2017年07月07日

生産緑地法改正と2022年問題ー2022年問題から始まる都市農業振興とまちづくり

ニッセイ基礎研REPORT(冊子版) 2017年7月号

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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1―はじめに

2022年は、1992年に生産緑地地区が最初に指定されてから30年となり、生産緑地の買い取り申出が可能になる年である。対象となる土地所有農家が一斉に自治体に買取り申出を行うと、多くが宅地として市場に放出されて、土地・住宅市場に大きな影響をもたらす。このような懸念が、生産緑地の2022年問題である。

しかし、2016年5月に「都市農業振興基本計画1」が策定され、本年4月には生産緑地法の改正を含む、都市緑地法等の改正法案が成立した。これによって、土地・住宅市場への影響は一定程度抑えられ、都市農業振興あるいは都市農地を活かしたまちづくりという観点から、生産緑地を保全、活用することへの期待が高まったと言える。
 
1 都市農業振興基本法に基づき閣議決定された。

2―法改正の内容と農家の選択肢

1|法改正の内容
生産緑地法の改正は、指定面積要件の緩和、行為制限の緩和、特定生産緑地指定制度創設の3点がある2。中でも最も注目されるのが、「特定生産緑地指定制度」の創設だ。[図表1]
 
2 改正法は5月12日公布された。
図表1:生産緑地法の主な改正点
これは、指定から30年を経過する生産緑地について、市区町村が利害関係者の同意のもと、新たに特定生産緑地を指定すれば、買取り申出が可能となる時期を10年先送りできる制度である。10年経過後に再度指定すれば、さらに10年先に延びる。

30年経過し、買取り申出せずに生産緑地を継続した場合、その後はいつでも買取り申出可能となることから、本制度を活用することで確実に農地を保全しようとするものだ。

2|不確定要素
ここで注意しなければならない点がある。改正法では地区指定から30年経過前に指定することとしており、それ以降追加の指定はできない。

また、特定生産緑地に指定しない場合、常時、買取り申出できる状況では、相続税納税猶予制度3の適用が認められなくなる可能性がある。固定資産税についても課税強化の可能性がある。
 
3 適用を受けると、終身営農を前提に、相続税の納税が一定の要件の下、猶予される制度。

3|農家の選択肢
仮に、現時点で不確定要素であるこれらの想定を前提にして、特定生産緑地に指定する場合と、しない場合を整理すると、次のようになる。

特定生産緑地に指定すると(図表2のa,a’)、営農継続が前提となり、10年間の行為制限が適用される。買取り申出は、指定から10年経過後及び、主たる農業従事者が死亡や故障で営農継続できない場合に行うことができる。

不指定の場合(図表2のb,b’)は、常時買取り申出は可能だが、その後、特定生産緑地に指定することはできず、相続発生時に相続税納税猶予制度は適用できない。
図表2:生産緑地地区の指定30年経過後の取り扱いと、特定生産緑地指定制度を踏まえた選択肢
4|10年間営農可能かどうか
以上のように、特定生産緑地に指定しない生産緑地に対して課税強化されるならば、農家にとってメリットとなる点は少ない。

したがって、少なくとも2022年以降10年間は農業継続が可能でその意思があるならば、この機会に特定生産緑地に指定する判断を取るだろう。

現状で後継者の見通しが立っていない場合、今後10年間の内に考慮することができる。今回の法改正は、この条件にあてはまる農家に対しては農業継続を促すことになろう。

一方、現状でも収益性が高く、直売所等の設置により、さらに農業収益を上げていくことで、課税強化分も十分負担でき、しかし、後継者の見通しが立っていない状況であるならば、いざ、相続が発生したときの土地活用を考慮して、特定生産緑地に指定しないという判断が成り立つ。

以上の条件にあてはまらない場合、買い取り申出を選択する可能性が高くなる。こうしてみると、農家の選択において最も重要になるのは、後継者も含めて2022年以降10年間農業継続可能かどうか、その見極めであることが分かる。

3―都市農業振興とまちづくり

1|市街化区域内農地の仕分け
改正法では、特定生産緑地の指定は申出基準日までに行うこととしており、当該市区町村は、まずは対象農家に新制度を周知し、意向を把握することになる。

農家が、特定生産緑地指定を希望する場合、その後10年間は確実に保全することができる[図表3〈ア〉]。

特定生産緑地指定を希望しない場合は、常時買取り申出可能となり、基本的にはその後10年以内に買取り申出の可能性があるものとして、公的活用するか、開発されるものと捉えることになるだろう[同〈ウ〉]。買取り申出意向の場合、買い取って公共施設などへの活用を検討することになる[同〈エ〉]。買い取らない場合は、他の生産者へあっせんを行い農地継続の可能性を検討する[同〈オ〉]。あっせんが成立しない場合は行為制限が解除されて宅地化することになり、良好な市街地へと誘導する対象となる[同〈カ〉]。

2022年時点で指定から30年未満の生産緑地については、30年経過まで確実に保全できるが、その後の特定生産緑地指定により、それ以降10年間保全を図る可能性が残る[同〈イ〉]。

既存の宅地化農地4についても、法改正により生産緑地指定面積の下限が引き下げられることで、追加指定しやすくなることから、開発ばかりでなく保全する対象も含まれてくる[同〈キ〉]。

このように、農家に対する意向把握は、現在の市街化区域内農地全体について、2022年以降、当面保全するのか、公的に活用するのか、開発を前提にするのかを、個々に洗い出すことになる。
 
4 市街化区域内の生産緑地以外の農地。
図表3:法改正を受けた市街化区域内農地の取り扱い
2|まちづくりの方針を検討
以上から、今回の法改正は、2022年以降の都市農業振興のあり方、農地を活かしたまちづくりのあり方を検討する契機になると捉えるべきである。

指定30年に該当する生産緑地以外の農地も含めた仕分けによって、保全する農地については、都市農業振興基本法の理念5に照らして、個々の農地についてどのような機能の発揮が求められるのかの検証を行う。

買取り申出が見込まれる農地については、実際にどのような公的活用が考えられるのか個々に検証する。

開発が見込まれる農地については、農業に触れあうことができる住宅開発を誘導するなど、民間と連携して知恵を出していく。

その検討方法として、都市農業振興基本計画の市区町村版の策定6は、農家が都市農業を継続していくためのプラス材料を具体的に示し、都市農業振興に対する全市民的理解を形成する機会とするならば、意義が高い。
 
5 第3条基本理念には、都市農業の多様な機能として、農産物供給、景観創出、交流創出、食育・教育、地産地消、
  環境保全、防災が挙げられている。
6 法律では、基本計画を基に、地方版の策定に努めるとしている。

4―おわりに

このように改正法を踏まえてみると、2022年問題は、今後の都市農業振興や、まちづくりをどう捉えるかという問題であることが分かる。

そして、その問題を解決するには、農家、都市住民、行政が共に都市農業に対する理解を深めることが、何より重要になるのである。
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

(2017年07月07日「基礎研マンスリー」)

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