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地域医療構想と病床規制の行方-在宅医療の体制づくりが急がれるのは、どのような構想区域か?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――はじめに
本稿では、病床機能の変更を中心に、今後の地域医療の変化について概観することとしたい。1
1 本稿は、「地域医療構想をどう策定するか」松田晋哉(医学書院, 2015年)を参考にしている。
2――地域医療構想とは
1|将来の医療需要と病床の必要量を推計し、医療提供体制実現の施策を立てる
地域医療構想としてまとめる事項は、大きく2つに分けられる。1つは、将来(2025年)の医療の必要量。これは、構想区域(原則として、二次医療圏)ごとに、所定の計算式で算定された病床の機能区分(次章にて詳述)別の床数と、在宅医療等の患者数である。もう1つは、目指すべき医療提供体制を実現するための施策。この施策は、例えば、医療機能の分化・連携推進のための施設整備策、人材確保・養成策、在宅医療の充実策などを指す。
地域医療構想は、都道府県が医療計画2の一部として策定する。この策定を通じて、各医療機関の機能分化が図られる。また、構想の策定、実施を後押しする仕組みとして、地域医療構想調整会議、病床機能報告制度、地域医療介護総合確保基金の仕組みが整備されている。以下、簡単に見ていこう。
2 医療計画は、医療法第30条の4により、都道府県が定めるものとされている。これまでに、1985年の第一次計画から、数年ごとに策定されてきた。2014年には、第六次計画が策定された。そこでは、メンタルヘルスや認知症の問題の深刻化を受けて、精神疾患が医療提供体制の整備計画の対象として追加された。また、地域包括ケアの推進に向けて、居宅などでの医療体制構築についても、他の疾患・事業と同様、県の数値目標等の記載が求められることとなった。地域医療構想は、医療介護総合確保推進法に基づいて、2015年度から策定することとされている。策定期限は、法律上は2018年3月末であるが、厚生労働省は2016年半ば頃までの策定が望ましいとしてきた。各都道府県は、2017年3月までに策定している。
地域医療構想調整会議(以下、「調整会議」)は、地域医療構想を策定する際の、協議の場である。調整会議のメンバーは、地域医療を提供する医師会・病院団体と、医療費の支払側である保険者、地域医療を監督する都道府県。介護関係の検討を要することがあるため、合議内容によっては、介護関係者や介護保険の保険者としての市町村、医療・介護の保険制度を支えてサービスを受ける立場の住民の代表も加わる。そして、地域の患者数や医師数などのデータを、分析・解釈する研究者も加わる。
調整会議には、地域の医療市場を規定する側面がある。このため、医療関係者は大きな関心を持って臨む。ともすれば、議論が具体根拠を欠いたまま、観念的なやり取りに終始しかねない。また、住民の代表は、地域医療の実状がつかみにくく、議論に加わること自体が難しい場合もある。そこで、合理的な議論や決定のために、DPC、NDBデータ等3による、科学的なアプローチが有用とされている。
3 DPCは、Diagnosis Procedure Combinationの略。診療報酬の包括評価を行うDPC対象病院の医療費等のデータを指す。一方、NDBは、National Databaseの略。2008年から国が収集している、レセプトデータや、特定健康診査等のデータを指す。
病床機能報告制度は、調整会議の議論の前提として、病床の現状を医療機関から報告するための仕組みである。この制度は、2014年より始まっており、毎年、7月1日時点の病床数を、機能別に報告する。併せて、各病院の、今後の病床の方向性についても、報告してもらうものとなっている。
地域医療介護総合確保基金は、都道府県が設けるもので、地域医療構想の実現のために、医療従事者の確保・養成、在宅医療や介護サービスの充実などの経費に充てるものとされている。従来より、医療政策の実現には、診療報酬制度が用いられている。しかし、診療報酬は、診療の対価であり、医療体制の整備の評価には用いづらい。また、診療報酬は全国一律のものであり、地域に応じた医療政策は反映させにくい。こうしたことを受けて、2014年に、税負担による基金が設立されている4。
4 基金造成にあたり、費用の2/3は、国が負担することとされた。
3――地域医療構想の策定
上記の3.のプロセスで、構想区域は、原則として二次医療圏であるが、患者の受療行動等を勘案して、別の区分で設定することもできる。今回、都道府県が公表した地域医療構想によると、福島、神奈川、愛知、三重、香川、熊本の6つの県で、二次医療圏とは異なる構想区域を設定している。この結果、全国で、344の二次医療圏に対して、構想区域の数は341と、若干異なる結果となっている。
5具体的には、DPCにおける、1日あたり出来高換算コストの分布状況が参考にされた。
6 入院基本料相当分・リハビリテーション料の一部を除いた1日当たりの診療報酬出来高点数。1点は、10円に相当する。
7 DPCの医療機関については、患者ごとに、入院日数を4つの機能に分解・集計して、それぞれの医療需要を算出。DPC以外の医療機関については、ナショナルデータベースとして収集されたレセプト(診療報酬明細書)をもとに計算する。
8 病床稼働率は、ある一時点の病床利用率に、その日の退院患者数を加えたものとして、実績をもとに設定されている。具体的な水準は、高度急性期75%、急性期78%、回復期90%、慢性期92%、とされている。
9 主として、長期にわたり療養を必要とする患者のための病床のこと。主に、急性期の入院治療を必要とする患者のための病床である一般病床とは、別の概念。医療保険対象の医療療養型病床と、介護保険対象の介護療養型病床の2種類がある。
10 医療制度上、患者は、24時間持続点滴などを行う医療区分3、(医療区分3以外で)筋ジストロフィーや肺炎などを患う医療区分2、それ以外の医療区分1、の3つの区分に分けられる。
11 2013年の療養病床の入院受療率(人口10万人あたり入院患者数)は、最小: 山形(81%)、最大: 高知(391%)、中央値: 滋賀(144%)。
(2017年04月24日「基礎研レター」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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