- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 不動産 >
- 土地・住宅 >
- 若年・子育て世帯で厳しさを増す住宅負担~改正住宅セーフティネット法で負担軽減制度スタートへ~
若年・子育て世帯で厳しさを増す住宅負担~改正住宅セーフティネット法で負担軽減制度スタートへ~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1――はじめに
こうした状況を改善しようと、国土交通省は「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律」(改正住宅セーフティネット法、2017年10月25日施行)を制定し、低所得など一定の要件を満たした世帯が予め登録された住宅に入居する場合、月最大4万円の家賃補助や、入居時に最大6万円の家賃債務保証料を支給する新たな入居負担軽減制度を設けた。今後、都道府県や市町村ごとに具体的な計画を策定した上で順次、運用を開始する。
従来の住宅セーフティネット政策は、公営住宅の入居対象をとっても高齢者中心に行われてきたが、この制度は、これまでスポットが当たってこなかった低所得の若年世帯等を支援対象に含めた点で、一石を投じるものとなった。しかし実施規模は小さく、どれだけ実績を上げられるかは自治体の判断に拠るところが大きい。本稿では、若年世帯等に対する住まいのサポートの必要性と、新たな入居負担軽減制度の課題について報告したい。
1 総務省の労働力調査によると、非正規雇用で働く人のうち、自ら希望したのではなく、正社員・正職員の職が見つからなかったために働いている「不本意非正規」の人数は、2016年平均で約297万人に上り、非正規労働者全体(現在の雇用形態に就いた理由が無回答の人を除く)の15.6%となる。年代別でみると、就職氷河期世代が含まれる35~44歳の不本意非正規は約62万人で、同じ年代の非正規労働者(同)の17%にあたり、全年代の平均を上回っている。
2――若年世帯等の負担増、支援減
既に結婚し夫婦のみや子どもを持つなどした「二人以上世帯」については、世帯主が30歳代の世帯は2.5%減少、40歳代は12.1%減少となっている(図3)。
世帯構成別にみると、結婚予備軍といえる単身世帯の可処分所得はより大きく減少していることが分かる。この結果から、単身世帯にとって、家計の厳しさが、結婚して家庭を持つことをためらわせる一因となっている事情がうかがえる2。
平均収入が低いことや可処分所得の落ち込みから、単身世帯では貯蓄が無い人も増加している3。
2 総務省の国勢調査(2015年)によると、25~29歳男性の未婚率は72.7%、同女性は61.3%、30~34歳男性は47.1%、同女性は34.6%、35~39歳男性は35.0%、同女性は23.9%に上る。1985年に比べると、それぞれ12~31ポイントの範囲で増加している。
3 政府や日本銀行、民間団体などでつくる金融広報中央委員会が2007年から毎年行っている「家計の金融行動に関する世論調査」(単身世帯調査)によると、運用目的または将来のための備えとして金融資産を「保有していない」と回答した人の割合は、2015年時点で、30歳代は45.3%、40 歳代では44.9%に上った。2007年時点に比べ、いずれも1割以上増加している。二人以上世帯調査では、世帯主が30歳代の世帯では27.8%、40歳代では35.7%で、同様に6~13ポイントの幅で増加した。保有している金融資産額を尋ねると、2015年時点の単身世帯では中央値で30歳代が50万円、40歳代が110万円にとどまった。二人以上世帯では30歳代が213万円、40歳代が200万円だった。
次に、若年世帯等に対する家賃支援の必要性について考えてみたい。働く人の可処分所得が減少していることに加え、平均家賃は増加傾向にあることから、民間賃貸住宅に住む人の生活は年々苦しくなっている。全国消費実態調査から試算したところ、2014年時点の平均家賃は月額5万927円であり、バブル経済崩壊前の1989年時点に比べて約7割上昇した。
家賃の可処分所得に対する割合は、1989年時点では総世帯で8.6%だったが、2014年時点では14.2%に増えた。男女別、年代別でみると、単身世帯の40歳未満と40歳代の男女ではいずれも総世帯より高く推移しており、2014年にはいずれも2割前後となっている。毎月、使えるお金の2割が家賃に消えていくことになる。1989年の値と比べると、単身の40歳未満男女と単身40歳代男女は4.5~11.5ポイントの範囲で増加している(図4)。
(2017年11月06日「基礎研レポート」)

03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/31 | 男女別にみたミドル(40代後半~50代前半)の転職状況~厚生労働省「雇用動向調査」(2023年)より~ | 坊 美生子 | 基礎研レポート |
2025/03/17 | 男女別にみたシニア(50代後半~60代前半)の転職状況~厚生労働省「雇用動向調査」(2023年)より~ | 坊 美生子 | 基礎研レポート |
2025/03/06 | 「老後シングル」は他人事か?~配偶関係ではなく、ライフステージとして捉え直す~ | 坊 美生子 | 研究員の眼 |
2025/02/13 | 女性管理職転職市場の活発化~「働きやすさ」を求めて流動化し始めたハイキャリア女性たち~ | 坊 美生子 | 基礎研レポート |
新着記事
-
2025年05月02日
ネットでの誹謗中傷-ネット上における許されない発言とは? -
2025年05月02日
雇用関連統計25年3月-失業率、有効求人倍率ともに横ばい圏内の動きが続く -
2025年05月01日
日本を米国車が走りまわる日-掃除機は「でかくてがさつ」から脱却- -
2025年05月01日
米個人所得・消費支出(25年3月)-個人消費(前月比)が上振れする一方、PCE価格指数(前月比)は総合、コアともに横這い -
2025年05月01日
米GDP(25年1-3月期)-前期比年率▲0.3%と22年1-3月期以来のマイナス、市場予想も下回る
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【若年・子育て世帯で厳しさを増す住宅負担~改正住宅セーフティネット法で負担軽減制度スタートへ~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
若年・子育て世帯で厳しさを増す住宅負担~改正住宅セーフティネット法で負担軽減制度スタートへ~のレポート Topへ