についてはいまだ流動的な部分が多い。
米国の状況は、同様の個人年金商品を有するわが国生保市場から見ても、示唆に富んでいる。
今後とも欠かすことなく動向フォローに努めたい。
そうした中、労働省は2017年1月に予定されていたルール改定の部分施行は約半年遅れの6月に施行にこぎつけたが、2017年8月になって、2018年1月予定の完全施行については、2019年7月1日まで18か月間延期することを決定した。また規則内容が見直されることも確実視されている。
変額年金、指数連動型年金の販売を取り巻く環境は、こうしてまた変化し、懸念されていた程には規制強化が行われない可能性も出てきた訳だが、それでも、約2年にわたって不安定な規制環境が続くこととなる。
こうした状況を受け、LIMRA Secure Retirement Instituteが発表した、「個人年金市場はFDルールの延期の恩恵を受けると予測される」とする、「2017年と2018年の個人年金販売予想(Annuity Sales Forecast for 2017 and 2018)」は、以下のように述べている。
- 2017年の個人年金販売額は減少すると見込まれるが、2018年には横ばいになり成長する可能性もある
- FDルールの延期にかかわらず、変額年金の販売額は減少する
- 指数連動型年金の販売は、FDルールの実施による混乱の到来が遅れることにより回復する
- FDルールの実施が遅れることにより確定利付据置型定額年金の販売額は低成長が予想される
- 2018年の個人年金市場はFDルール延期の恩恵を受ける
以上見てきたように、米国の個人年金市場は、規制強化の動きと、その不透明さから、大きな影響を受けた。個人年金とFD規制の今後についてはいまだ流動的な部分が多い。
米国の状況は、同様の個人年金商品を有するわが国生保市場から見ても、示唆に富んでいる。
今後とも欠かすことなく動向フォローに努めたい。
(2017年11月14日「保険・年金フォーカス」)
経歴
松岡 博司のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/03/13 | 英国生保市場の構造変化-年金事業への傾斜がもたらした繁忙とプレーヤーの変化- | 松岡 博司 | 基礎研レポート |
2024/03/12 | 主要国の生保相互会社の状況-各国で株式会社と相互会社の競争と共存が定常化-デジタル化等の流れを受けた新しい萌芽も登場- | 松岡 博司 | 基礎研レポート |
2023/09/05 | コロナパンデミック前後の英国生保市場の動向(1)-年金を中核事業とする生保業績- | 松岡 博司 | 保険・年金フォーカス |
2023/07/19 | インド生保市場における 生保・年金のオンライン販売の動向-デジタル化を梃子に最先端を目指す動き- | 松岡 博司 | 保険・年金フォーカス |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2025年02月06日
2025年度の社会保障予算を分析する-薬価改定と高額療養費見直しで費用抑制、医師偏在是正や認知症施策などで新規事業 -
2025年02月06日
バレンタインジャンボ2025の検討-狙いは一攫千金? 超高額当せん? それともポートフォリオを作る? -
2025年02月06日
PRA(英国)やACPR(フランス)が2025年の監督・政策上の優先事項や作業プログラムを公表 -
2025年02月06日
インバウンド消費の動向(2024年10-12月期)-2024年の消費額は8.1兆円、訪日客数は3,687万人で過去最高 -
2025年02月05日
インドネシア経済:24年10-12月期の成長率は前年同期比+5.02%~消費が持ち直して再び5%成長に
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【米国の個人年金販売に異変? 変額年金販売額が縮小-生保会社のリスク回避と規制改定の影響-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
米国の個人年金販売に異変? 変額年金販売額が縮小-生保会社のリスク回避と規制改定の影響-のレポート Topへ