2017年10月13日

中期経済見通し(2017~2027年度)

経済研究部 経済研究部

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(女性、高齢者の労働参加拡大が鍵)
労働力人口は4年連続で増加しているが、先行きについては、人口減少ペースの加速、さらなる高齢化の進展が見込まれるため、減少基調となることは避けられないだろう。ただし、女性、高齢者の労働力率を引き上げることにより、そのペースを緩やかにすることは可能である。

近年、女性の労働力率は大幅に上昇しているが、注目されるのは労働力率の上昇とともに就業希望の非労働力人口を加えた潜在的労働力率も上昇している点である。このことは現時点の潜在的労働力率が天井ではなく、育児と労働の両立が可能となるような環境整備を進めることにより、女性の労働力率のさらなる引き上げが可能であることを示している。また、男性については25~59歳の労働力率が現時点で90%台となっているため上昇余地は小さいが、60歳以上ではさらに引き上げることが可能だ。

今回の見通しでは、女性は30~54歳の労働力率が70%台から潜在的な労働力率である80%台まで上昇男性は60歳代の労働力率が現在よりも10ポイント強上昇(60~64歳:80.0%(2016年)→91.7%(2027年)、65~69歳:54.8%(2016年)→67.7%(2027年))することを想定した。2016年時点の男女別・年齢階級別の労働力率が今後変わらないと仮定すると、2027年の労働力人口は2016年よりも500万人減少する(年平均で▲0.7%の減少)が、高齢者、女性の労働力率上昇を見込み、2027年までの減少幅は96万人(年平均で▲0.1%の減少)とした。

女性の潜在的労働力率は実際の労働力率とともに上昇/年齢階級別・労働力率の予想(女性)/年齢階級別・労働力率の予想(男性)/労働力人口の比較(見通しと現状維持ケース)

(潜在的な需要の掘り起こしが重要)
高齢化の影響を需要面から見ると、消費水準の低い高齢者の割合が高まることがマクロベースの消費水準を低下させるという問題がある。個人消費に占める高齢者世帯の割合は年々高まっており、世帯主が65歳以上の世帯の消費額は4割近くを占めるようになった。世帯主の年齢階級別の消費支出は50歳代がピークで60歳以降になると水準が大きく切り下がる

個人消費に占める高齢者世帯比率/年齢階級別消費支出の推移
家計調査の実質消費支出(一世帯当たり)は長期的に減少傾向が続いているが3、実質消費支出の伸びを、各年齢階級の消費支出の変動と年齢構成(高齢化)要因に分解してみると、1990年頃までは年齢階級別の消費支出が押し上げ要因となっていた。しかし、その後はほぼ一貫して押し下げ要因となっており、近年は押し下げ幅が拡大している。一方、年齢構成(高齢化)要因は1980年代後半から一貫して消費水準を押し下げているが、押し下げ幅はこの20年間、年率▲0.2~▲0.3%程度であまり大きく変わっていない。
実質消費支出の増減要因 高齢化が消費水準を押し下げていることは事実だが、それ以上の大きさとなっているのは、各年齢層の消費水準が大きく下がっていることだ。先行きについても、高齢化による消費水準の低下を止めることはできないが、高齢者を中心として各年齢層の消費水準を引き上げることで、消費全体の水準低下に歯止めをかけることは可能だろう。
高齢化が進展する中で消費水準を高めるためには、消費者に提供する商品・サービスの中身も高齢化による需要構造の変化に応じてシフトしていくことが重要となる。

高齢者世帯の消費の内訳をみると、保健医療、食料(外食を含む)、旅行などのウェイトが高いことが特徴となっている。特に、旅行4については、60歳以上の世帯では消費全体に占める割合が高いだけでなく、支出金額そのものが他の年齢層よりも高くなっている。企業はすでに高齢者向けの旅行サービスの充実などを図っているが、こうした取り組みをさらに進めていくことにより、高齢者を中心とした潜在的な需要の掘り起こしが可能だろう。

また、高齢者は近年急増するネットショッピング(インターネットを通じた財・サービスの購入)を利用する世帯の割合は低い。しかし、ネットショッピングを利用した世帯に限定した支出金額は平均よりもむしろ多くなっている。このことは、ネットショッピングの普及が高齢者にまで広がれば消費の拡大効果が大きいことを示している。
旅行関連の支出金額は高齢者のほうが多い/ネットショッピングの利用状況(年齢階級別)
 
3 世帯人員が長期的に減少していることが一世帯当たりの消費支出が減少する一因となっている、また、世帯数増加の影響が反映されないため、マクロベースの個人消費より弱い動きとなる傾向がある
4 家計調査の再掲項目。鉄道運賃、バス代、航空運賃、宿泊料、国内パック旅行費、外国パック旅行費、旅行用かばんの合計


(予測期間中の潜在成長率は1%弱まで回復)
1980年代には4%台であった日本の潜在成長率は、バブル崩壊後の1990年代初頭から急速に低下し、1990年代終わり頃には1%を割り込む水準にまで低下した。2002年以降の戦後最長の景気回復局面では一時1%を上回る局面もあったが、世界金融危機による急激な落ち込みにからほぼゼロ%となった後、徐々に持ち直している。
潜在成長率の寄与度分解 当研究所では足もと(2016年度)の潜在成長率を0.8%と推計している。潜在成長率を規定する要因のうち、労働投入による寄与は1990年代初頭から一貫してマイナスとなっていたが、女性、高齢者の労働参加が進んでいることからゼロ近傍まで改善している。また、世界金融危機後に減少に転じた資本ストックが、その後の設備投資の回復を反映し2013年度以降増加を続けているため、足もとでは資本投入による寄与が小幅なプラスとなっている。一方、技術進歩率は長期的に低下傾向が続き、足もとでは0.5%程度となっている。

なお、潜在成長率はあくまでも推計値であるため、データの改定などによって過去に遡って推計結果が改定されることが多い。潜在GDPは資本投入量、労働投入量、TFP(技術進歩率)によって決まるが、TFPは現実のGDPから労働・資本投入量を差し引くことによって求められるため5、TFP上昇率は現実のGDP成長率に大きく依存する。このため、潜在成長率も現実の成長率によって左右されることになる。
改定された潜在成長率 前回の中期経済見通し(2016年10月発表)では、直近(2015年度)の潜在成長率を0.4%と推計していたが、今回の推計では0.8%まで上方修正された。潜在成長率の推計に用いるGDP統計が、2016年12月に基準改定(2005年基準→2011年基準)と最新の国際基準への対応(1993SNA→2008SNA)が実施されたことにより、直近3年間(2013~2015年度)の成長率が年平均0.5%上方改定されたことがその主因である。

このように、潜在成長率は事後的に修正されることが多く、推計方法や推計に用いるデータによってもその水準は異なってくるため、幅を持ってみておく必要がある。

先行きの潜在成長率は、好調な企業収益を背景に設備投資が底堅く推移することから資本ストックのプラス寄与が拡大することを主因として、2016年度の0.8%から東京オリンピックが開催される2020年度頃には1%台前半まで伸びを高める。その後は人口減少ペースの加速に伴い労働時間も加味した労働投入量の伸びが小幅なマイナスに転じるため、1%を若干割り込む水準まで緩やかに低下するだろう。潜在成長率は今後10年間の平均で1%程度になると想定した。
 
 
5 このようにして求めたTFPはGDPなどの毎期の振れを含んでいるため、一般的にはHPフィルターなどによって平滑化する
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