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気候変動「適応ビジネス」 (その2)-TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言からみた日本企業の気候リスク

客員研究員 川村 雅彦
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気候関連リスク
気候関連リスクは、大きく2つのカテゴリーに分かれる。一つは低炭素経済への移行に関連するリスク(移行リスク)、もう一つは気候変動の物理的影響に関連したリスク(物理的リスク)である(図表3)。一般に、突発的で目に見えやすい後者だけに注目しがち(例えば、BCPの必要性)だが、時間軸のある構造的な経営リスクとして前者にも十分留意すべきである。
1) 移行リスク(Transition Risks)
低炭素経済への移行は、気候変動の緩和策や適応策に対応して、広範囲に及ぶ行政政策、法規制、技術革新、さらに商品市場などの変化をもたらす。これらの法的・技術的・経済的・市場的・社会的な変化の性質や速度、重点などに応じて、様々なレベルの財務インパクトが考えられる。
(1) 政策・法規制リスク:気候変動の悪影響の原因の緩和策、適応策の促進
(2) 技術リスク:エネルギー効率の向上と低炭素技術の研究開発と導入
(3) 市場リスク:特定の製品・サービスの需要と供給の変化
(4) 評判リスク:低炭素経済への移行に対する貢献評価か信頼喪失
2) 物理的リスク(Physical Risks)
地球温暖化ないし気候変動に起因する物理的リスクには、急性と慢性がある。すなわち、異常気象による気象災害などの事象(突発的な急性リスク)と、より長期的な気温分布の北上を含む気候パターンや降雨パターンの変化(緩行的な慢性リスク)がある。また、猛暑日や熱帯夜などの極端な温度変化による日常業務への障害もある。これらの結果、生産量や販売量の減少による経済的・財務的な悪影響を被る可能性がある。
(1) 急性リスク:台風やゲリラ豪雨などの異常気象や洪水が激化することによる、設備や資産に対する直接的な損失・損害、サプライチェーンの寸断・途絶による間接的な影響。
(2) 慢性リスク:海水面の上昇、干ばつや熱波の原因となる気候や降雨パターンの長期的変化による事業存続問題、あるいは作物の温度障害などによる生産性の低下による売上高の減少。
本稿は気候関連リスクを主題とするが、ここでは気候関連機会について簡単に触れておきたい。気候変動の緩和や適応に関する企業のビジネスチャンスには様々なものが考えられるが、TCFDは以下の5分類としている。
1) 資源の効率化:エネルギーや原材料、水資源の適切利用・管理による操業コストの減少
2) エネルギー源:炭素排出の少ない代替エネルギー投資は世界的に増加傾向
3) 製品・サービス:低炭素排出型の製品・サービスの競争力強化
4) 市場:低炭素経済への移行期における新規市場や新型資産の先行ポジショニングの獲得
5) 復元力:気候関連リスクを抱える顧客・消費者の改善ニーズは商機
なお、気候変動にかかわるビジネス開発においては、多様な顧客・消費者のニーズに応えるために、その様々な気候関連リスクを本質的に理解しておくことが不可欠である。そのためにも、自らの気候関連リスクをしっかりと把握・理解しておくことが肝要である。
2――「CDP Aリスト」日本企業の気候リスクの開示状況
TCFDは、気候関連の財務インパクトが高い非金融セクターのための情報開示補助ガイダンスを作成するにあたり、移行リスク(政策・法規制、技術、市場、評判)と物理的リスク(急性と慢性)の両方に影響を受けやすい3要素(CO2排出、エネルギー使用、水使用)を評価対象とした。
この3要素に基づく事業活動と気候関連リスクの影響の組み合わせから、4つの産業分類を抽出した。すなわち、エネルギー、運輸、原料・建築物、農業・食糧・林業製品の4分類である(図表4)。ただし、固定的・限定的な業種分類を意味するものではないとの記述がある。
他方、「CDP気候変動」プロジェクトは、毎年、日本版を発行している。そこで、図表4にはTCFD業種分類に合わせて、2015年版と2016年版における最高クラスである「Aリスト」認定の日本企業を記載した。企業数はまだ限定的であるが、2016年版の認定企業は増えている。業種的にはエネルギー分野での認定企業はないが、比較的分散している。
(2017年03月31日「基礎研レポート」)
客員研究員
川村 雅彦
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