コラム
2017年04月10日

「えひめ方式」未婚化への挑戦(1)-世界ランキングお年寄り大国第1位日本・少子化社会データ再考-地方を揺るがす「後継者問題」

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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はじめに

平成27年国勢調査の速報集計結果で日本は今や「世界一のお年寄り大国」であることが示された(図表1)。1950年からの人口に占める65歳以上人口の割合の上昇度合いには驚くものがある。
【図表1】65歳以上人口割合の状況65年間の推移(%)
最新の国勢調査結果からは65歳以上人口は27%であり、日本は4人に1人以上がお年寄りの国となった。確かに筆者が子どもの頃に比べると、大都会で若者が最も集中している東京でさえも道行く人が随分「年をとって」しまった。

お年寄り人口の割合が増加する要因としては、15歳未満の子ども人口がこれまた世界最低、という減少し続ける子ども現象、すなわち少子化がある。15歳未満人口の割合は12.6%であり、同じく少子化が続くドイツ、イタリア、韓国よりも低水準、すなわち世界最下位となっている1

なぜ次世代を担う子どもが産まれないのか、についてはデータからは未婚化が大きな要因となっていることは「2つの出生力推移データが示す日本の『次世代育成力』課題の誤解-少子化社会データ再考:スルーされ続けた次世代育成の3ステップ構造」で説明したので、本稿ではその未婚化に立ち向かう人々にとって参考となるデータを紹介したい。

中でも全国に広がりをみせる「えひめ方式」については、日本各地における今後の活用が十分に行われるためにも、シリーズで取り上げることとする。
 
本稿では愛媛県における取組をあえて「えひめ」と標記する。これは「愛媛県の取組」とするとさも官製であるかのような大きな誤解をもつ読者が発生する可能性があると考えたためである。

愛媛県という行政エリアにおける、そのエリアの人々からの自然発生的な取組であることを大前提としていることを示すため、愛媛県という行政区に住むエリアの人々を「えひめ」と総称する。
 
1 総務省「平成2 7 年国勢調査人口等基本集計結果」

なぜ未婚化問題に立ち向かっているのか

えひめはなぜ未婚化に立ち向かっているのだろうか。シンプルな疑問であるので、本シリーズの最初で示しておきたい。

まず、えひめの結婚支援活動の旗振り役を担っているのは「えひめ結婚支援センター」である。このえひめ結婚支援センター(以下、センター)を運営しているのは、一般社団法人愛媛県法人会連合会(以下、法人会)である。愛媛県において結婚支援活動が盛んであることを知っている人は少なからずいるが、法人会が運営していることを知っている人は多くないようである。
 
ではなぜ、法人会が運営をしているのか、というのが次なる疑問となる。

センターが開設されたのは実に今から約9年も前の平成20年11月である2。結婚支援が国全体で大きく取り上げられるようになったのは2016年であることを考えると、かなり先進的な取組であるといえる。えひめの法人会がなぜ早期に未婚化対策を開始したのか。

これへの回答は、国の経済センサスの愛媛県の事業所状況結果をみると明らかである(図表2)。
 
2 愛媛銀行「ひめぎん情報」2013年秋号
【図表2】愛媛県 従業員規模別の民営事業所割合(%)
図表2からは愛媛県の事業所の6割が4人以下の従業員の事業所であり、従業員が9人以下の事業所も合わせると約8割が小規模事業所であることがわかる。
 
19人以下の事業所で9割を超える愛媛県の事業所。

東京の未婚男女が口にする「自然な出会い」「社内恋愛」といったものは、ある程度の人数が事業所に勤務していればまだ見込みがある。しかし、高齢化が進む中、従業員が10人に満たない事業所においてこの「自然な出会い」を求めるのは当然、ハードルが高すぎる、といえるだろう。

働く人の従業上のステータスを見ても、自営業者とその家族従業者で2割を超えている(平成22年国勢調査結果)。

愛媛県は、後継者に結婚相手が見つからず子どもが生まれない、孫が生まれない、といった一般的な後継者問題が、そのまま深刻な会社・家業・伝統などの存続問題となりかねないエリアなのである。

実際、筆者が愛媛県でヒアリングを行った際も、素晴らしい日本酒を製造する酒造などにおいて後継者問題が深刻化しつつある、との声を耳にした。
 
社長や役員のポジションを巡って激しい競争が起こりうるような大企業文化のある都会の人間からは想像もできないことが「地方のリアル」である。そして、そのリアルとの戦いが既に10年程度も前から始まっていることを、都会という「全国への発信基地」の集約されたエリアの人々もよく知っておかねばならない。

あるエリアの人々が、全くエリア事情の異なる人々の活動に対して、想像力の問題から「そんな活動など必要ないのではないか」といった間違った指摘や発信をする可能性は低くはないだろう。
 
以上の様に、えひめの「深刻な後継者問題」解消に向けて、企業の適正な納税を啓発・普及する企業のサポート団体である「法人会」がその会員の日頃の悩みをうけ、センター設立に立ち上がったのである。
 
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2017年04月10日「研究員の眼」)

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