2016年05月30日

欧州 保険ストレステスト2016-EIOPAがEU全体の保険のストレステストの実施内容を公表-

中村 亮一

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■要旨

EIOPA(欧州保険年金監督機構:European Insurance and Occupational Pensions Authority)が、5月24日に「2016年におけるEU全体の保険のストレステストの実施内容」を公表した。

今回はあくまでも実施内容の公表であり、その結果の公表については12月に行われることが予定されている。今回のストレステストにおいては、「低金利の継続」と「(低金利と株価・債券等の資産価格の下落という)ダブルヒット」のシナリオに基づいた場合の影響を評価しようとしている。

このレポートでは、今回のストレステストの実施内容について、EIOPAの公表資料に基づいて報告する。

■目次

1―はじめに
2―ストレステストの概要
  1|目的
  2|概要
3―ストレスシナリオ
  1|長期間低金利シナリオ(LY:Low for Long)
  2|ダブルヒットシナリオ(DH:Double-hit)
4―その他の事項
  1|対象範囲
  2|結果の開示
  3|評価基準日
  4|LTG措置等の取扱
  5|報告内容
5―今後のスケジュール
6―まとめ

1―はじめに

1―はじめに

EIOPA(欧州保険年金監督機構:European Insurance and Occupational Pensions Authority)が、5月24日に「2016年におけるEU全体の保険のストレステストの実施内容」を公表した。

今回はあくまでも実施内容の公表であり、その結果の公表については12月に行われることが予定されている。今回のストレステストにおいては、「低金利の継続」と「(低金利と株価・債券等の資産価格の下落という)ダブルヒット」のシナリオに基づいた場合の影響を評価しようとしている。

このレポートでは、今回のストレステストの実施内容について、EIOPAの公表資料1に基づいて報告する。

2―ストレステストの概要

2―ストレステストの概要

ストレステストは通常の監督ツールであり、その定期的な実施については、EIOPAの規制の中で決められている。今回のストレステストの概要については、EIOPAの説明によれば、以下の通りとなっている。

1|目的
保険会社の脆弱性を評価することを目的としており、合否判定テスト(pass-or-fail test)と解釈されるべきではない。共通の分析の枠組みに基づいて、厳しい不利な市場の展開に対する欧州の保険部門の耐性力を評価するために設計されている。また、このストレステストは、ストレス状況下でのシステミック・リスクの潜在的な増加を調査している。

2|概要
ストレステスト2016は、以下の2つの主要な市場リスクに焦点を当てている。

(1)長引く低利回り環境
(2)いわゆる「ダブルヒット」、即ち、低リスクフリーレートと組み合わさった資産価格に対する負の市場のショック

テストでは、単一の会社(保険グループでない)によって運営される長期的なビジネスに焦点を当てている。より多くの中小保険会社を含めるために、参加目標は、総生命保険技術的準備金ベースで、各国内市場において、2014年の50%から、75%のシェアに増加させた。

保険業界の負担を軽減するべく、EIOPAは、同時に、ソルベンシーIIの株式およびLTG(長期保証)措置に関する情報を収集するために、このテストを利用する。この情報の収集は、ソルベンシーII指令の77f条に従ってEIOPAによって実行される必須のレビューの一部であり、ストレステストと関連付けられていない。

テストの開始日(2016年5月24日)は、参加保険会社がテストを完了するためにより多くの時間を割けるように、当初の予定(2016年5月31日)より1週間早い。EIOPAは、参加会社の可能性のある質問に対処するために、毎週Q&A(Qustions & Answers:質疑応答)を公開する。NCAs(the national competent authorities:国家管轄当局)への結果の提出期限は、2016年7月15日になる。ストレステストのEU全体の結果は、匿名化又は集計化されて、2016年12月に開示される。

EIOPAの会長のGabriel Bernardino氏は、「現在の困難なマクロ経済環境がこのようなストレステストで認識される必要がある。そのため、EIOPAは厳しいストレスシナリオを実施することを決めた。私は、そのようなショックのシミュレーション結果が、私たちに欧州の保険部門の「高解像度」画像とその最も重大な脆弱性を示してくれる、ことを確信している。私たちは、特別な監督上の注意と欧州レベルでのシステミック・リスクの潜在的な増加への反応を要求される問題を見る必要がある。従って、このテストでは、どの会社がショック後に資本要件を満たしていないのかに焦点を当てるのではなく、これらのシナリオの金融の安定性における意味合いに焦点を当てている。」と述べている。

(参考)過去に行われたストレステスト 
EIOPAによるEU全体の保険のストレステストについては、2011年や2014年にも行われている。

例えば、2014年のストレステストにおいては、低利回りモジュールの中で特定された2つのシナリオのうち、「低金利が継続するシナリオ」が「Japanese-like scenario」として命名されて、含められていた。

この時の結果では、このシナリオの下で、ソルベンシーIIによるSCR(Solvency Capital Requirement :ソルベンシー資本要件)の100%水準を満たせない会社の割合が24%となっていた。

「低金利継続シナリオ」について、この時のシナリオと今回のシナリオを比較すると、次頁の通りとなっており、昨今の低金利環境を反映して、さらに厳しいシナリオとなっている。
2014年ストレステスト(Japanese-like scenario)/2016年ストレステスト(Low for Long)
なお、前回2014年に行われたストレステストの知見が、EIOPAによるNCAsへの一般的な推奨の基礎となったが、これについては、今回の技術仕様書の中で、以下のように記載されている。
技術仕様書
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中村 亮一

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