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損失抑制に向けたDB運用-国内債券の保険的な役割の有効性や必要性を踏まえて

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 梅内 俊樹
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1――転機を迎えるDB運用

他方、国内債券の構成比率には大きな変化は見られない。2016年度末の構成比率は、2009年度末とほぼ同水準の30%近くに維持されている。もちろん、構成比率が高位に維持されているとは言え、継続的に金利が低下し、昨年度には10年国債金利までもが短期的にマイナスに陥る過程で、国内債券の運用については、既に様々な工夫や変更が実施されているものと思われる。しかしながら、昨年9月に金融緩和政策の転換が決定されたことを受け、市場金利の見通しに修正が迫られつつある中、改めて国内債券の運用のあり方を検証することは無駄ではないであろう。以下では、国内債券の運用のあり方を、主に市場金利が一定のレンジで推移することを前提として確認し、その上で、金利上昇にも備える運用のあり方について考えたい。
2――金融緩和政策で変わるイールドカーブの推移
こうした状況下、昨年9月に導入が決定されたのが、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策」だ。10年国債金利にも目標水準0%を設定する「イールドカーブ・コントロール」と、物価上昇率の実績値が安定的に2%の「物価安定の目標」を超えるまでマネタリーベースの拡大を続ける「オーバーシュート型コミットメント」の導入を柱とする政策への転換である。10年国債金利のマイナス幅拡大に歯止めが掛かったという点で、あるいは、金融緩和政策の長期戦が視野に入れられている点で、国内債券の運用のあり方にも影響を及ぼす政策変更と言える。

3――大きく低下する国内債券の保険的な機能や役割

DBの平均的な内外株式の構成比率は、国内株式を中心に年々引き下げられてきた。しかしながら、内外株式のポートフォリオ全体のリスクに占める割合は8割弱を占め、内外株式のリターンが年金資産全体のパフォーマンスを大きく左右する状況は、過去から大きく変わっていない。株価下落局面で、ポートフォリオ全体の運用損失を如何に抑制するかが、安定的なDB運営を実現する上での重要な課題となっている。
過去を振り返ると、国内債券がその役割を果たしてきたことが分かる。国内債券と国内株式の相関係数の推移を見ると、1994年以降ほぼ一貫してマイナスで推移している。国内債券と外国株式との相関係数についても、1994年から2007年にかけて0近辺で推移したものの、その後はマイナスに転じ、2007年以降は、国内株式とほぼ同水準でのマイナスが続いている。また、国内債券と外国債券の相関係数が2012年以降、大幅なマイナスで推移していることも特徴的だ。国内債券と円ドルレートの相関がここ数年マイナスとなっていることが、為替レートの変動に左右されやすい外国債券との相関にも反映されているためである。
こうした国内債券と他の資産との間に見られる負の相関関係は、経済のグローバル化の進展により、内外株式の連動性が高まっていることや、リスクオフ時に円が買われる傾向が強まっていることが背景と考えられる。リスクオフ時に円高が進むことについては、理論的な裏づけがある訳ではないが、円キャリートレードが一因であることを勘案すれば、日本で超金融緩和政策が続く限り、国内債券と他の資産との負の相関関係が継続される可能は高いと見ることもできる。その意味では、年金運用の安定化を図る上で、国内債券に期待される役割は引き続き重要と言える。
しかしながら、国内のイールドカーブが仮定のレンジ内で推移することを前提にすれば、当面は、国内債券に期待されてきた役割が十分に機能しない可能性がある。市場金利の低下余地が限られ、十分な収益を上げられないためだ。特に、残存10年以下の債券で、こうした傾向が顕著である。このため、イールドカーブが一定のレンジ内で推移するとの仮定の下では、レンジの下限までの金利低下余地が大きく、相対的に高いリターンが見込まれる残存10年超の超長期債を重視すべきことになる。ちなみに、市場金利が現在の水準から下限まで低下する場合、超長期債への投資により10%程度のリターンが見込まれるため、その効果は決して小さくはない。また、残存10年超の債券は、10年以下の債券に比べ高めのキャリー収益が見込まれ、イールドカーブが一定で推移した場合の収益性も相対的に高い。こうした点を踏まえると、国内債券を一括りに捉えるのではなく、当面は残存10年以下と10年超に分けて、投資のあり方を考えることが重要だろう。
(2017年04月28日「基礎研レポート」)

03-3512-1849
- 【職歴】
1988年 日本生命保険相互会社入社
1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
2009年 ニッセイ基礎研究所
2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
2013年7月より現職
2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
2021年 ESG推進室 兼務
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