2017年01月10日

アートから東京2020とその先を考える~魅力ある世界都市へのプロセスと課題 2/4

【ポスト2020、魅力ある世界都市へ 訪日客数4000万人時代への挑戦】

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4.アートから東京2020とその先を考える

■吉本
青山先生の基調講演の最後の方にもございましたけれども、私は文化・アートからポスト2020を考えるということでお話しさせていただきます。
写真28

4-1.オリンピックと文化

といいますのは、オリンピック・パラリンピックというのはスポーツだけではなく、実は文化の祭典でもあるからです。
 
オリンピックの理念を定めたオリンピック憲章の根本原則の第1には、「オリンピズムはスポーツを文化、教育と融合させ、生き方の創造を探求するもの」と明記されています。
 
そして、近代五輪の祖といわれるクーベルタン男爵は、こんな言葉を残しているのです。「オリンピックとは、スポーツと芸術の結婚である」と。
 
実際に100年以上前のストックホルム大会から、文化プログラムは行われてきました。当初は五つの芸術分野でメダルを競い合う競技の形で行われていたのですが、それが1952年に芸術展示という形に変わりまして、1964年の東京大会でも美術や芸能の10分野で、さまざまな展覧会や公演が行われました。
 
そして1992年のバルセロナ大会以降は、前の大会が終了した年から毎年、文化フェスティバルを開催するという4年間の文化プログラムが定着しました。そして、2012年のロンドン大会でかつてない規模の文化プログラムが行われて、大成功を収めたといわれております。
 
そしてつい先日、終わったばかりのリオ大会なのですけれども、残念ながらリオでは文化プログラムは大変低調でした。それは今日お手元にお配りしたリポートに書いてありますので、ご興味があればお読みいただければと思います。
 
<参考>リオ2016報告-文化プログラムを中心に
http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=54039?site=nli
 
ですので、2020年の東京大会でどんな文化プログラムが行われるのか、世界が注目しているわけです。

4-2.ロンドン大会の文化プログラムの実績

大成功したロンドンの例をご紹介したいと思います。この英国の地図はガイドブックの最初の方に出ているのですが、一つ目の大きな特徴は、ロンドンだけでなく、イギリス全土で行われたということです。
 
写真29
開催概要は、ご覧のとおりですけれども、4年間で12万件の文化イベントが行われ、4000万人以上が参加しました。
写真30
そして、下から数行目のところにあるのがすごく重要なポイントだと私は思っています。イギリスの大会ですからイギリスの文化を世界に発信することはもちろん行ったわけです。
 
けれども彼らは、アスリートと同じ204の国と地域からアーティストを招いて、オリンピックというチャンスを世界中のアーティストに提供しました。ですから、わずか数名しかアスリートの参加しない国からも、彼らはアーティストを招いたわけです。
 
そして大会の年に行われたフェスティバルでは、「一生に一度きり」というスローガンが掲げられました。一生に一度きりの文化的な体験を提供しよう、アーティストには一生に一度きり、オリンピックがなければできないような作品を作ってもらおうというスローガンです。
 
具体例を幾つかご紹介します。フェスティバルの事業は、ここにありますように六つの特徴があるといわれています。
 
写真31
これは実際に私が見たものなのですが、ロンドンの繁華街の一つであるストラッドフォードストリートで、パークハウスというショッピングセンターのショーウインドーを使って写真展が行われました。
写真32
写真展のタイトルは、「The World in London」というものです。ロンドンは一説によると300以上の言語が話されています。それぐらい世界中から移民を受け入れているのです。ですので、3年かけて、ここでも204の国と地域からロンドンにやってきた移民のポートレートを撮って写真展をしようということが行われました。
 
3年間かけても、モデルになってくれる移民が見つからない国がありました。小さくて恐縮ですが、スライドの下の方に白抜きの人型のポスターがあります。

これはマーシャル諸島(MHL)からの移民が見つからなかったためで、ポスターに何と書いてあるかといいますと、「Are you from Marshall Islands?」と書いてあるわけです。

「もしあなたがマーシャル諸島から来た方なら、ここに電話してください。そうしたら、ここにあなたの写真を展示します」と書いてあります。
 
この写真展はヴィクトリア・パークでも行われて、日本人を探したら、いました。JPNと書かれているのですが、写真の下には小さなQRコードがありまして、それをスマートフォンで読み込みますと、この写真展を企画したフォトグラファーズ・ギャラリーのホームページに行きます。
 
この方はHisako Ikedaさんということがわかり、なぜロンドンに来たかが書かれていて、彼女の声で聞くこともできます。世界中からアスリートがやって来るオリンピックに合わせた優れた企画だったと思います。
 
パラリンピックに関連して、「UNLIMITED」という障害のあるアーティストによる大規模なフェスティバルが行われました。そのアイコンになったのが、スー・オースティンというアーティストです。
 
彼女は足が悪いのですが、パフォーマンスをしています。それで、水中でパフォーマンスをするという挑戦をしたわけです。車椅子で水中に潜るのは大変危険なのですが、逆に体重が軽く感じて自由に体を動かせます。そこで特別な車椅子を開発して、このような美しい海で踊って、それを映像作品として残しました。
 
オリンピックが終わった後、彼女は空中でのパフォーマンスにもチャレンジして、車いすにパラグライダーを付けてパフォーマンスを行っています。そして、彼女の将来の目標は宇宙でパフォーマンスをすることです。もう既にNASAと交渉を始めているというふうに伺いました。
 
オリンピックのときに、障害のあるアーティストの創造力の可能性が無限大であることを表現し、それをオリンピックが終わった後も追求し続けているというのがスーさんの取り組みです。
 
次に、ちょっと面白い「Tate Blackout」というイベントをご紹介します。Tateというのはロンドンにある世界最大規模の現代美術館で、発電所を改修したものなのですが、そこでオラファー・エリアソンがLittle Sunというプロジェクトを発表しました。
 
写真33
Tate Blackoutということで、大会中の毎週土曜日の夜10時に美術館のあらゆる照明を消します。そして、これはオラファー・エリアソンが技術者と開発したLittle Sunという太陽電池の照明器具の作品なのですが、これを使って真っ暗な美術館の中をポスターをたどって進むと、真っ暗なギャラリーにたどり着いて、このライトでTateのコレクションを見るという催しでした。
 
それだけであれば、少し変わった展示ということになるのですが、ここに書いてあるようにLittle Sunは5時間の充電でライトが5時間ともり、3年の寿命があります。環境にも経済的にも素晴らしいということがうたわれています。
 
彼は何を考えたかといいますと、ここに16億という数字がありますが、16億とは地球上で電力供給を受けていない人たちの数です。オラファー・エリアソンはロンドン大会でこれを発表して、その16億人の人たちにLittle Sunすなわち「小さな太陽」を届けたいというプロジェクトをスタートさせたわけです。
 
実際に目標が左側に書かれていまして、2012年に25万人、2013年に50万人、東京大会が行われる2020年には5000万人にこれを届けるという壮大な構想を、彼はロンドンで発表したのです。
 
そして実際にどのように使われているかが、映像でアップされています。それを見ますと、小さな家で家族がこのライトで一緒に食事をしていたり、子どもがこのランプで勉強したりといった様子を見ることができます。
 
このプロジェクトは地球環境問題であるとか、経済格差であるとか、そうした社会的な課題にアーティストがアプローチする、チャレンジするという壮大なプロジェクトなのですが、それがロンドン大会で始まったということです。
 
最後にもう一つ、これは私が大変印象に残っている「HATWALK」というプロジェクトです。ロンドン市内にはたくさんの彫像があります。イギリスの歴史を代表する彫像21体を選んで、帽子をかぶせるというプロジェクトです。 
 
これはトラファルガースクエアにあるネルソン提督の彫刻なのですが、高い円柱の上にありまして、何と52mの高さがあります。
 
52mの彫刻にどう帽子をかぶせるか。これは当時のロンドン市長のボリス・ジョンソンの肝いりで行われたのですが、ロンドン市の文化局の皆さんは頭を悩ませました。そして、イギリス国内に2台だけ、この高さに届くクレーンがあることを発見し、夜中に全部通行止めにして、クレーンでこの帽子をかぶせました。
 
写真34
この帽子のデザインはユニオンジャックとトーチがモチーフになっていますけれども、私が一番しゃれていると思うのは、これをデザインしたのはロック&カンパニーという世界最古の帽子屋さんで、その帽子屋さんは、200年以上前にネルソン提督が実際にかぶった帽子を作ったところだということです。
 
帽子というのはイギリス王室に代表されるように、イギリスの代表的な文化の一つだと思いますけれども、こういうフューチャリスティックなデザインの帽子もあれば、こんな帽子もあったということです。この帽子は1週間から10日展示された後、また52mのクレーンを担ぎ出して撤去して、一定期間展示されてオークションが行われ、その収入も文化イベントに使われました。
 
ロンドン市の主催した文化プログラムの短い映像があるので、ご覧ください。これはロンドン市庁舎の外壁で、ある日突然行われたダンスパフォーマンスです。こんなことが東京で果たしてできるだろうかと私は思います。
 
それから、これはビッグダンスという参加型のダンスイベントです。車椅子に乗ったままでも踊れるということで、イギリス全土で行われました。
 
そして、これがHATWALKの帽子をかぶせるシーンです。52mのクレーンでの設置の様子です。
 
そして、これは「ピカデリーサーカス・サーカス」といいまして、1945年の戦勝パレード以来初めて、ピカデリーサーカスを通行止めにして朝から晩までサーカスが行われました。そのフィナーレでは、空中から1.5トンの羽毛が振りまかれ、ロンドン市民は熱狂しました。
 
日本ではほとんど紹介されませんでしたが、ロンドン五輪のときにはこんなことが行われていたわけです。

 
第3回:魅力ある世界都市とは~魅力ある世界都市へのプロセスと課題 3/4
 
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(2017年01月10日「その他レポート」)

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