2016年12月14日

プーチン大統領をおもてなし?「長門湯本温泉」の挑戦-自分で動く「地元」創生(2)

江木 聡

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4――観光業の本質

計画の成否について、地元を知る筆者が懸念する点は、山口県とりわけ長門市エリアの温泉地へのアクセスが不便なことだ。しかし、星野リゾート社長・星野佳路氏は、当地が東京から離れていることに対し、「観光の魅力づくりとは『どうやって遠いところに来てもらえるか』を考えることであり、それこそが観光業にかかわる人の仕事なのです」とその矜持を示す。その上で、自ら手掛ける沖縄の竹富島やタヒチも例に挙げて、「魅力さえしっかりしていれば、お客さんはとんできます」と言い切る5。長門湯本温泉の関係者も今や同じ想いであるに違いない。
 
筆者個人も、例えばフランスの片田舎を旅行することがあるが6、利便性は関係ない。行ってみたいからわざわざ行くのである。バスさえ走っていないその地に立ったとき、東京からの距離と苦労は逆に達成感と満足感に変わっている。その土地固有のものこそ普遍的価値を持つ。そこにしかないという価値は世界に通用するからだ。観光で目指すべき価値とはそういうものだろう。
 
5 注4に同じ
6 フランスで最も美しい村(仏:les  plus beaux village de France)http://www.bonvoyage.jp/plus-beaux-villages/
例えば、Conqes http://www.les-plus-beaux-villages-de-france.org/en/conques
Saint-Cirq-Lapopie http://www.les-plus-beaux-villages-de-france.org/en/saint-cirq-lapopie
 

5――計画の成功を祈念しつつ今後に向けて

5――計画の成功を祈念しつつ今後に向けて

長門湯本温泉のケースから、観光による「地元」創生には、危機感を共有できる場の設定、数字に基づく課題分析と方針策定、創生のシンボル作り、そして役所任せにしない強力な政治リーダーシップの喚起、といった要素が必要だとわかった。これらの必要性を理解しておくことは、今後、自ら観光による「地元」創生に取組むに際しても大きな糧となるだろう。
 
今回、当地を実際に訪れ、街ゆく地元の人々から可能な限り再生計画について所感を聞いたが、旅館関係者、売店オーナーから公衆浴場の受付嬢まで、誰もが計画への期待を口にし、表情も明るかったことが印象に残る。「星野プロジェクトで全国区の温泉に! プーチンで世界区の温泉になる!」と、ある大手旅館社長の鼻息は荒かった。地元の一人として計画の成功を心から祈念し、星野リゾートを含む、長門湯本温泉の再生に挑戦する関係者に対しエールを送りたい。
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江木 聡

研究・専門分野

(2016年12月14日「基礎研レター」)

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