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【アジア・新興国】なぜ韓国では民間医療保険の加入率が高いのか?-韓国における実損填補型保険の現状や韓国政府の対策-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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1)実損填補型保険商品のオンラインチャネルを拡大(2017年中)
・現在:単独型実損填補型保険の場合、保険外交員の販売手当が少なく、オンラインチャネルに適した商品や対面チャネルによる抱き合わせ販売が一般的。
・改善案:保険外交員の消極的営業により消費者が加入に不便を感じないようにオンライン専用商品の販売を活性化(2017年中、すべての保険会社に拡大)、保険オンラインスーパーマーケットである「保険ダモア」8の一部をインターネットポータルサイト「Naver9」でも提供できるように許可し、消費者の接近性を改善(細則の改正、2017年下半期から)。
2)既存加入者の新商品への切り替え手続きを簡素化(2017年上半期から)
・現在:他の保険商品に実損填補型保険が特約の形で付いており、特約のみの解約や加入が難しいのが現状。
・改善案:既存に特約の形で実損填補型保険に加入した者が、新しく販売される単独型の実損填補型保険に簡単に切り替えられるように手続きを簡素化。
3)実損填補型保険の請求手続きを簡素化(2017年上半期から)
・現在:日常の医療費を保障する実損填補型保険は、診療費が発生するたびに関連書類を用意し、保険会社を直接訪問しなければならないという煩わしさが存在。
・改善案:オンラインを利用して簡単に請求ができるように2017年中にすべての保険会社がモバイルアプリケーションによる請求サービスを提供するように改善。
4)団体実損填補型保険加入者の退職後の保障断絶を解消(2017年下半期から)
・現在:団体実損填補型保険は、在職中だけ保障される商品で、退職後には保障が断絶。
・改善案:団体実損填補型保険の加入者が、退職後に個人実損填補型保険に簡単に切り替えられるような制度的連携装置を新設。
韓国政府は以上のような改善案を実施することにより次のような効果が発生すると期待している。
(1)既存の包括的・画一的な保障システムを多様な保障システムに変更することにより、既存の商品に比べて保険料が約26.4%安い「基本型」商品が供給可能となり消費者の負担が減少。
(2)保険金の未請求者に対してインセンティブを提供することにより、加入者間における保険料負担の衡平性を高めるとともに医療サービスの合理的利用を誘導。
(3)過剰診療が深刻な医療行為を特約に分離することにより、一部加入者による医療ショピング等のモラルハザードにより発生する費用をすべての加入者が共同に負担する不合理な構造を改善。
(4)国民の医療機関及び診療行為の選択等のための正しい情報を提供することにより、国民の医療選択権を保障。
(5)実損填補型保険の悪用及び乱用を減らし、公的医療保険の財政に及ぼすマイナスの影響を最小化。
(6)インターネットやモバイルチャネルの拡大により、加入及び請求時の時間ロス等の不便を解消することにより消費者の便益が大きく改善。
8 金融監督院が主導し、損害保険協会や生命保険協会が主催して運営中である保険商品の見積もりを比較できるサイト。
9 韓国最大手のインターネット検索ポータルサイト
4――おわりに
しかしながら、保険会社が提示している損害率は、支払った保険金(正味支払保険金)に損害調査費(保険会社の損害調査関係の業務に要した経費)等を加えたものを、加入者が支払った保険料総額から保険会社がリスクを回避するために加入する再保険の保険料を差し引いた金額で割ったものであり、一般的に知られている損害率(保険金/保険料)より数値が大きくなっている。つまり、保険会社は損害率を高く提示することにより、保険料引き上げを正当化しているとの指摘もされている。
韓国政府が発表した実損填補型保険の改善案により、医療機関の過剰診療や、一部加入者による医療ショピング等はある程度改善されると期待されている。しかしながら公的医療保険の低い保障率と診療報酬により広がっている医療制度のゆがみを改善するためには、まず公的医療保険制度自体を強化する必要があるだろう。国民の医療に対する国の責任を韓国政府は忘れてはならない。
(2017年01月17日「保険・年金フォーカス」)
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生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
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