- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- ジェロントロジー(高齢社会総合研究) >
- 高齢者のQOL(生活の質) >
- 第4次産業革命への期待~高齢期の生活改善に向けて
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
これらの新しい技術が注目されるきっかけとなったのは、ドイツ政府が2011年から推進する「Industry4.0(第4次産業革命)」と呼ばれる競争力強化に向けた政策である。この中で、前述の技術を活かした産業革新が推進されているのである。日本はこれに遅れること4年、「『日本再興戦略』改訂2015(2015年6月30日閣議決定)」に、これらの技術革新の必要性について明記され、これを皮切りに、2016年1月には「第5期科学技術基本計画(2016-2020)」において、第4次産業革命を反映させた「超スマート社会(Society5.0)」の実現を目指すことが提起され、また2016年4月には、産業構造審議会・新産業構造部会から「第4次産業革命をリードする日本の戦略」の中間整理1がまとめられたところである。その後も政府主導の関係会議(経済財政諮問会議、産業競争力会議、未来投資会議等)で検討が深められ、おそらく来月(2017年6月)公表される「経済財政に関する基本方針(通称:骨太の方針)」では、「第4次産業革命への対応」を通じた「Society5.0の実現」がこれからの成長戦略の中核に位置づけられることが予想される。
AI等のこれらの技術を活かせる分野は幅広く、上記の中間整理の中でも変革が期待される有力分野として、(1)ものづくり・流通・小売、(2)金融(金融とITを融合したサービス:Fin Tech)、(3)住宅・エネルギー(スマートハウス等)、(4)医療・健康・介護、(5)教育、(6)農業、(7)観光などが挙げられている。ジェロントロジー(高齢社会総合研究)を専攻する筆者として注目するのは、高齢期の生活に関連深い「医療・健康・介護」の領域などになるが、具体的にどのような変化が期待できるのだろうか。中間整理にある例では、ビックデータの解析とAIを活用した本人の特性に応じた確度の高い健康支援サービスだったり、効果的な医療診断などが挙げられている。予防の効果が高まり、また疾患の早期発見レベルも向上し、より患者にあった医薬品を提供できたりと、国民の健康長寿の延伸に貢献していくことが期待されているのである。こうしたことだけに止まらず、AI等の技術は多くの可能性を期待させるが、素人ながら考えると、例えば、「老化の進行速度の判定」、「認知症の可能性判定」、さらには「寿命の測定」など、個人として関心は高いものの技術的に確立していないこうしたこともAI等で実現していくのではないかと想像する。また、こうしたことを含めて健康に関して何でも相談と診断ができるロボットもいずれ登場するのではないかと考える。ドラえもんの世界のような話ではあるが、今後予想だにしないことが起こるかもしれないという期待がある。
暮らしの良し悪しは技術が全てではないものの、技術が生活の質の改善に貢献することも確かであろう。第3次産業革命はインターネット等の情報技術の高度化(自動化)であったが、今では多くの人にとって携帯電話やインターネットの利用は生活に欠かせられないものになっている。第4次産業革命が果たして私たちの生活をどのように変えていくのか、期待をもって今後の動向を注視していきたい。また筆者としては、これらの技術を高齢期の生活課題・ニーズにどのように活かしていけるか研究を深化させていきたいと考えている。
1 産業構造審議会・新産業構造部会「新産業構造ビジョン~第4次産業革命をリードする日本の戦略(中間整理)」(2016年4月27日) http://www.meti.go.jp/press/2016/04/20160427007/20160427007.html
(2017年05月26日「研究員の眼」)
このレポートの関連カテゴリ

生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任
前田 展弘 (まえだ のぶひろ)
研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究学)、超高齢社会・市場、高齢者就労問題、ライフデザイン、高齢者のQOL/well-being
03-3512-1878
- 2004年 :ニッセイ基礎研究所入社
2009年度~ :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
2022年度~ :東京大学未来ビジョン研究センター 客員研究員
2021年度~ :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター 訪問研究員
2023年度 :早稲田大学Life Redesign College(人生100年時代の大学)講師
内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)
厚生労働省「生涯現役地域づくり普及促進事業有識者委員会」委員長(2024年度)
財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)
東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)
神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017-19年度)
生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)
全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)
一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)
一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)
【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他
前田 展弘のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/07 | 日本の高齢社会対策の行方-高齢社会対策大綱の中身とは | 前田 展弘 | 基礎研マンスリー |
2025/02/13 | 日本の高齢社会対策の行方~高齢社会対策大綱の中身とは | 前田 展弘 | 研究員の眼 |
2023/08/08 | 官民協働による高齢化課題解決の取組視点~85歳以上1000万人時代をどう支えるか | 前田 展弘 | 基礎研マンスリー |
2023/07/19 | 官民協働による高齢化課題解決の取組視点~85歳以上1000万人時代をどう支えるか | 前田 展弘 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年03月25日
ますます拡大する日本の死亡保障不足-「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査<速報版>」より- -
2025年03月25日
米国で広がる“出社義務化”の動きと日本企業の針路~人的資本経営の視点から~ -
2025年03月25日
産業クラスターを通じた脱炭素化-クラスターは温室効果ガス排出削減の潜在力を有している -
2025年03月25日
「大阪オフィス市場」の現況と見通し(2025年) -
2025年03月25日
ヘルスケアサービスのエビデンスに基づく「指針」公表
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【第4次産業革命への期待~高齢期の生活改善に向けて】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
第4次産業革命への期待~高齢期の生活改善に向けてのレポート Topへ