2017年03月15日

共働き・子育て世帯の消費実態(1)-少子化でも世帯数は増加、収入減で消費抑制、貯蓄増と保険離れ

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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2夫妻の収入の状況~パートタイム妻以外は、いずれも減少傾向、減少幅は高収入で大きい傾向
次に、夫婦それぞれの収入について見ると、妻より夫の方が多く、夫の収入は、直近ではいずれも40万円台半ばであり、専業主婦世帯の夫、あるいは共働き・妻パートタイム世帯の夫で多い傾向がある(図表7)。また、共働き・妻パートタイム世帯の妻を除くと、いずれも収入は減少傾向にある(図表7・8)。この違いには、「103万円の壁」の範囲で働く妻では景気低迷による賃金減少等の影響は比較的小さいが、フルタイムで働く労働者では影響を受けやすいことなどがある。なお、減少幅は収入が多い方が大きい傾向があり、専業主婦世帯の夫(2000年から2016年で▲3.0万円、実質▲7.4%pt)、共働き・妻パートタイム世帯の夫(▲2.8万円、▲6.9%pt)、共働き・妻フルタイム世帯の夫(▲2.5万円、▲6.6%pt)、共働き・妻フルタイム世帯の妻(▲1.9万円、▲9.0%pt)の順である。

以上より、2000年以降の世帯収入減少の背景には、パートタイム以外の有業者の収入減少があり、影響を受ける人数が二人である共働き・妻フルタイム世帯では世帯収入の減少幅も大きくなっている。
図表7 専業主婦世帯と妻の収入別に見た共働き世帯の夫妻の収入の推移/図表8 専業主婦世帯と妻の収入別に見た共働き世帯の夫妻の収入の実質増減率(対2000年)の推移
3子育て世帯の収入の状況~世帯収入は共働き、夫の収入は専業主婦世帯で多く、いずれも減少傾向
同様に、子育て世帯の収入について確認する。なお、本稿では子育て世帯として、夫婦と未婚の子2人の核家族世帯とし、専業主婦・子育て世帯と共働き・子育て世帯のそれぞれについて捉える。

子育て世帯の世帯収入は、専業主婦世帯より共働き世帯の方が多いが、2000年以降、いずれも減少傾向にある(図表9)。減少幅は世帯収入の多い共働き世帯で大きく、共働き・子育て世帯の世帯収入は、2000年から2016年にかけて、64.1万円から60.4万円(▲3.7万円、実質▲7.1%)へ、専業主婦・子育て世帯では54.2万円から51.9万円(▲2.3万円、▲5.5%)へと減少している(図表9・10)。

また、夫婦の収入を見ると、共働き世帯では妻より夫の方が多く、夫では共働き・子育て世帯より専業主婦・子育て世帯の方が多い(図表11)。また、夫同士の差は、やや拡大傾向にある。共働き・子育て世帯の妻の収入は、2000年から2016年にかけて、11.8万円から12.7万円(+8千円、実質+5.6%pt)へとやや増加しているが、共働き世帯の夫は50.2万円から44.8万円(▲5.4万円、▲11.9%pt)へ、専業主婦世帯の夫は52.5万円から49.4万円(▲3.1万円、▲7.1%pt)へと減少している。
図表9 子どのもいる専業主婦世帯と共働き世帯の実収入の推移/図表10 子どのもいる専業主婦世帯と共働き世帯の実収入の実質増減率(対2000年)の推移/図表11 子どのもいる専業主婦世帯と共働き世帯の夫妻の収入の推移/図表12 子どのもいる専業主婦世帯と共働き世帯の夫妻の収入の実質増減率(対2000年)の推移
つまり、共働き・子育て世帯では、妻の収入がやや増えているものの、それを上回って夫の収入が減っているため、世帯収入は減少している。

なお、子育て世帯の世帯主の平均年齢は、専業主婦世帯より共働き世帯の方が高く、いずれも上昇傾向にある。2000年から2016年にかけて、専業主婦・子育て世帯では39.2歳から41.7歳(+2.5歳)へと上昇し、共働き・子育て世帯では42.5歳から43.1歳(+0.6歳)へとやや上昇している。これらの背景には、晩婚化や晩産化の進行に加え、母親の就業率が上昇しているとはいえ、低年齢児を持つ母親ほど就業率が低い(親の年齢が若いほど専業主婦世帯が多い)ことがあげられる。

よって、子育て世帯では専業主婦世帯の方が世帯主の平均年齢が低く、専業主婦世帯の夫の方が収入は多いこと(2016年で+4.6万円)をあわせると、専業主婦世帯と共働き世帯の夫が同年齢であった場合、収入差は4.6万円より若干広がる可能性がある。

以上より、共働き世帯では、全体でも、子育て世帯に注目して見ても、専業主婦世帯より世帯収入が多い。しかし、労働者が複数いることで景気低迷の影響を受けやすく、減少幅も比較的大きい。なお、夫の収入は、全体では共働き世帯と専業主婦世帯でおおむね変わらないが、子育て世帯では専業主婦世帯の夫の方が多い。世帯主の平均年齢も低いことから、子育て世帯の専業主婦世帯の夫は比較的、雇用環境が良い者が多い様子もうかがえる。
 

4――消費支出や預貯金、保険の状況

4――消費支出や預貯金、保険の状況

1消費支出の状況~世帯収入と同様に共働き世帯で多いが、いずれも収入減にあわせて消費抑制
次に、前節で収入を確認した世帯について、消費や貯蓄の状況を確認する。消費支出は、直近では、いずれも30万円台前半であり、世帯収入が多いほど多く、共働き・妻フルタイム世帯(2016年で34.9万円)>共働き・子育て世帯(33.8万円)>共働き・妻パートタイム世帯(32.8万円)>専業主婦・子育て世帯(30.3万円)>専業主婦世帯(30.1万円)の順である(図表13)。消費支出は、最も多い共働き・妻フルタイム世帯と最も少ない専業主婦世帯では約5万円の差がある。

なお、いずれも減少傾向にあり、2000年から2016年にかけての減少幅は、おおむね支出額が多いほど大きく、共働き・妻フルタイム世帯(▲4.7万円、実質▲13.1%pt)>共働き・妻パートタイム世帯(▲3.0万円、▲9.6%pt)>共働き・子育て世帯(▲2.9万円、▲9.0%pt)>専業主婦・子育て世帯(▲2.8万円、▲9.6%pt)>専業主婦世帯(▲2.4万円、▲8.6%pt)の順である(図表13・14)。
図表13 消費支出の推移/図表14 消費支出の実質増減率(対2000年)の推移
また、消費性向は、世帯収入が少ない順に高く(基礎的支出が世帯収入に占める割合が高くなるため)、専業主婦世帯(2016年で75.7%)>専業主婦・子2人世帯(72.1%)>共働き・妻パートタイム世帯(70.6%)>共働き・子2人世帯(68.2%)>共働き・妻フルタイム世帯(61.2%)の順で、最も高い専業主婦世帯と最も低い共働き・フルタイム世帯では約15%の差がある(図表15)。なお、いずれもおおむね横ばいで推移しており、世帯収入や消費支出は減少傾向にあることとあわせると、いずれの世帯においても同様に、収入の減少にあわせて消費を抑制している様子がうかがえる。
図表15 消費性向の推移
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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