2016年11月29日

まちづくりレポート|住宅団地活性化なるか!-広島市戸建住宅団地活性化の取り組み

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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3|施設管理と事業運営の概要
管理運営経費は、基本的に全て利用者の支払う利用料金で賄う。利用は一人1回当たり200円で、軽食を希望する場合は300円である。これで運営できるのは、地域住民がボランティアでここを支えているからに他ならない。

子どもの居場所の運営は、教職員や保育士の経験を持つ地域住民等が担う。ふれあいサロンで催されるカフェは、協議会の看護師経験者でグループを編成して実施する。菜園の管理は従来から野菜作りに取り組んできた協議会の男性グループが参加する。

協議会事務局長の林(はやし)裕(ゆたか)さんは、「地域の様々な人がここに集まる。地域を作るには人と人が顔を合わせて、一緒に共同作業をする場を作っていくことが大事だ」と話す。

協議会会長の木村(きむら)忠信(ただのぶ)さんは、「多世代が交流できる仕組みをつくっていかないと地域は活性化しない。そこに高齢者の知識、経験を活用しないともったいない」と話してくれた。まさにこのような考え方が反映された、団地住民が団地住民を支える施設として誕生したのである。

4|事業に対する評価
協議会のふたりは、市が窓口を一本化するとともに、住民の相談や要望に労を惜しまず対応してくれたことを高く評価している。これに対し政策企画課の三原さんは、「地域にまちづくりへの思いがあることが重要」だと話す。そこがないと、市も対応しにくく、団地住民も何をしていいか理解できないだろう。

毘沙門台団地の特筆すべき点は、「毘沙門台ふれあいセンター絆」の整備費を、最初から全て補助金で賄おうとは考えずに、団地住民の寄付で調達した点である。寄付を得ようとしたら、その取り組みによって住民にどのような利益がもたらされるのかを明確に説明できなければならない。それに共感できれば寄付をする。これは事業に住民が主体的に関わりを持つことを意味する。住民の協力を得やすくなるという点で、今後の運営にも生きてくるはずだ。

このように、毘沙門台団地では、団地の課題に対し、住民同士で問題意識を共有するプロセスを経て、住民自らが対策に取り組んでいる。補助金はそれを後押しする形で活用されており、まさに、施策導入のねらいを体現した事例と言えよう。

三原さんが考えるように、毘沙門台団地のような先行事例が、次の事例につながることを期待したい。その際、まちづくりに対する思いを団地住民同士で共有するプロセスも含めて参考にしてほしいと思う。
 

6――おわりに

6――おわりに

筆者は今回、毘沙門台団地の他、いくつかの住宅団地を見学し、住民の方に話を伺った。そこで強く感じたのは、住宅団地は単なる空間的なまとまりではないということだ。完成から数十年経過した中で、そこには個々の家庭で育まれた文化的な営みが息づいている。それは当然なことではあるが、都市計画的な俯瞰した視点からは、つい忘れがちである。住宅団地は個々の家庭が紡いできた物語の集積なのだ。

毘沙門台団地の取り組みからは、40年という月日の中で、住民同士のつながりを努力して育んできたことが理解できる。まさに団地の物語である。

ここまで紹介した広島市住宅団地活性化の取り組みは、地域課題の解決、地域活性化という切り口の事業であるが、もう一度その物語の部分、住宅団地の文化に光を当てる機会になるような気がする。住宅団地が育んだ環境や文化への誇りを再確認することにつながるのではないか。この事業を通じてそれを市民が感じ取るようになれば、再び若い世帯が住宅団地を積極的に選択するようになると思うのである。
 
 
(謝辞)毘沙門台学区社会福祉協議会の木村忠信会長、林裕事務局長、広島市企画総務局企画調整部政策企画課コミュニティ再生担当の三原正弘主査、安佐南区市民部地域起こし推進課の井手宏高主査、佐伯区市民部地域起こし推進課の金城雄也主事には取材及び資料提供に協力いただいた。深謝申し上げたい。
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴
  • 【職歴】
     1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
     2004年 ニッセイ基礎研究所
     2020年より現職
     ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

    【加入団体等】
     ・我孫子市都市計画審議会委員
     ・日本建築学会
     ・日本都市計画学会

(2016年11月29日「基礎研レポート」)

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