2017年01月24日

EIOPAによる2016年度保険ストレステストの結果について(1)-EIOPAの報告書の概要報告-

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1―はじめに

EIOPA(欧州保険年金監督局)は、2016年12月16日に、「長期保証措置と株式リスク措置に関する報告書2016(Report on long-term guarantees measures and measures on equity risk 2016)」1を公表した。併せて、前日の2016年12月15日に「2016 EIOPA保険ストレステスト報告書(2016 EIOPA Insurance Stress Test Report)」2(以下、「今回の報告書」という)も公表した。

前者の報告書の概要については、これまで4回のレポートで報告した。その中で、必要に応じて、後者の報告書からの分析結果についても引用してきた。今後の4回のレポートで、後者の報告書に記載されている、EIOPAによって2016年に実施された欧州保険会社に対するストレステストの結果に基づく欧州保険会社の脆弱性と耐性力に関する状況を報告する3

今回のレポートでは、今回の報告書の概要とストレス前の貸借対照表に基づくベースラインの状況について報告する。
 
1 EIOPAのプレス・リリース資料 https://eiopa.europa.eu/Publications/Press%20Releases/2016-12-16%20LTG%20Report_final.pdf
2 EIOPAのプレス・リリース資料 https://eiopa.europa.eu/Publications/Press%20Releases/2016-12-15%20Insurance%20Stress%20Test%20ResultsFinalFinal.pdf
3 今回の一連のレポートにおける図表等については、特に断りが無い限り、EIOPAの「2016 EIOPA保険ストレステスト報告書」からの引用によるものであり、必要に応じて、説明のための数値の強調や翻訳等を行っている。
 

2―今回の「2016 EIOPA保険ストレステスト報告書」の概要

2―今回の「2016 EIOPA保険ストレステスト報告書」の概要

1|ストレステストの目的
今回のストレステストの実施内容については、EIOPAが2016年5月24日に公表した「2016年におけるEU全体の保険のストレステストの実施内容」に基づいて、保険年金フォーカス「欧州保険ストレステスト2016-EIOPAがEU全体の保険のストレステストの実施内容を公表-」(2016.5.30)(以下、「前回のレポート」という)において報告した。

そこで述べたように、今回のストレステストの目的は、「合否判定テスト(pass-or-fail test)と解釈されるべきものではなく、厳しい不利な市場の展開に対する保険会社の脆弱性や耐性力を評価する。」ことにある。
2|ストレスシナリオ
今回のストレステストでは、ストレス前の貸借対照表に基づく「ベースライン(Baseline)」の状況に対して、以下の2つの主要な市場リスクに焦点を当てたストレスシナリオを設定している4

(1)長期低利回りシナリオ(low-for-long yield:LY)

(2)ダブルヒットシナリオ(duble-hit:DH)、即ち、低リスクフリーレートと組み合わさった資産価格に対する負の市場のショック

「(1)長期低利回りシナリオ(LY)」は、長期投資の機会の欠如と永続的な低い生産性の伸びが、全ての満期時の利回りを低下させるリスクフリー資産の希薄化と相まって、永続的な景気停滞の状況をエミュレート(模倣)することを目的としている。

いわゆる「(2)ダブルヒットシナリオ(DH)」は、ESRB(European Systemic Risk Board:欧州システミック・リスク理事会)と協力してEIOPAによって設定されたシナリオである。このシナリオは、欧州の金融システムに対する一般的なシステミック・リスク、すなわち、継続する低利回り環境と結び付いたリスク・プレミアムの更なる増加、に対するESRBの評価を反映している。
 
4 ストレスシナリオの概要については、前回のレポートを参照していただきたい。
3|参加会社の状況
今回のストレステストには、欧州の30カ国からの単体レベルで236の保険会社が参加している。

これらの会社は、投資保証を含む長期契約を引き受けており、それゆえ長期の低金利期間を有するシナリオに対して脆弱な会社である。236社のうち、生命保険会社は129社、生損保兼営会社は102社、損害保険会社が5社となっている。なお、技術的準備金では、インデックス、ユニットリンク型契約以外の生命保険契約が75%、インデックス、ユニットリンク型契約が23%、損害保険契約2%となっている。

これらの会社は、健康保険とユニットリンク型を除く生命保険の技術的準備金で市場全体の77%をカバーしている。また、サンプル会社が、各国の市場を代表するように、大会社だけでなく、中小会社も含まれている。サンプル会社は、6.3兆ユーロの資産を保有しており、EU(欧州連合)/ EEA(欧州経済地域)の保険会社が保有する総資産のほぼ60%を占めている。そのうち、ドイツ、フランス、イタリア、英国の4カ国からの会社が約3/4を占めている。また、サンプル会社の全体的な技術的準備金は5.2兆ユーロで、総負債(5.7兆ユーロ)の91%を占めている。

これらの会社は、金利保証を伴う比較的長期的な生命保険事業のため、長期にわたる低金利に対して特に脆弱であると認識されていたことから、テストの目的と一致したサンプル会社となっている。
4|今回の報告書の構成
今回の報告書は、以下の4章から構成されている。

第1章は、今回の2016保険ストレステストのフレームワークについて、説明している。

第2章は、ベースラインの状況を説明している。

第3章は、ストレステストの結果を説明している。

ストレステストの結果については、EU全体の結果の概要について触れた後、(1)貸借対照表ベースの指標、(2)負債超過資産への影響、(3)デュレーション及びキャッシュフローパターン分析、(4)重要な影響変数、(5)デリバティブ分析、(6)2次的影響の分析、についての説明が行われている。

第4章は、ストレステストの結果を踏まえての結論と次のステップについて説明している。
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中村 亮一

研究・専門分野

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