2017年06月07日

「人生100年時代」の到来 ー長生きを「恩恵・特権」にしていくために

基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.243]

生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田 展弘

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 “人生100年”に関連する言葉を最近よく見聞きする。昨年発刊されメディアからも注目された書籍「LIFE SHIFT(ライフシフト)~100年時代の人生戦略」だったり、神奈川県庁が進める「人生100歳時代の設計図策定プロジェクト」など、様々な場面で人生100年(歳)という文字を見る。

日本人の平均寿命が戦後から延び続けるなか、人生の長さを表す表現も「人生60年、70年、80年、90年」と移ろい変わってきたわけだが、ついに人生100年の時代まで来たかと思うところがある。確かに、現在でも女性の4人に1人は95歳まで生きられるという推計結果だったり1100歳以上の人口が2050年には約70万人になるという推計結果2、また上記書籍の中で紹介されている「2007年生まれの子どもの“半数”が到達する年齢(寿命)が、日本の場合は107歳」という推計結果などを踏まえると、もはや人生90年という表現では足りず、「人生100年」に更新することが適当なのであろう。筆者も共同執筆している「東大がつくった高齢社会の教科書」3においても、4年ぶりの改訂作業の中で「人生90年」と表現していた部分をすべて『人生100年』に洗い替えたところである。
 
1 厚生労働省「平成27年簡易生命表」における「特定年齢までの生存者割合」より
2 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」。2015年時点の100歳以上人口は約6万人
3 東京大学高齢社会総合研究機構編/ニッセイ基礎研究所編集協力「東大がつくった高齢社会の教科書~長寿時代の人生設計と社会創造」(東京大学出版会、2017年3月発刊)。一般社団法人高齢社会共創センターが実施する「高齢社会検定試験」の公式テキスト

「人生100年時代」で考えること

表現の問題はさておき、考えるべき本質は「人生100年」という人生の長さを、個人また社会がどのように受け止め、何を考えていくかということであろう。

戦後まもない頃の「人生60年時代」と「人生100年時代」を比べれば、人生の長さは約6割増、20歳を起点に大人としての人生の長さ(大人生活)で見れば、実に「倍」の長さがある。先人達に比べれば、私たちは倍の人生を楽しめて、また多くのことを成し遂げられる期待を有している。いまを生きる私たちにもたらされた「恩恵・特権」と言えることである。しかしながら、延長した高齢期の生活に不安を抱き、長生きが「厄介」なものとして受け止めてしまう人も中にはいる。人生100年の長寿を「厄介」ではなく「恩恵・特権」として受け止められるようにしていくことが必要である。

Wish Listで前向きな長寿の実現を

そのために個人としては、特に延長した高齢期の生活について考えることは多い。100歳までのお金や家をどうするか、親や配偶者の介護にどう備えるか、日々何をできるかなど。現実的な生活基盤をどのように構築していくか切実な問題である。ただ、そうしたことを考えるだけでは不安が高まり、何となく下を向いてしまうかもしれない。不安を抱えながら日々漠然と過ごす生活ではなく、目標に向ってポジティブな人生をおくれるようにすることが大切である。この点、例えば、65歳からの『WishList(願いごと・やりたいことリスト)』を作成してみてはどうだろうか。すでに行っている人も少なくないと思われるが、「親を旅行に連れて行く」「初恋の人に会いに行く」「夫婦で海外のロングスティを楽しむ」「英語をマスターする」など、50でも100でも書き上げて、それを満たしながら100歳まで到達できたら、とても素晴らしい人生にならないだろうか。映画「最高の人生の見つけ方」(2007年アメリカ)でも、余命僅かと宣告された高齢男性2人(ジャック・ニコルソン、モーガン・フリーマン)が「やりたいことリスト」を作成し、それを実行しながら残された人生を前向きに過ごしていく姿が描き出されている。些細なことではあるがWish Listの作成をお薦めしたい。

社会としても、そのWishに注目してみてはどうか。個人が高齢期に何をしたいのか、何を叶えたいのかを聞くことは、地域の高齢化対策だったり、企業の高齢者向け商品サービス開発の原点になることである。その中には新たなビジネス・アイディアが埋もれている可能性もある。この点、弊社を含む日本生命グループはこの3月に2020年までの中期経営計画を公表したが、「“人生100年時代”をリードする日本生命グループに成る」ことを大きなテーマとして掲げている。人生100年を前向きに生きていくための支援を行っていく方向にある。このように個人が抱くWishを社会全体がサポートする流れを創っていければ、長生きを「恩恵・特権」と感じられる未来になると考える。そうした未来の実現を期待している。
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生活研究部   上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

経歴
  • 2004年     :ニッセイ基礎研究所入社

    2006~2008年度 :東京大学ジェロントロジー寄付研究部門 協力研究員

    2009年度~   :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
    (2022年度~  :東京大学未来ビジョン研究センター・客員研究員)

    2021年度~   :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター・訪問研究員

    内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)

    財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)

    東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)

    神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017年度~)

    生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)

    全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)

    一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)

    一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)

    【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他

(2017年06月07日「基礎研マンスリー」)

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