2017年07月28日

女性医療の現状(前編)-無理なダイエットは、高齢期にどのような影響をもたらすか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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6|乳がんの罹患率は、20歳代から年齢とともに急増する
日本では、乳がんは、2000年代以降、女性のがんの中で、罹患率が最も高くなっている。男性の第1位である胃がんには及ばないものの、第2位の肺がんや、第3位の大腸がんに匹敵する罹患率となっている。

年齢別の罹患率を見ると、20歳代から40歳代にかけて、年齢が進むとともに、急激に上昇している。50歳代から70歳代にかけては、ほぼ横這いで推移している。乳がんは、各年齢層で、罹患の可能性があるがんと言える。

乳がんは、乳がん検診を通じた早期発見が重要とされる。日本では、現在、40歳以上の人を対象に2年に1回、問診とマンモグラフィー検査を行うことが、厚生労働省の指針として示されている。この指針では、30歳代以下の女性については、検診の対象としていない。しかし、指針では、検診の対象外でも、自己触診の重要性や、異常がある場合の専門医療機関への早期受診等について、指導を行うとされている。

なお、乳がんの治療法は、病期に応じて、手術療法、放射線療法、薬物療法などが、単独もしくは組み合わせて行われることが一般的である。(後編にて、詳述)
図表24-1. 部位別がん罹患率 (女性・人口10万人あたり)/図表24-2. 部位別がん罹患率 (男性・人口10万人あたり)/図表25. 乳がんの罹患率・死亡率 (女性・人口10万人あたり)
7|子宮頸がんは、若齢期に発症しやすく、早期発見が重要となる
子宮がんは、大きく、子宮頸がんと子宮体がんに分けられる。子宮頸がんは、20~40歳で発症しやすい。2012年には、子宮頸がん(上皮内がんを含む)の罹患率は、子宮がん全体(同)の罹患率の7割を占めている。子宮頸がんの年齢別罹患率を見ると、30歳代がピークとなっている。一方、子宮体がんの罹患率は、20歳代以降、徐々に上昇し、50歳代でピークとなり、その後も高水準となっている。

子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)への感染により、生じる。現在、HPVは、150種類以上が知られている。性交渉経験のある多くの女性が、一過性のHPVへの感染をしていると言われている。HPVのうち、高リスクHPVと呼ばれるものが、15種類ほどある。これらに持続感染した場合に、子宮頸部異形成と呼ばれる、前がん病変となる。この場合、医師による精密検査の上、手術等の治療の必要性が判断される40

子宮頸がんは、子宮頸がん検診での細胞診を通じた、早期発見が重要とされる。しかし、細胞診で異常が判明しても、無症状であることが多い。このため、精密検査が必要(要精検)と判定された人が、医療施設を訪れず、受診につながらないケースがあるとされている。
図表26. 子宮頸がんの罹患率・死亡率 (女性・人口10万人あたり)/図表27. 子宮体がんの罹患率・死亡率 (女性・人口10万人あたり)[参考]
 
40 「あなたも名医! プライマリケア現場での女性診療 押さえておきたい33のポイント」(日本医事新報社, jmed mook47, 2016年12月)の「第4章2 子宮がん検診」などより。


8|HPVワクチンは、積極的な接種勧奨が中止されている
世界的に、HPV感染に伴う、子宮頸がんに対する予防の必要性が高まってきた。日本では、2010年より、中学1年生~高校1年生までの4つの学年の女子生徒に対して、公費でのHPVワクチンの接種が開始された。2013年4月には、定期接種化され、その結果、接種率は70%超となっていた。

そのような中で、2013年3月頃、接種後に、慢性疼痛や運動障害を発症するケースが、複数、報告された。これを受けて、厚生労働省は、2013年6月に、HPVワクチンの積極的な接種勧奨を中止した。

2016年4月に、日本小児科学会、日本産科婦人科学会、日本感染症学会など、予防接種推進専門協議会に参加する15の学術団体と、同協議会非参加の2団体が共同で、HPVワクチン接種に関する見解を示した。その中で、ワクチンの有効性が示されたことと、ワクチンの有害事象や接種後に生じた症状への相談体制が整備されたことを理由として、HPVワクチンの積極的な接種勧奨を提言している。

一方、HPVワクチン接種後に、慢性疼痛などの重い副反応を呈した患者は、各地で薬害訴訟を提起しており、現在(2017年7月)、その審理が続いている。厚生労働省は、「現在、因果関係は不明ながら、持続的な痛みを訴える重篤な副反応が報告されており、その発生頻度等について調査中」(同省の説明資料41より抜粋)としている。調査結果と、今後のHPVワクチン接種の取扱いの判断が注目される。
 
41 「ヒトパピローマウイルス感染症の定期接種の対応について(勧告)」(厚生労働省健康局長, 平成25年6月14日, 健発0614第1号)の別紙より。


(参考) 女性アスリートの無月経や月経異常
思春期から性成熟期にかけては、女性アスリートにとって、体力を増強し、競技技術を向上させる重要な時期にあたる。そうした状況下で、アスリート本人、親、指導者の中には、月経は厄介なもの、といった、誤った考え方を持つケースがあると言われている42

アメリカでは、1992年に、スポーツ医学会が女性アスリートに多く見られる疾患として、摂食障害、無月経、疲労骨折を挙げている。その後、2007年に、摂食障害は、利用可能なエネルギーの不足に変更された。日本では、利用可能なエネルギー不足、無月経、骨粗鬆症の3つが、「女性アスリートの三主徴」とされている。女性アスリートの指導者は、その予防対策について理解を深めつつ、トレーニング強度・頻度などの調整や、体重コントロールに留意していくことが必要とされている43

典型的なケースとして、女性アスリートは、競技のパフォーマンス向上のために、食事の量を減らして、体重を落とすことで、結果として無月経になることがある。その場合、エストロゲンの分泌量が減り、骨密度が低下する。本来、10歳代後半から20歳にかけては最大骨量を獲得する時期であるが、無月経が続くと、骨量が増加しない。このため、運動負荷による疲労骨折を起こすことがある。

国立スポーツ科学センターが、2014年に公表した、女性の国内トップアスリートを対象としたアンケート調査によると、無月経や月経異常のあるアスリートの割合は、約40%にのぼった。競技別に無月経の割合を見ると、体操は75%。新体操は、40%。フィギュアスケート、陸上(長距離)、トライアスロンは25%以上と、審美系や持久系の競技において、高い割合となった。
図表28. 女性の国内トップアスリートの競技別無月経割合
無月経の影響は、競技生活をやめた後に、発現する可能性もある。例えば、閉経後に、骨粗鬆症による骨折を起こすと、寝たきりの状態となるリスクがある。老年期のQOLの維持にも、不安が生じる。このため、まず体重を適正水準まで増やして、月経の再来を促すことが必要とされている。

一方、月経があると、月経困難症、月経前症候群、過多月経などにより、競技パフォーマンスの低下が懸念されることもある。現在、競技会の日程と月経期の重複を回避するために、OCやLEP製剤を活用する取り組みが進められている 44。これらは、医師の管理下で行われることが必要となる。
 
42 「『月経はともすれば厄介なもの』『ないほうがよいくらいだ』という誤った考え方が、女性アスリートのみならず、その親や指導者にも浸透している現実があります。」(「あなたも名医! プライマリケア現場での女性診療 押さえておきたい33のポイント」(日本医事新報社, jmed mook47, 2016年12月)の「第2章A9『月経が止まるまで練習しろと言われています』」より)
43 「成長期女性アスリート 指導者のためのハンドブック」(独立行政法人 日本スポーツ振興センター, 国立スポーツ科学センター, 2014年3月)より。
44 なお、2017年3月31日現在、全てのOC・LEP製剤は、ドーピング禁止薬物に指定されていない。(「Health Management for Female Athletes Ver.2 女性アスリートのための月経対策ハンドブック」(独立行政法人 日本スポーツ振興センター, 国立スポーツ科学センター, 2017年3月)より)
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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