- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 保険 >
- 中国・アジア保険事情 >
- 老いる中国、介護保険制度はどうなっているのか。【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(23)
2016年12月20日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
2-パイロット地区―医療との連携が強く、受給要件、給付内容を限定
例えば、中国の介護保険では加入年齢を設けていない。介護保険への加入には、公的医療保険への加入を義務付けており、公的医療保険の被保険者が法定労働年齢以上であるので、介護保険への加入は最も若くて16歳以上となる(但し、多くは10代後半、20代前半と推察)。
また、その財源についても各市が管轄している医療保険の基金(保険料や財政補填を積み立てたもの)、医療保険専用の個人口座から一定額が転用される仕組みとなっている。介護保険を運営する上で、専用の基金は設けるものの、被保険者の保険料負担はほぼなく、いずれの地区も事業主負担もない3。加えて、高齢者が受取る年金からの保険料徴収もない。日本の介護保険の財源構成は、保険料負担が50%(40~64歳が28%、65歳以上が22%)、公費負担が50%であるが、中国の場合は各市が管轄する医療保険の財源から概ね転用することになる4。
介護サービスを利用するための認定については、長期にわたって寝たきり(6ヶ月以上)の場合や、ADL10項目による判定を通じて要介護度が重度と認定された場合、市指定の疾患に罹患している場合などに限定している。日本のように、要支援(2段階)、要介護(5段階)といった介護の必要度に応じた認定はしていない。ただし、中国の場合、介護が医療の枠組みの延長線上であるという位置づけから、給付開始年齢を設けておらず、対象を高齢者に絞っていないという点に大きな特徴がある。日本の場合は65歳以上が対象であり、40~64歳は特定疾病の場合に給付認定されるが、中国の場合、寝たきりなど長期の療養や介護が必要となれば、現役世代でも給付対象となる。
また、給付対象が寝たきりなど重度の要介護者と限定されていることから、その給付内容もそれに応じて限定されている。自身で通うことが可能な通所介護は対象外(全額自己負担)となっており、重度の要介護者が必要と想定する在宅介護(地域コミュニティである社区の活用)、施設介護(医療施設、介護施設)に給付を絞っている。また、施設介護の給付は1日あたりのベッド代などに抑え、訪問介護の給付を増やすなど、施設介護へ集中しないよう誘導している。日本の場合、支給限度基準額は要介護度毎に設定されるため7段階となるが、中国の場合は重度に限定しているため、1段階(日額、月額で設定)のみである。
また、重度で入院を想定している点から、ベッド代など施設介護の場合に自己負担を支払うとしている。自己負担割合は、日本のように被保険者の所得が基準とはならない。財源が医療保険基金であることから、被保険者が加入している医療保険によって異なり、より多くの医療保険料を拠出している都市の会社員は介護保険の自己負担が軽く、医療保険料の拠出額が相対的に小さい都市の非就労者、農村住民の場合は、介護保険の自己負担が重くなるよう設定されている。
このように、中国のパイロット地区で運営されている介護保険は、被保険者、事業主の保険料負担がない(もしくは少額)代わりに、対象を重度の要介護者に限定し、給付内容を絞り込む制度となっている。加入要件や給付の仕組みは、既存の医療保険の枠組みの中で概ね完結させており、介護と医療の連携は強い。国が制度設計や財源に大きな責任をもつのではなく、各市という小さい単位に委ねているので、日本のような介護保険を運営する体力はそもそも備わっていない。日本ではあまり想像できないが、各市に制度運営全般が委ねられている以上、その権限の範囲内でどのような制度を創設するかも、ある程度の裁量権が与えられている。国全体で介護保険の給付基準を概ね統一することで、制度の公平性を保つのではなく、地域間の格差を認めた上で、域内での制度の公平性の維持に重点を置いているのだ。
3 3地区のうち、青島市、長春市の2地区は、被保険者の保険料負担はなく、南通市は年間30元と少額な設定となっている。
4 厚生労働省「公的介護保険制度の現状と今後の役割」(平成27年度)
また、その財源についても各市が管轄している医療保険の基金(保険料や財政補填を積み立てたもの)、医療保険専用の個人口座から一定額が転用される仕組みとなっている。介護保険を運営する上で、専用の基金は設けるものの、被保険者の保険料負担はほぼなく、いずれの地区も事業主負担もない3。加えて、高齢者が受取る年金からの保険料徴収もない。日本の介護保険の財源構成は、保険料負担が50%(40~64歳が28%、65歳以上が22%)、公費負担が50%であるが、中国の場合は各市が管轄する医療保険の財源から概ね転用することになる4。
介護サービスを利用するための認定については、長期にわたって寝たきり(6ヶ月以上)の場合や、ADL10項目による判定を通じて要介護度が重度と認定された場合、市指定の疾患に罹患している場合などに限定している。日本のように、要支援(2段階)、要介護(5段階)といった介護の必要度に応じた認定はしていない。ただし、中国の場合、介護が医療の枠組みの延長線上であるという位置づけから、給付開始年齢を設けておらず、対象を高齢者に絞っていないという点に大きな特徴がある。日本の場合は65歳以上が対象であり、40~64歳は特定疾病の場合に給付認定されるが、中国の場合、寝たきりなど長期の療養や介護が必要となれば、現役世代でも給付対象となる。
また、給付対象が寝たきりなど重度の要介護者と限定されていることから、その給付内容もそれに応じて限定されている。自身で通うことが可能な通所介護は対象外(全額自己負担)となっており、重度の要介護者が必要と想定する在宅介護(地域コミュニティである社区の活用)、施設介護(医療施設、介護施設)に給付を絞っている。また、施設介護の給付は1日あたりのベッド代などに抑え、訪問介護の給付を増やすなど、施設介護へ集中しないよう誘導している。日本の場合、支給限度基準額は要介護度毎に設定されるため7段階となるが、中国の場合は重度に限定しているため、1段階(日額、月額で設定)のみである。
また、重度で入院を想定している点から、ベッド代など施設介護の場合に自己負担を支払うとしている。自己負担割合は、日本のように被保険者の所得が基準とはならない。財源が医療保険基金であることから、被保険者が加入している医療保険によって異なり、より多くの医療保険料を拠出している都市の会社員は介護保険の自己負担が軽く、医療保険料の拠出額が相対的に小さい都市の非就労者、農村住民の場合は、介護保険の自己負担が重くなるよう設定されている。
このように、中国のパイロット地区で運営されている介護保険は、被保険者、事業主の保険料負担がない(もしくは少額)代わりに、対象を重度の要介護者に限定し、給付内容を絞り込む制度となっている。加入要件や給付の仕組みは、既存の医療保険の枠組みの中で概ね完結させており、介護と医療の連携は強い。国が制度設計や財源に大きな責任をもつのではなく、各市という小さい単位に委ねているので、日本のような介護保険を運営する体力はそもそも備わっていない。日本ではあまり想像できないが、各市に制度運営全般が委ねられている以上、その権限の範囲内でどのような制度を創設するかも、ある程度の裁量権が与えられている。国全体で介護保険の給付基準を概ね統一することで、制度の公平性を保つのではなく、地域間の格差を認めた上で、域内での制度の公平性の維持に重点を置いているのだ。
3 3地区のうち、青島市、長春市の2地区は、被保険者の保険料負担はなく、南通市は年間30元と少額な設定となっている。
4 厚生労働省「公的介護保険制度の現状と今後の役割」(平成27年度)
(2016年12月20日「保険・年金フォーカス」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1784
経歴
- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019~2020年度・2023年度~)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員教授(2024年度~)
・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
博士(学術)
片山 ゆきのレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/16 | ギグワーカーの社会保険適用問題-中国フードデリバリー大手美団の取組み | 片山 ゆき | 基礎研レター |
2025/03/18 | 中国で求められる、働きやすく、子育てしやすい社会の整備【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(68) | 片山 ゆき | 保険・年金フォーカス |
2025/02/18 | 中国版iDeCo、全国実施へ【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(67) | 片山 ゆき | 保険・年金フォーカス |
2024/12/23 | 医療保険ウォレット、試行開始(中国) | 片山 ゆき | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年05月01日
日本を米国車が走りまわる日-掃除機は「でかくてがさつ」から脱却- -
2025年05月01日
米個人所得・消費支出(25年3月)-個人消費(前月比)が上振れする一方、PCE価格指数(前月比)は総合、コアともに横這い -
2025年05月01日
米GDP(25年1-3月期)-前期比年率▲0.3%と22年1-3月期以来のマイナス、市場予想も下回る -
2025年05月01日
ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 -
2025年04月30日
2025年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【老いる中国、介護保険制度はどうなっているのか。【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(23)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
老いる中国、介護保険制度はどうなっているのか。【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(23)のレポート Topへ