2017年02月08日

GDP統計の改定で1%近くまで高まった日本の潜在成長率-ゼロ%台前半を前提にした悲観論は間違いだった?

基礎研REPORT(冊子版) 2017年2月号

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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内閣府は2016年12月に国民経済計算(GDP統計)の最新国際基準である2008SNA(従来は「1993SNA」)への対応を含む基準改定(2005年基準→2011年基準)の結果を公表した。

新聞などで大きく取り上げられたのは、2008SNAへの対応によって研究・開発(R&D)への支出が新たに計上されたことなどから2015年度の名目GDPの水準が31.6兆円かさ上げされたことだ。これにより2020年頃に名目GDP600兆円を達成するという政府目標が近づいた。しかし、筆者がそれ以上に注目したのは2013年度から2015年度までの3年間の実質GDP成長率が年平均で0.5%も上方改定されたことである。実質GDP成長率の上方改定は潜在成長率の上昇につながることが想定されるためだ。

最新のGDP統計をもとに潜在成長率を改めて推計したところ、旧基準のデータを用いた推計値から2011年度以降上方改定され、直近(2016年度上期)では0.9%と従来の推計値よりも0.5%程度高くなった。さらに過去にさかのぼると1990年代前半から2000年代初頭にかけて若干上方改定される一方、2002年度から2010年度までは若干下方改定された。

長い目でみれば日本経済の実力とされる潜在成長率の水準はほとんど変わらないが、ゼロ%台前半となっていた直近の潜在成長率が1%近くまで上方改定される形となった[図表1]。
潜在成長率の改定方向は実質GDP成長率の改定方向と概ね一致している。これは潜在成長率の推計値が現実の成長率で決まる部分が大きいためである。

潜在GDPは資本投入量、労働投入量、TFP(全要素生産性)によって決まるが、このうちTFPは現実のGDPから資本・労働投入量を差し引くことによって求められる。このため、TFP上昇率は現実のGDP成長率に大きく依存する。従来の推計と今回の推計で資本、労働に関するデータは変わっていないため、潜在成長率の改定はGDP統計の改定に伴いTFP上昇率が修正されたことによるものである。

筆者は2016年8月に執筆した「日本の潜在成長率は本当にゼロ%台前半なのか」の中で、潜在成長率の推計値は実績値の改定や先行きの成長率によって事後的に大きく変わりうるため、ゼロ%台前半とされている潜在成長率を所与のものとして日本経済の将来を考える必要はないことを指摘した。今回は実績値の改定によって潜在成長率が過去にさかのぼって改定される形となりそうだ。

内閣府、日本銀行が定期的に公表している潜在成長率の推計値は直近でいずれもゼロ%台前半だが、これは旧基準のGDP統計に基づくものだ。今後、内閣府、日本銀行が新基準のGDP統計を用いて推計する潜在成長率の水準が従来よりも高まることは間違いないだろう。今回のGDP統計に改定によって、日本の潜在成長率がゼロ%台前半という見方は過去のものとなる公算が大きい。

もともと潜在成長率は十分な幅を持ってみるべき不確実性の高いデータで、その数値の変化に一喜一憂すべきではない。また、統計が改定されたからといって日本経済の実力が実態として変わったわけではない。ただ、これまでは潜在成長率がゼロ%台前半とされていたことが、人口が減少している日本はゼロ成長が当然といった見方の裏付けのひとつとなっていたように思われる。GDP統計の改定に伴う潜在成長率の上方改定はこうした悲観論の払拭に一定の役割を果たす可能性もあるだろう。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2017年02月08日「基礎研マンスリー」)

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