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2017年01月13日
(直近3年間の実質GDP成長率が大幅上方改定)
次に、基準改定による実質GDP成長率への影響を確認すると、1995~2015年度の平均成長率は0.9%、直近10年間(2006~2015年度)の平均では0.5%と旧基準の成長率とほぼ変わらなかった(旧基準ではそれぞれ0.8%、0.5%)が、単年度では改定幅が大きな年度もあった。上方改定幅が最も大きかった年度は1995年度の+0.8%、下方改定幅が最も大きかった年度は2007年度の▲0.7%であった(図表5)。
次に、基準改定による実質GDP成長率への影響を確認すると、1995~2015年度の平均成長率は0.9%、直近10年間(2006~2015年度)の平均では0.5%と旧基準の成長率とほぼ変わらなかった(旧基準ではそれぞれ0.8%、0.5%)が、単年度では改定幅が大きな年度もあった。上方改定幅が最も大きかった年度は1995年度の+0.8%、下方改定幅が最も大きかった年度は2007年度の▲0.7%であった(図表5)。
直近3年間の成長率は比較的大幅な上方改定となった(2013年度:2.0%→2.6%、2014年度:▲0.9%→▲0.4%、2015年度:0.9%→1.3%)。2013年度は建設部門の産出額の推計手法の変更により設備投資が大幅上方改定、2015年度は速報から年次推計への改定による民間消費が大幅上方改定というように、2008SNAへの移行にそれ以外の要因が加わったことがその原因と考えられる。
需要項目別の改定状況をみると、過去10年平均ではいずれの需要項目も伸び率の改定は小幅にとどまっており、上方改定幅が最も大きいのは財貨・サービスの輸出で0.3%、下方改定幅が最も大きいのは設備投資の▲0.1%である(図表6-1)。一方、直近5年平均ではいずれの需要項目でも伸び率は上方改定されており、特に設備投資は旧基準の2.2%から3.3%へと1%以上上方改定されている(図表6-2)。
需要項目別の改定状況をみると、過去10年平均ではいずれの需要項目も伸び率の改定は小幅にとどまっており、上方改定幅が最も大きいのは財貨・サービスの輸出で0.3%、下方改定幅が最も大きいのは設備投資の▲0.1%である(図表6-1)。一方、直近5年平均ではいずれの需要項目でも伸び率は上方改定されており、特に設備投資は旧基準の2.2%から3.3%へと1%以上上方改定されている(図表6-2)。
直近3年間の成長率が大幅上方改定されたことは、アベノミクス開始後の成長率が上振れたことを意味する。安倍政権が発足した2012年10-12月期を起点とした4年弱(15四半期)の実質GDP、主な需要項目の推移を新旧基準で比較すると、旧基準ではこの間の実質GDPの伸びは年平均で0.9%にとどまっていたが、新基準では1.3%へと上方改定された。需要項目別には設備投資が大きく上方改定(1.4%→3.0%)される一方、公的固定資本形成は下方改定(1.8%→1.6%)された。
また、消費税率引き上げの影響を強く受けた民間消費は、旧基準では直近でもアベノミクス開始前の水準を下回っていたが、新基準では消費税率引き上げから3四半期目の2014年10-12月期にはアベノミクス前の水準を回復する形となった。ただし、その後の回復ペースは他の需要項目と比べて鈍く、15四半期の平均の伸び率は年率0.4%にとどまっている(図表7-1、図表7-2)。
また、消費税率引き上げの影響を強く受けた民間消費は、旧基準では直近でもアベノミクス開始前の水準を下回っていたが、新基準では消費税率引き上げから3四半期目の2014年10-12月期にはアベノミクス前の水準を回復する形となった。ただし、その後の回復ペースは他の需要項目と比べて鈍く、15四半期の平均の伸び率は年率0.4%にとどまっている(図表7-1、図表7-2)。
(潜在成長率は1%近くまで上昇)
実質GDP成長率の上方改定は潜在成長率の上方改定にもつながる。新基準のGDP統計をもとに潜在成長率を改めて推計3したところ、旧基準のデータを用いた推計値から2011年度以降上方改定され、直近(2016年度上期)では0.9%と従来の推計値よりも0.5%程度高くなった。さらに過去にさかのぼってみると、1990年代前半から2000年代初頭にかけて若干上方改定される一方、2002年度から2010年度までは若干下方改定された。長い目でみれば日本経済の実力とされる潜在成長率の水準はこれまでとほとんど変わらないが、ゼロ%台前半となっていた直近の潜在成長率が1%近くまで上方改定される形となった(図表8)。
実質GDP成長率の上方改定は潜在成長率の上方改定にもつながる。新基準のGDP統計をもとに潜在成長率を改めて推計3したところ、旧基準のデータを用いた推計値から2011年度以降上方改定され、直近(2016年度上期)では0.9%と従来の推計値よりも0.5%程度高くなった。さらに過去にさかのぼってみると、1990年代前半から2000年代初頭にかけて若干上方改定される一方、2002年度から2010年度までは若干下方改定された。長い目でみれば日本経済の実力とされる潜在成長率の水準はこれまでとほとんど変わらないが、ゼロ%台前半となっていた直近の潜在成長率が1%近くまで上方改定される形となった(図表8)。
潜在成長率の改定方向は実質GDP成長率の改定方向と概ね一致している。これは潜在成長率の推計値が現実の成長率で決まる部分が大きいためである。
当研究所が採用している生産関数アプローチによる潜在GDPの推計方法の概要は以下のとおりである。
まず、以下のコブ・ダグラス型の生産関数を仮定する。
TFP(全要素生産性)は(1)式に現実のGDP、現実の資本・労働投入量を代入することによって残差として求められる。ただし、このようにして求めたTFPはGDPなどの毎期の振れを含んでいるため、HPフィルターによって平滑化したものを全要素生産性とする。
(1)式に潜在資本投入量、潜在労働投入量、全要素生産性を代入することにより、潜在GDPが求められる。
このように、TFPは現実のGDPから資本・労働投入量を差し引くことによって求められる。このため、現実のGDP成長率が従来から上振れすればTFP上昇率が上方改定、現実のGDP成長率が下振れすればTFP上昇率は下方改定されることになる。従来の推計と今回の推計で資本、労働に関するデータは変わっていないため、潜在成長率の改定はGDP統計の改定に伴いTFP上昇率が修正されたことによるものである。
内閣府、日本銀行が定期的に公表している潜在成長率の推計値は直近でいずれもゼロ%台前半だが、これは旧基準GDP統計に基づくものとなっている。現時点では内閣府、日本銀行ともに新しいGDP統計に基づく潜在成長率を公表していないが、今後公表される新たな潜在成長率の推計値が従来よりも高まることは間違いないだろう。今回の1%近くという潜在成長率の推計値はあくまでも旧基準の資本ストック統計を用いた暫定的なものだが、日銀、内閣府が公表する数値が同様のものとなれば、潜在成長率に対する一般的な見方も変わっていくだろう。GDP統計の改定によって足もとの潜在成長率がゼロ%台前半という見方は過去のものとなる公算が大きい。
もともと潜在成長率は十分な幅を持ってみるべき不確実性の高いデータで、その数値の変化に一喜一憂すべきではない。また、統計が改定されたからといって日本経済の実力が実態として変わったわけではない。ただ、これまで潜在成長率がゼロ%台前半とされていたことが、人口が減少している日本はゼロ成長が当然といった見方の裏付けのひとつになっていたとすれば、潜在成長率の上方改定はこうした悲観論の払拭に一定の役割を果たす可能性もあるだろう。
3 当研究所では資本投入量を計算するための基礎統計として内閣府の「民間企業資本ストック速報」を用いているが、同統計は2016年4-6月期をもって公表が中止された。内閣府では、国民経済計算確報と整合的な純概念による「固定資本ストック速報(仮称)」の公表を開始する予定だが、現時点では未公表のため、今回は「民間企業資本ストック速報」を2016年7-9月期まで先延ばしすることによって暫定的な推計を行った。
当研究所が採用している生産関数アプローチによる潜在GDPの推計方法の概要は以下のとおりである。
まず、以下のコブ・ダグラス型の生産関数を仮定する。
ln(Y)=(1-α) ln(K)+α ln(L)+ln(TFP)・・・(1)
Y:実質GDP、K:資本投入量、L:労働投入量、
TFP:全要素生産性、α:労働分配率
Y:実質GDP、K:資本投入量、L:労働投入量、
TFP:全要素生産性、α:労働分配率
TFP(全要素生産性)は(1)式に現実のGDP、現実の資本・労働投入量を代入することによって残差として求められる。ただし、このようにして求めたTFPはGDPなどの毎期の振れを含んでいるため、HPフィルターによって平滑化したものを全要素生産性とする。
(1)式に潜在資本投入量、潜在労働投入量、全要素生産性を代入することにより、潜在GDPが求められる。
ln(Y※)=(1-α)ln(K※)+αln(L※)+ln(TFP)
Y※:潜在GDP、K※:潜在資本投入量、L※:潜在労働投入量
Y※:潜在GDP、K※:潜在資本投入量、L※:潜在労働投入量
このように、TFPは現実のGDPから資本・労働投入量を差し引くことによって求められる。このため、現実のGDP成長率が従来から上振れすればTFP上昇率が上方改定、現実のGDP成長率が下振れすればTFP上昇率は下方改定されることになる。従来の推計と今回の推計で資本、労働に関するデータは変わっていないため、潜在成長率の改定はGDP統計の改定に伴いTFP上昇率が修正されたことによるものである。
内閣府、日本銀行が定期的に公表している潜在成長率の推計値は直近でいずれもゼロ%台前半だが、これは旧基準GDP統計に基づくものとなっている。現時点では内閣府、日本銀行ともに新しいGDP統計に基づく潜在成長率を公表していないが、今後公表される新たな潜在成長率の推計値が従来よりも高まることは間違いないだろう。今回の1%近くという潜在成長率の推計値はあくまでも旧基準の資本ストック統計を用いた暫定的なものだが、日銀、内閣府が公表する数値が同様のものとなれば、潜在成長率に対する一般的な見方も変わっていくだろう。GDP統計の改定によって足もとの潜在成長率がゼロ%台前半という見方は過去のものとなる公算が大きい。
もともと潜在成長率は十分な幅を持ってみるべき不確実性の高いデータで、その数値の変化に一喜一憂すべきではない。また、統計が改定されたからといって日本経済の実力が実態として変わったわけではない。ただ、これまで潜在成長率がゼロ%台前半とされていたことが、人口が減少している日本はゼロ成長が当然といった見方の裏付けのひとつになっていたとすれば、潜在成長率の上方改定はこうした悲観論の払拭に一定の役割を果たす可能性もあるだろう。
3 当研究所では資本投入量を計算するための基礎統計として内閣府の「民間企業資本ストック速報」を用いているが、同統計は2016年4-6月期をもって公表が中止された。内閣府では、国民経済計算確報と整合的な純概念による「固定資本ストック速報(仮称)」の公表を開始する予定だが、現時点では未公表のため、今回は「民間企業資本ストック速報」を2016年7-9月期まで先延ばしすることによって暫定的な推計を行った。
(2017年01月13日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- ・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職
・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員
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