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2017年03月09日
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ECB金融政策:17年中は600億ユーロの資産買い入れを約束。政策金利は据え置き
予測期間中、政策金利は現状水準を維持すると思われる。既述のとおり、ユーロ圏経済の拡大ペースが緩やかで、過剰債務の圧力もあり、投資の回復が弱い。労働市場の余剰も解消しておらず、ECBの著しく緩和的な金融政策が必要とされている。
しかし、14年6月以降のデフレ・リスクに対応した措置は徐々に修正されるだろう。TLTROは14年6月から3カ月毎に実施、16年3月からは貸出のベンチマークを超えた金融機関にはその度合いに応じて中銀預金金利までのマイナス金利を適用するTLTROⅡにバージョンアップした。TLTROIIは17年3月が最終となるが、プログラムをいったん打ち切る可能性がある。
4月から200億ユーロ額を減らす資産買い入れについては、すでに名目GDP比4割近い水準まで達している。政治イベントが相次ぐ17年の継続はやむを得ないとしても、18年入り後は一段の買い入れ規模の縮小に進むと見られる。
しかし、14年6月以降のデフレ・リスクに対応した措置は徐々に修正されるだろう。TLTROは14年6月から3カ月毎に実施、16年3月からは貸出のベンチマークを超えた金融機関にはその度合いに応じて中銀預金金利までのマイナス金利を適用するTLTROⅡにバージョンアップした。TLTROIIは17年3月が最終となるが、プログラムをいったん打ち切る可能性がある。
4月から200億ユーロ額を減らす資産買い入れについては、すでに名目GDP比4割近い水準まで達している。政治イベントが相次ぐ17年の継続はやむを得ないとしても、18年入り後は一段の買い入れ規模の縮小に進むと見られる。
ユーロ圏見通しのリスク:極右・ポピュリストによる政権掌握と米国の政策
見通しのリスクは大きく2つある。
1つは、3月15日のオランダ総選挙を皮切りとする主要国の国政選挙(図表11)でEU離脱やユーロ離脱を公約に掲げる極右・ポピュリスト政権が誕生し政策が混乱するリスクである。
もう1つは、米国のトランプ政権の政策期待の剥落や保護主義的通商政策、連邦準備制度理事会(FRB)の利上げによる資本流出の加速で持ち直しつつある新興国の景気が再失速するなどの影響がユーロ圏に及ぶリスクである。
うち、圏内の政治リスクについて、別稿で論じたとおり(注1)、ユーロ圏主要国で極右・ポピュリストへの支持が広がっているとは言え、過半数の支持を得るまでには至らないことから、単独政権や大統領の誕生はなく、政策の混乱は回避されると見ている。ユーロ離脱やEU離脱の国民投票の実現には法的なハードルも高い(図表12)。EUの創設メンバーの国々が、英国よりも深く統合に組み込まれ、その利益を享受しているという面からも、一連の政治イベントが離脱のドミノにつながることはないと考えている。
しかし、リスク・シナリオとして、やはりフランス大統領選挙におけるルペン氏勝利は十分警戒したいと思っている。2月下旬からの欧州出張では、ルペン氏の公約の実現が可能か否かという以上に、ドイツとともに統合を牽引してきたフランスの国民が反EUの大統領を選ぶことが重い意味を持っているということを強く感じた(注2)。
米国の政策については、まだ不確実な面が多いが、すでに影響として表われているのは、大統領選挙後の米国の長期金利の上昇に連動したユーロ参加各国の長期金利上昇だ(図表13)。資産買入れが継続されているため、水準的にはまだ低いものの、フランスやイタリアなど政治リスクが警戒される国ではリスク・プレミアムが上乗せされる現象も見られる(図表14)。ECBは直接監督する銀行の金利上昇リスクに対する耐性を点検する特別ストレス・テストを行なう方針を表明している。米国の政権交代による政策の軌道修正と市場参加者らの期待の変化は、これから先もユーロ圏の経済や市場に影響することになるだろう。
(注1)Weeklyエコノミスト・レター2017-02-10「トランプ大統領の米国とEU-統合の遠心力はますます強まるのか?http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55040&pno=3&site=nli」をご参照下さい。
(注2)研究員の眼2017年3月3日「気がかりな3つの断層-ロンドン、パリ、ブリュッセル、フランクフルトを訪れて感じたことhttp://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55202?site=nli」をご参照下さい。
1つは、3月15日のオランダ総選挙を皮切りとする主要国の国政選挙(図表11)でEU離脱やユーロ離脱を公約に掲げる極右・ポピュリスト政権が誕生し政策が混乱するリスクである。
もう1つは、米国のトランプ政権の政策期待の剥落や保護主義的通商政策、連邦準備制度理事会(FRB)の利上げによる資本流出の加速で持ち直しつつある新興国の景気が再失速するなどの影響がユーロ圏に及ぶリスクである。
うち、圏内の政治リスクについて、別稿で論じたとおり(注1)、ユーロ圏主要国で極右・ポピュリストへの支持が広がっているとは言え、過半数の支持を得るまでには至らないことから、単独政権や大統領の誕生はなく、政策の混乱は回避されると見ている。ユーロ離脱やEU離脱の国民投票の実現には法的なハードルも高い(図表12)。EUの創設メンバーの国々が、英国よりも深く統合に組み込まれ、その利益を享受しているという面からも、一連の政治イベントが離脱のドミノにつながることはないと考えている。
しかし、リスク・シナリオとして、やはりフランス大統領選挙におけるルペン氏勝利は十分警戒したいと思っている。2月下旬からの欧州出張では、ルペン氏の公約の実現が可能か否かという以上に、ドイツとともに統合を牽引してきたフランスの国民が反EUの大統領を選ぶことが重い意味を持っているということを強く感じた(注2)。
米国の政策については、まだ不確実な面が多いが、すでに影響として表われているのは、大統領選挙後の米国の長期金利の上昇に連動したユーロ参加各国の長期金利上昇だ(図表13)。資産買入れが継続されているため、水準的にはまだ低いものの、フランスやイタリアなど政治リスクが警戒される国ではリスク・プレミアムが上乗せされる現象も見られる(図表14)。ECBは直接監督する銀行の金利上昇リスクに対する耐性を点検する特別ストレス・テストを行なう方針を表明している。米国の政権交代による政策の軌道修正と市場参加者らの期待の変化は、これから先もユーロ圏の経済や市場に影響することになるだろう。
(注1)Weeklyエコノミスト・レター2017-02-10「トランプ大統領の米国とEU-統合の遠心力はますます強まるのか?http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55040&pno=3&site=nli」をご参照下さい。
(注2)研究員の眼2017年3月3日「気がかりな3つの断層-ロンドン、パリ、ブリュッセル、フランクフルトを訪れて感じたことhttp://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55202?site=nli」をご参照下さい。
(2017年03月09日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- ・ 1987年 日本興業銀行入行
・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
・ 2023年7月から現職
・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
・ 2017年度~ 日本EU学会理事
・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
「欧州政策パネル」メンバー
・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員
伊藤 さゆりのレポート
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