コラム
2017年05月15日

「えひめ方式」未婚化への挑戦(2)-未婚化・少子化社会データ再考-「高卒後男女エリア外流出」の現実

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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若年層の人口構造の変化の原因

なぜ愛媛県において、21歳あたりでそれまで男性超過だった男女の人口バランスが一気に変わるのだろうか。
 
地方において若い男性が同年齢女性を超える勢いであるエリアからいなくなる、もしくはエリアにおける女性比率が上がる理由として、一般的に思いつく議論の1つに「男性の方が他県の大学に進学するから」がある。

これに関して文部科学省の「平成27年学校基本調査」をみると、愛媛県の大学進学率は男性48.2%、女性56.0%であり、どこのエリアへ進学するかは別として、むしろ女性の方がより大学に進学しているといえる。また大学進学と同時に他県に異動することが男女人口構造変化の主な理由であれば、ほぼ18歳あたりで変化するはずにも思える。よって他県への進学によって男女差が逆転していることが変化の一番の要因とは、以上のデータのみでは指摘しにくい。
 
そこで、別のデータである総務省の住民基本台帳によって、愛媛県と他のエリア間の人口の移動状況を確認してみよう。
【図表3】愛媛県における男女の年齢別エリア増減(県外から流入-県外への流出)(人)
愛媛県の男女の年齢別エリア人口流出入の差(県外から愛媛県に転居してきた人の数と県外に出て行った人の人数差)をグラフ化すると(図表3)、明らかに30歳までの若い世代で県外への激しい人口流出超過が起こっていることが見て取れる。ここをもう少し詳しく見てみることとする(図表4)。
【図表4】愛媛県における30歳までの男女の年齢別エリア増減(県外から流入-県外への流出)(人)
図表3から、愛媛県において特に30歳までの若い男女の流出が激しいことがわかるため、次に、15歳から30歳の男女に絞って転出入の状況を見てみると(図表4)、高校卒業年齢の18歳で大量の男性の県外流出超過が起きていることが示されている。

確かに女性に関しても18歳(高卒後)から22歳(大卒後)における転出超過が生じているものの、男性の高卒直後の流出超過があまりに多いために国勢調査結果に見られる21歳における男女バランスの大きな変化(図表2)を招いているだろうことが示唆されている。

この高卒男子県外大量流出は、おそらくは愛媛県に高卒男子をより魅了するような進学先や産業が増加することによって解消されるであろうと予想されるが、本稿は愛媛県の教育・産業分析を目的としていないので省略したい。

若い世代に限らないが、愛媛県からの主な転出エリアは以下の通りとなっている。愛媛県からの人口の移動先エリアをみると、やはり進学のみならず就業目的でも転出したと考えられるエリアとなっているといえるのではないだろうか。
【図表5】転入前の住所が「愛媛県」人口、移動先ベスト5(2016年:人)

エリア一丸となって探さなければ困難を極める「見えない」お相手探し

以上から、愛媛県においては、小規模な事業所が大半であるという事情だけでなく、高校卒業後の若い男女の居住者数の県外転出による若者の激減も、より一層、適齢期の結婚相手探しを難しくしているだろうことが指摘出来る。

激減した後の若い男女がエリアに「点在」する状況において、そのマッチングを図らなければならない。
 
前回のコラムの後、筆者に寄せられたえひめの結婚支援者からの声にも「取引先の社長がお嬢さんのお相手探しに必死で、まずは取引の話よりも社長令嬢の結婚お相手探しの話で社長と懇意になれました」というものがあった。上記データに非常にマッチした話である。
 
愛媛県では、高校生まではまだしも、その後はエリア内で一気に減少する若い男女の間でのマッチングを目指さなくてはならない状況となっている。容易には身近に「見えない」若者同士のマッチング。自然な出会いを期待することは問題の解決を困難にするばかりである。
 
 
このような状況下、えひめ一丸となった結婚支援活動が、法人会を中心に独特な方法によって開発されてきた。このようなえひめの状況は実は全国的な地方部における共通課題ともいえるため、えひめの挑戦の詳細を次号以降で紹介したい。
 
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2017年05月15日「研究員の眼」)

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