- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 米国経済 >
- 米大統領・議会選挙-トランプ次期大統領の経済政策は玉石混交。今後の経済は、政策優先順位・遂行状況次第。
2016年11月18日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1.大統領・議会選挙結果
(1)選挙結果:事前の予想に反し、大統領、上下両院で過半数を確保する共和党の完全勝利
(2)大統領選挙結果分析:トランプ氏が勝ったというより、クリントン氏が負けた選挙?
大統領選挙の結果を振り返ると、全米得票率1ではクリントン氏がトランプ氏を0.8%ポイントほど上回ったものの、選挙人の獲得州ではトランプ氏がクリントン氏を大幅に超過する結果となった(図表1、2)。
大統領選挙の結果を振り返ると、全米得票率1ではクリントン氏がトランプ氏を0.8%ポイントほど上回ったものの、選挙人の獲得州ではトランプ氏がクリントン氏を大幅に超過する結果となった(図表1、2)。

ウィスコンシン州やペンシルバニア州など5大湖周辺の州は、石炭や鉄鋼業などの製造業を抱えるラストベルト(赤錆地帯)と呼ばれており、これまでは民主党の牙城であったが、今回の選挙では米国製造業の復活を掲げるトランプ氏の支持が上回った。

実際、性別ではクリントン氏が女性票の54%を獲得し、トランプ氏(42%)を大幅にリードした。しかしながら、オバマ氏とロムニー氏が争った前回選挙に比べて女性の投票率でオバマ氏を僅かに下回っており、女性初の大統領誕生の期待がかかった選挙としては、クリントン氏に対する同性からの支持は力不足であったと言える。
さらに、人種別の得票率をみても、投票者全体の7割を占める白人でクリントン氏がトランプ氏に大幅なリードを許した一方、白人以外の人種ではトランプ氏には大幅なリードを獲得したものの、前回選挙でオバマ氏が獲得した得票率を下回っており、トランプ氏の圧倒的な白人からの支持を跳ね返すほどの非白人からの支持は得られていなかったことが分かる。
一方、トランプ氏の勝利の要因として、オバマ大統領やクリントン氏が目指す民主党の政策が支持を失い、トランプ氏の政策が支持されたとの見方に筆者は非常に懐疑的である。確かにトランプ氏の政策公約は、ドッド・フランク法やオバマケアの廃止などオバマ政権の政策をひっくり返すような政策項目が多かったことから、トランプ氏勝利の事実と併せて考えるとそう解釈できなくもない。しかしながら、以下の3つの理由から、今回の選挙に限って言えば民主党の政策が否定されたというより、クリントン氏の資質が大統領として相応しくないと判断された結果と考えている。
第1の理由は、10月28日のクリントン氏メール問題の再燃で両候補者の支持率が大きな影響を受けたことである。リアル・クリア・ポリティクスが公表する全米平均支持率は、メール問題再燃を境にトランプ氏の支持率が顕著に回復していることを示している(図表6)。支持率調査は実態を反映していないとの批判もあるが、10月下旬にはクリントン氏有利が顕著であったことから、仮に、その時期に投票が実施された場合には、大統領選挙は違う結果となった可能性が高いと思料される。
第1の理由は、10月28日のクリントン氏メール問題の再燃で両候補者の支持率が大きな影響を受けたことである。リアル・クリア・ポリティクスが公表する全米平均支持率は、メール問題再燃を境にトランプ氏の支持率が顕著に回復していることを示している(図表6)。支持率調査は実態を反映していないとの批判もあるが、10月下旬にはクリントン氏有利が顕著であったことから、仮に、その時期に投票が実施された場合には、大統領選挙は違う結果となった可能性が高いと思料される。
第2の理由は、任期が終わりに近づいている大統領の支持率でオバマ大統領とブッシュ前大統領で対照的な動きとなっていることである。両大統領支持率の推移をみると、ブッシュ前大統領の政権末期の支持率が2割程度に低下しているのに対し、オバマ大統領は足元でも5割を超える支持率を集めていることが分かる(図表7)。オバマ大統領の高支持率はクリントン氏、トランプ氏ともに不人気の候補であるため、同統領が相対的に良くみえてしまうという点には注意が必要だ。しかし、民主党政策からの転換が支持されているとすれば、オバマ大統領の支持率は低下している筈である。
第3の理由は、トランプ氏の得票率の低さである。得票率でクリントン氏に負けているほか、最終的な得票数は確定していないものの、クリントン氏が2百万票近い差をつけているとみられていることから、00年選挙でゴア氏がリードした50万票に比べて大きな差となっている。
このようにみると、今回の選挙でトランプ氏や同氏の政策が積極的に支持されたというよりは、民主党候補であるクリントン氏に対して、メール問題やクリントン財団の問題などのスキャンダルから大統領としての資質が疑問視されたことが大きいと考えられる。
第3の理由は、トランプ氏の得票率の低さである。得票率でクリントン氏に負けているほか、最終的な得票数は確定していないものの、クリントン氏が2百万票近い差をつけているとみられていることから、00年選挙でゴア氏がリードした50万票に比べて大きな差となっている。
このようにみると、今回の選挙でトランプ氏や同氏の政策が積極的に支持されたというよりは、民主党候補であるクリントン氏に対して、メール問題やクリントン財団の問題などのスキャンダルから大統領としての資質が疑問視されたことが大きいと考えられる。

下院では、共和党に有利な選挙区割り(ゲリマンダー)の影響があることを考慮する必要があるものの、上院では今回の改選34議席のうち、共和党は24議席と多くなっていたことから、民主党に有利とみられていた。その有利な選挙で敗北したことは、民主党として重く受け止める必要があるだろう。2年後の中間選挙に向けて民主党は抜本的な出直しが必要とみられる。
1 11月17日時点でミシガン州の結果が未確定。
(2016年11月18日「Weekly エコノミスト・レター」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1824
経歴
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1999年 NLI International Inc.(米国)
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
2014年10月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
窪谷 浩のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/08/04 | 米雇用統計(25年7月)-非農業部門雇用者数が市場予想を下回ったほか、過去2ヵ月分が大幅に下方修正 | 窪谷 浩 | 経済・金融フラッシュ |
2025/08/01 | 低迷が続く米住宅市場-住宅ローン金利の高止まりから、当面住宅市場の本格回復は見込み難い | 窪谷 浩 | Weekly エコノミスト・レター |
2025/08/01 | 米個人所得・消費支出(25年6月)-PCE価格指数(前月比)は総合、コアともに前月から上昇、市場予想に一致 | 窪谷 浩 | 経済・金融フラッシュ |
2025/07/31 | 米FOMC(25年7月)-市場予想通り、5会合連続で政策金利を据え置き。理事2名が利下げを主張し反対票 | 窪谷 浩 | 経済・金融フラッシュ |
新着記事
-
2025年08月15日
マレーシア経済:25年4-6月期の成長率は前年同期比+4.4%~堅調な内需に支えられて横ばいの成長に -
2025年08月15日
グローバル株式市場動向(2025年7月)-米国と日欧の関税大枠合意により安心感が広がる -
2025年08月15日
生成AIを金融リスク分析の視点から読み解いてみる-なぜ人間によるファクトチェックが必要なのか -
2025年08月15日
QE速報:2025年4-6月期の実質GDPは前期比0.3%(年率1.0%)-トランプ関税下でも輸出が増加し、プラス成長を確保 -
2025年08月15日
地方で暮らすということ-都市と地方の消費構造の違い
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年07月01日
News Release
-
2025年06月06日
News Release
-
2025年04月02日
News Release
【米大統領・議会選挙-トランプ次期大統領の経済政策は玉石混交。今後の経済は、政策優先順位・遂行状況次第。】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
米大統領・議会選挙-トランプ次期大統領の経済政策は玉石混交。今後の経済は、政策優先順位・遂行状況次第。のレポート Topへ