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後発医薬品の普及-調剤医療費の増加は抑制できているか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――はじめに
医薬品の価格に関して、公定価格である薬価の算定の方法や、改定の頻度に注目が集まっている。薬価算定の基礎データとなる薬価調査や、医療機関・保険薬局と医薬品卸との間の価格交渉(実勢価格の交渉)など、薬価制度には検討要素が多い。価格設定に関するプレーヤーも多く、複雑である。
一方、がんの免疫チェックポイント阻害薬や、C型肝炎の抗ウイルス薬のような、画期的な高額医薬品が導入されるに従って、公的医療保険制度の財政に深刻な影響を与えかねないとの問題も生じている。このように、医薬品は、医療・製薬関係者にとどまらず、国民全体の関心事となりつつある。
本稿では、現在、医薬品費用抑制の切り札として進められている、後発医薬品への切り替えについて、その動向などを見ていくこととしたい。
2――後発医薬品とは
1|医薬品は、特許の面から、新薬、長期収載品、後発薬の3つに分けられる
通常、医薬品を製造したメーカーは、特許を取得する。特許期間中、その医薬品の販売を独占することで、医薬品の製造コストを賄い、収益をあげることができる。
医薬品は、特許の面から、新薬、長期収載品、後発薬の3つに分けることができる。新薬は発売から5~10年程度の間、特許を伴って、独占的に販売される。長期収載品は、新薬の特許が切れた後に、薬価基準に収載されたままになっている医薬品を指す。後発薬は、新薬と同様の薬効をもつ医薬品で、特許の切れた新薬からの置き換えを狙って、新薬よりも低価格で市場に投入されるものを指す。
欧米では、医師による、有効成分の一般名での処方が浸透しており、新薬の特許が切れると、速やかに後発薬に切り替えられるため、長期収載品の使用はほとんどない。一方、日本では、従来、後発医薬品への切り替えの必要性が十分に浸透しておらず、特許が切れた後でも、長期収載品が、そのまま使われ続けることが多かった。これが、医薬品費用が増大する要因の1つとして、挙げられてきた。
1 有効成分の特許のこと。他に、製法特許(製造方法の特許)、用途特許/医薬特許(効能効果の特許)、製剤特許(用法用量の特許)がある。通常、特許出願は臨床試験の前に行われるため、その後の開発・審査に10~15年かかることを踏まえると、発売から5~10年程度で特許期間切れとなる。なお、製薬会社が申請すれば、5年を上限に特許期間の延長が認められる。
2 この試算では、後発薬の新規収載時の薬価は、長期収載品の5割としている。算定ルール上、後発薬の新規収載時は新薬の5割 (内用薬で収載希望品目数が10を超える場合は4割)で算定する。新薬が新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象の場合、加算分を差し引いた薬価から算定する。バイオ後発薬の場合は、上述の5割を7割、4割を6割とそれぞれ読み替えて算定する。
医薬品は、端的に言えば、多数の分子からなる化合物である。従来からある薬は、主として、低分子薬である。これは、主に経口剤として、化学合成で作られる。この低分子の新薬に対する後発薬は、新薬と有効成分が同じで、同一の効能を示す。
近年、これとは別に、生物学的製剤が開発されるようになった。生物学的製剤は、製造過程で、生体由来の物質や、発酵・培養といった生物の機能を使って作られるもので、主に、注射剤として開発される。後発薬として開発しても、発酵や培養の際の温度等の条件が異なるため、新薬と全く同じ内容の医薬品ができる訳ではない。このため、類似品を表す「シミラー」という用語を用いて、「バイオシミラー」とも呼ばれる。バイオシミラーは、これまでタンパク製剤の開発が中心であったが、がんやリウマチなどの抗体医薬として、より分子量の大きな医薬品の開発が進められている。
3――後発医薬品の普及
1|後発医薬品の使用割合は、政府の掲げた目標に沿って、上昇してきている
政府は、これまで、後発医薬品の普及等に向けて、数値目標を示してきた。「経済財政運営と改革の基本方針2017」(骨太の方針)では、2020年9月までに、後発医薬品の使用割合を80%とし、できる限り早期に達成できるよう、更なる使用促進策を検討する。バイオ医薬品及びバイオシミラーの研究開発支援方策等を拡充しつつ、バイオシミラーの医療費適正化効果額・金額シェアを公表するとともに、2020 年度末までにバイオシミラーの品目数倍増(成分数ベース)を目指す。など、としている。
実際に、後発医薬品の使用割合は、徐々に上昇してきた。2017年2月には、68.5%に達している。一方、2016年度の調剤医療費は、前年度よりも抑えられて、毎月6,000億円程度で推移している3。
3 2016年12月には6,671億円に上昇したが、2017年1月は6,086億円、2月は6,047億円と、6,000億円程度に低下した。
(2017年07月25日「保険・年金フォーカス」)
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保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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