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- 予算教書で示された債務残高(GDP比)削減は可能か-大型減税と債務残高の削減を同時に達成することは困難
2017年06月28日
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1――はじめに
米国では、金融危機後の大型景気対策を契機に財政赤字や債務残高が急増した。今後も高齢化の進展に伴う公的医療関連費用の増大などを背景に債務残高の増加基調が持続すると予想されており、長期的に債務残高をGDP比で安定させることが課題となっている。
米国は、財政赤字の拡大を抑制するための仕組みを金融危機後に策定したものの、緊縮財政に伴う景気への影響を懸念した政治的な配慮から仕組みに沿わない財政運営が行われており、有名無実化している。この結果、債務残高(GDP比)は、足元の8割弱の水準から10年後には9割弱に増加するとみられており、その後も増加基調が持続すると試算されている。
昨年の大統領選挙で当選したトランプ大統領は、選挙期間中から個人や法人に対する大型減税や、インフラ投資の拡大などを選挙公約に掲げていたため、トランプ政権下で財政状況が悪化する可能性が多くの専門家から指摘されてきた。一方、トランプ政権下で初めての予算教書(大統領予算案)は、今後10年間で財政収支を黒字化する方針を示したほか、債務残高(GDP比)についても10年後に6割まで低下させるとする意欲的な案を示した。
もっとも、今回提示された予算教書では成長率で非常に楽観的な想定を置いているほか、肝心の大型減税を伴う税制改革について、減税による歳入減を見込んでいないなど、非現実的な想定であることが指摘されている。本稿では、それらの影響を加味した場合に債務残高がどの程度影響を受けるか検証を行った。
米国は、財政赤字の拡大を抑制するための仕組みを金融危機後に策定したものの、緊縮財政に伴う景気への影響を懸念した政治的な配慮から仕組みに沿わない財政運営が行われており、有名無実化している。この結果、債務残高(GDP比)は、足元の8割弱の水準から10年後には9割弱に増加するとみられており、その後も増加基調が持続すると試算されている。
昨年の大統領選挙で当選したトランプ大統領は、選挙期間中から個人や法人に対する大型減税や、インフラ投資の拡大などを選挙公約に掲げていたため、トランプ政権下で財政状況が悪化する可能性が多くの専門家から指摘されてきた。一方、トランプ政権下で初めての予算教書(大統領予算案)は、今後10年間で財政収支を黒字化する方針を示したほか、債務残高(GDP比)についても10年後に6割まで低下させるとする意欲的な案を示した。
もっとも、今回提示された予算教書では成長率で非常に楽観的な想定を置いているほか、肝心の大型減税を伴う税制改革について、減税による歳入減を見込んでいないなど、非現実的な想定であることが指摘されている。本稿では、それらの影響を加味した場合に債務残高がどの程度影響を受けるか検証を行った。
2――米連邦政府の財政状況
さらに、米センサス局によれば、米国の人口に占める65歳以上の比率は00年が12.4%であったものが、16年には15.2%、10年後の27年には19.5%と2割近くまで増加することが見込まれている(図表4)。
2|財政赤字削減の仕組み:有名無実化しており、機能していない
米国では、金融危機後の大幅な財政悪化を受けて、財政赤字の拡大を抑制するための仕組みが導入された。10年に制定されたペイ・アズ・ユーゴー法(2010 Statutory Pay-As-You-Go(PAYGO)Act)では複数年に亘って赤字を増加させる税制や義務的経費2支出を増加させる如何なる法改正も、それを相殺させるような他の法改正を伴わない限り認めないことが規定されている。
さらに、11年に制定された2011年予算管理法(Budget Control Act of 2011、以下BCA)では、12年~21年度の裁量的経費に上限を設けて10年累計で0.9兆ドルを削減することとなった。また、追加削減分の1.2兆ドルについては、超党派で削減策の合意が出来なかったことから、裁量的経費のうち、国防関連と非国防関連で同額を削減する強制歳出削減(Sequestration)によって捻出するBCAのトリガー条項が発動した。この結果、BCAに基づき21年度まで裁量的経費には累計2.1兆ドルの厳しい歳出削減が義務付けられている。
もっとも、12年度以降の予算編成作業ではBCAに沿った運営は行われていない。議会は、強制歳出削減を回避するための法律を施行して、歳出上限を超える歳出を可能にしている。実際、13年および15年に超党派予算法(Bipartisan Budget Act of 2013、2015)を成立させており、今年9月末までの17年度予算まで国防関連、非国防関連ともに歳出上限を超える予算編成を行ってきた3。さらに、アフガニスタンやイラクで展開する軍事作戦のための軍事費は、一部海外緊急事態作戦費用(Overseas Contingency Operation、以下OCO)に予算計上されているが、OCOは強制歳出削減で規定される歳出上限の適用除外となっており、強制歳出削減を回避するための抜け道となっている。
2 歳出には根拠法によって歳出額が規定される義務的経費(社会保障、メディケア、メディケイド等)と、毎年の予算編成で歳出額を決定する裁量的経費(国防関連、環境保護、教育等)がある。
3 詳しくはWeeklyエコノミストレター(2015年11月20日)「2015年超党派予算法が成立―17年の申請発足まで政府機関閉鎖、米国債デフォルトリスクは低下」http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=51508?site=nli を参照下さい。
米国では、金融危機後の大幅な財政悪化を受けて、財政赤字の拡大を抑制するための仕組みが導入された。10年に制定されたペイ・アズ・ユーゴー法(2010 Statutory Pay-As-You-Go(PAYGO)Act)では複数年に亘って赤字を増加させる税制や義務的経費2支出を増加させる如何なる法改正も、それを相殺させるような他の法改正を伴わない限り認めないことが規定されている。
さらに、11年に制定された2011年予算管理法(Budget Control Act of 2011、以下BCA)では、12年~21年度の裁量的経費に上限を設けて10年累計で0.9兆ドルを削減することとなった。また、追加削減分の1.2兆ドルについては、超党派で削減策の合意が出来なかったことから、裁量的経費のうち、国防関連と非国防関連で同額を削減する強制歳出削減(Sequestration)によって捻出するBCAのトリガー条項が発動した。この結果、BCAに基づき21年度まで裁量的経費には累計2.1兆ドルの厳しい歳出削減が義務付けられている。
もっとも、12年度以降の予算編成作業ではBCAに沿った運営は行われていない。議会は、強制歳出削減を回避するための法律を施行して、歳出上限を超える歳出を可能にしている。実際、13年および15年に超党派予算法(Bipartisan Budget Act of 2013、2015)を成立させており、今年9月末までの17年度予算まで国防関連、非国防関連ともに歳出上限を超える予算編成を行ってきた3。さらに、アフガニスタンやイラクで展開する軍事作戦のための軍事費は、一部海外緊急事態作戦費用(Overseas Contingency Operation、以下OCO)に予算計上されているが、OCOは強制歳出削減で規定される歳出上限の適用除外となっており、強制歳出削減を回避するための抜け道となっている。
2 歳出には根拠法によって歳出額が規定される義務的経費(社会保障、メディケア、メディケイド等)と、毎年の予算編成で歳出額を決定する裁量的経費(国防関連、環境保護、教育等)がある。
3 詳しくはWeeklyエコノミストレター(2015年11月20日)「2015年超党派予算法が成立―17年の申請発足まで政府機関閉鎖、米国債デフォルトリスクは低下」http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=51508?site=nli を参照下さい。
(2017年06月28日「基礎研レポート」)

03-3512-1824
経歴
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1999年 NLI International Inc.(米国)
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
2014年10月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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