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2016年12月30日
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3|地方債計画の果たしている役割
個別地方公共団体の地方債発行額は当該団体の予算の一部として地方議会で議決されるが、いわば地方公共団体全体の予算に相当するものとして、地方財政計画が毎年、内閣によって策定され、国会への提出と一般公表がなされている。地方財政計画の具体的な内容は、地方全体の歳入と歳出の見込額を示したものであるが、国の一般会計予算や交付税及び譲与税配付金特別会計、財政投融資計画との整合性を確保したうえで、国が妥当と考える歳出を賄ううえで過不足のないように歳入面での財源保障が行われている。そして、地方財政計画における地方債発行額の裏づけを与えるのが地方債計画であり、財政投融資計画における地方債引受予定を反映することを含めて、財政融資資金をはじめとする各種資金の割当を伴う形で発行総額の見積もりを行っている。
個別地方公共団体の地方債発行額は当該団体の予算の一部として地方議会で議決されるが、いわば地方公共団体全体の予算に相当するものとして、地方財政計画が毎年、内閣によって策定され、国会への提出と一般公表がなされている。地方財政計画の具体的な内容は、地方全体の歳入と歳出の見込額を示したものであるが、国の一般会計予算や交付税及び譲与税配付金特別会計、財政投融資計画との整合性を確保したうえで、国が妥当と考える歳出を賄ううえで過不足のないように歳入面での財源保障が行われている。そして、地方財政計画における地方債発行額の裏づけを与えるのが地方債計画であり、財政投融資計画における地方債引受予定を反映することを含めて、財政融資資金をはじめとする各種資金の割当を伴う形で発行総額の見積もりを行っている。
図表-11は、1990年度以降について、地方債計画における資金別構成比の推移を見たものである。財政投融資制度改革後に市場公募資金の割合が上昇し、銀行等引受資金と合わせた民間等資金の割合は、2004年度以降は60%前後で安定している。逆に、財政融資資金の割合が25%程度まで低下したものの、地方公共団体金融機構資金と合わせた公的資金全体で見れば、40%程度を維持している。現在は、原則的に発行は自由とする地方債協議制度下にあるものの、公的資金への依存度の高い地方公共団体にとっては、地方債計画に基づく引受資金の割当が行われることで、確実な資金調達が担保されているものと言える。こうした点は、公募入札による市中消化に従う国債とは異なるものであり、民間等資金による引受がない場合は、市場を通じた規律付けの力が働かないという負の側面が現れている可能性もある。
いずれにしても、引受資金の割当を実質的に決める地方債計画が、個別地方公共団体の資金調達に対して、重大な影響を及ぼしていることは間違いないであろう。したがって、そのような資金割当が適正なものであるか否か、それによって当該地方公共団体の財政規律にどのような影響が生じているのかについても、別途検証されるべきである。
いずれにしても、引受資金の割当を実質的に決める地方債計画が、個別地方公共団体の資金調達に対して、重大な影響を及ぼしていることは間違いないであろう。したがって、そのような資金割当が適正なものであるか否か、それによって当該地方公共団体の財政規律にどのような影響が生じているのかについても、別途検証されるべきである。
4――結びにかえて
分析・検討を通じて、地方債について確認できたことを総括すれば、次のとおりである。
まず、国債に赤字国債と建設国債があるように、地方債にも建設地方債と赤字地方債があり、近年は地方債総残高がほぼ横ばいで推移する中、赤字地方債残高が急増している。しかし、赤字地方債は地方公共団体が任意の歳出額を実現する目的で発行できるものではなく、国が厳しい財政状況を続ける中で、いわば国策として発行が行われている側面が強い。近年、地方債発行額の約半分を占める臨時財政対策債については、償還財源は後年度の交付税算定過程で全額が国から実質的に補填される。
一方、建設地方債はすでに残高の減少が始まっており、新規発行の水準が抑制されていること、償還に際しては、元金均等償還や元利均等償還による定時償還方式を採用している地方公共団体が多数を占めること、満期一括償還方式を併用している地方公共団体においても減債基金への積立が行われていることが、着実な償還と残高の減少をもたらしている。
財政投融資改革以後は、市場公募債への傾斜が高まり、ごく少数の地方公共団体に巨額の市場公募債残高が集中する傾向が一層強まった。それとは逆に、財政融資資金による地方債引受割合は低下したものの、依然として、残高の過半を財政融資資金に依存する地方公共団体が多数存在し、財政規模の小さい団体など市場から資金調達をすることが難しい団体の地方債発行を支えている。また、銀行等引受資金は、財政投融資改革にかかわりなく、安定した資金供給源としての役割を果たしてきた。地方債発行自体は、地方公共団体の自由な選択の結果として行われるが、引受資金の確保と割当を行う地方債計画による支えによって実現したものでもある。
地方債に関する統計においては、集計データ中心に限られた範囲の項目が公表されるにとどまっているが、地方債の発行と償還が健全な財政運営に反しない形で概ね行われていることは、確認できたものと言える。
しかし、当レポートで扱ったデータは、基本的には、地方全体に関してのものである。すでに述べたとおり、引受資金に着目すれば、団体数は少ないが残高の大きい市場公募債中心の団体と、ひとつひとつの規模は大きくないが団体数が多い、財政融資資金依存度が高い団体とが併存するのが、地方債市場である。これらを同列に論ずることは適切ではなく、地方債の発行とその後の償還に際して、本当に健全な資金管理が行われているか否かは、地方公共団体毎に検証されるべきものである。
しかし、個別地方公共団体における発行額と残高について、赤字地方債と建設地方債、新発債と借換債、定時償還方式地方債と満期一括償還方式地方債、定時償還額と満期一括償還額、満期構成などの内訳は、正式なデータが全く開示されていない項目も少なくない。現状では、償還が集中して、特別な資金手当てが必要になる年度が到来しないか否かを含めて、本当に健全な資金管理と財政運営が行われているのかどうかを住民が判断することは困難である。その判断に必要な地方債についての情報が地方公共団体毎に開示されることが強く望まれる。
まず、国債に赤字国債と建設国債があるように、地方債にも建設地方債と赤字地方債があり、近年は地方債総残高がほぼ横ばいで推移する中、赤字地方債残高が急増している。しかし、赤字地方債は地方公共団体が任意の歳出額を実現する目的で発行できるものではなく、国が厳しい財政状況を続ける中で、いわば国策として発行が行われている側面が強い。近年、地方債発行額の約半分を占める臨時財政対策債については、償還財源は後年度の交付税算定過程で全額が国から実質的に補填される。
一方、建設地方債はすでに残高の減少が始まっており、新規発行の水準が抑制されていること、償還に際しては、元金均等償還や元利均等償還による定時償還方式を採用している地方公共団体が多数を占めること、満期一括償還方式を併用している地方公共団体においても減債基金への積立が行われていることが、着実な償還と残高の減少をもたらしている。
財政投融資改革以後は、市場公募債への傾斜が高まり、ごく少数の地方公共団体に巨額の市場公募債残高が集中する傾向が一層強まった。それとは逆に、財政融資資金による地方債引受割合は低下したものの、依然として、残高の過半を財政融資資金に依存する地方公共団体が多数存在し、財政規模の小さい団体など市場から資金調達をすることが難しい団体の地方債発行を支えている。また、銀行等引受資金は、財政投融資改革にかかわりなく、安定した資金供給源としての役割を果たしてきた。地方債発行自体は、地方公共団体の自由な選択の結果として行われるが、引受資金の確保と割当を行う地方債計画による支えによって実現したものでもある。
地方債に関する統計においては、集計データ中心に限られた範囲の項目が公表されるにとどまっているが、地方債の発行と償還が健全な財政運営に反しない形で概ね行われていることは、確認できたものと言える。
しかし、当レポートで扱ったデータは、基本的には、地方全体に関してのものである。すでに述べたとおり、引受資金に着目すれば、団体数は少ないが残高の大きい市場公募債中心の団体と、ひとつひとつの規模は大きくないが団体数が多い、財政融資資金依存度が高い団体とが併存するのが、地方債市場である。これらを同列に論ずることは適切ではなく、地方債の発行とその後の償還に際して、本当に健全な資金管理が行われているか否かは、地方公共団体毎に検証されるべきものである。
しかし、個別地方公共団体における発行額と残高について、赤字地方債と建設地方債、新発債と借換債、定時償還方式地方債と満期一括償還方式地方債、定時償還額と満期一括償還額、満期構成などの内訳は、正式なデータが全く開示されていない項目も少なくない。現状では、償還が集中して、特別な資金手当てが必要になる年度が到来しないか否かを含めて、本当に健全な資金管理と財政運営が行われているのかどうかを住民が判断することは困難である。その判断に必要な地方債についての情報が地方公共団体毎に開示されることが強く望まれる。
(2016年12月30日「基礎研レポート」)
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