2016年11月09日

ビットコインなど仮想通貨の動向-仮想通貨の「光」と「陰」

基礎研REPORT(冊子版) 2016年11月号

小林 雅史

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1――はじめに

仮想通貨の規制に関する法案が2016年5月に成立した。仮想通貨の約9割を占めるビットコインの概念は、2008年10月、Satoshi Nakamotoにより紹介された。2009年に実際の運用が開始され、取引が拡大し、現在の相場は約600ドルとなっている。通貨同様の流通性、送金手数料の低廉性・迅速性や、投資商品としての魅力、取引の匿名性の高さなどがビットコインのメリットとされているが、価格が不安定であること、マネーロンダリングなど犯罪の温床になりかねないことなどがデメリットとされている。

2――ビットコインの歴史

1|概念の紹介(2008年10月)

2008年10月、Satoshi Nakamoto(中本哲史、正体は不明)による論文により、ビットコインの概念が紹介された。ビットコインとは、「公開鍵暗号によるデジタル署名のチェーン(連鎖)」で、P2P(ピアトゥピア)すなわち一対一の電子署名により取り引きされ、取引記録は第三者により承認される。ビットコインには発行主体・管理主体がないが、第三者による取引記録の承認(一定の単位で取引がまとめられ、「ブロック」として保管される)により、データ改ざんによる偽造や二重使用が回避されている[なお、第三者による取引記録の承認に対し、一定のビットコインが付与され(ビットコインの新規発行)、「採掘」と称される]。


2|発行(2009年)と取引の拡大

研究者などのプロジェクトにより、2009年、ビットコインが発行された。第三者による取引記録の承認に対するビットコイン付与は、当初の21万ブロックまでは、1ブロックごとに50ビットコイン、つぎの42万ブロックまでは、半分の25ビットコインである(21万ブロックごとに半減するよう設定)。現在の発行残高は1300万コインを超え、発行総量は約2100万コインと予想され、約132年後に最後のビットコインが発行されることとなる。ビットコインは当初、商取引に使用されることはなく、研究者やプログラマーなどが保有するに過ぎなかった。最初の商取引は、2010年5月22日、米国フロリダ州のプログラマーがピザ2枚(約25ドル)を1万ビットコインで購入したときとされており、この日はBitcoin Pizza Dayと称されている。こうした中、もともとトレーディングカード(鑑賞やゲームのためのカード)交換所として設立された、Mt.Gox(Magic: The Gathering,Online eXchange、マウント・ゴックス)社は、2010年7月、ビットコイン取引を開始した(本社は東京・渋谷)。2011年2月9日には1ビットコインが1ドルとなった。2013年3月のキプロス金融危機に際し、欧州投資家がビットコインを購入したため、相場は急上昇、2013年年初1ビットコイン13ドルだったものが、2013年4月11日には100ドルとなった。2013年10月、中国のネット検索大手の百度(バイドゥ)がビットコインを決済通貨として採用したのを契機に、中国人の投資目的購入が増え、市場価格は急上昇し、同年11月末には1ビットコインが1242ドルとなった。しかし、同年12月5日、中国当局は、ビットコインを用いた金融商品や決済サービスの提供、ビットコインの両替の禁止などを通達した。また、ビットコイン関連のウェブサイトの当局登録を義務付け、利用者に対しても個人情報を開示のうえ、実名で登録することが求められた。規制導入の背景には、格安な手数料での人民元のビットコインを経由した他国口座への送金によるマネーロンダリングがあったとされる。通達後、人民元建てビットコイン相場は、1日で60%以上も値下がりした。


3|Mt.Gox社の破綻

2014年2月7日、Mt.Gox社は、ビットコインからドルや円などへの換金などの取引を停止した。同日、ビットコイン相場は658ドルと前日比約16%安い水準まで下げた。2014年2月28日、Mt.Gox社は、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。当初、顧客保有分の75万ビットコインと自社保有分10万ビットコイン(当時の1ビットコイン=550ドルで計算すると、約470億円)が消失したとされ、顧客資金も最大28億円程度消失したことが判明した。顧客は12万7000人、大半は外国人で、日本人は0.8%、約1000人であった。同社は、システムの不具合を悪用した外部からの不正アクセスにより消失した可能性が高いと説明した。2015年1月には、警視庁の解析の結果、消失は約65万ビットコインで、うち同社の説明による外部からのサイバー攻撃での消失は約1%、他はシステム不正操作の疑いが強いと報道された。当局の捜査により、2015年8月1日、同社社長がシステムを不正操作し、自身の口座残高を100万ドル分水増ししたとして逮捕された。

3――日本での規制の動向

1|当初の政府見解(2014年3月)

Mt.Gox社取引停止を受け、2014年2月25日、参議院にビットコインについての質問主意書が提出された。2014年3月7日、閣議決定した答弁書では、「ビットコインについては、特定の発行体が存在せず、各国政府や中央銀行による信用の裏付けもない等の特徴を有する」、「ビットコインは通貨ではなく、それ自体が権利を表象するものでもない」などと回答した。さらに2014年3月10日、関係法令整備などについて再質問主意書が提出されたが、「法令整備の有無、時期について、現時点において、政府として確たることは申し上げられない」と、規制の方向性は示されなかった。また、2014年4月9日、日銀の黒田総裁は、定例記者会見でビットコインは通貨ではなく、一般的な決済手段とはなっていないとした上で、規制は政府の問題であると回答している。


2|自民党IT戦略特命委員会資金決済小委員会の中間報告(2014年6月)

2014年6月、自民党IT戦略特命委員会資金決済小委員会は「ビットコインをはじめとする『価値記録』への対応に関する【中間報告】」を発表した。同報告では、「ビットコインをはじめとする価値記録のやり取りはビジネスにおける新たなイノベーションを起こす大きな要素となりうる」とした。また、当時の各国の対応などを例示した上で、わが国は自己責任原則の下、立法によらないルール確立を提言した。一方、ビジネス振興・課題解決を目的とした業界団体設立によるガイドライン(届出制、本人確認、情報開示、セキュリティ)策定を促している。提言を受け、2014年9月、日本価値記録事業者協会[2016年4月日本ブロックチェーン協会(JBA)へ改組]が設立され、2014年10月「JADA自主ガイドライン概要」を策定している。


3|金融審議会の検討(2014年10月~)

2014年10月、金融審議会「決済業務の高度化に関するスタディ・グループ」で審議が開始され、翌年4月28日中間整理では、「仮想通貨等、新たな形態の決済手段についても、その利用実態や犯罪その他不正利用の可能性、国際的な規制の動向も踏まえた上で、対応のあり方について、必要に応じ、検討していくことが考えられる」とされた。スタディ・グループが改組された第1回ワーキング・グループ(2015年7月23日)では、新たな動きとして、2015年6月のG7エルマウサミットで、テロ資金対策として仮想通貨への適切な規制を含めた更なる行動を取ると合意されたことが指摘された。2015年12月22日公表の「決済業務等の高度化等に関するワーキング・グループ報告」は、仮想通貨の取引状況(当時ビットコイン業者は世界で約10万、1日の取引は約17万件、時価総額は約52億ドル)、マネロン・テロ資金供与対策の国際的要請、Mt.Gox社の破綻を踏まえ、規制の導入を提言した。


4|法案の成立(2016年5月)

提言を受け、資金決済法および犯罪収益移転防止法の改正案が2016年3月国会に提出され、2016年5月成立した。資金決済法においては、仮想通貨は、「物品やサービス購入の際、不特定の者が使用でき、かつ、不特定の者が売買できる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」などと定義されている。仮想通貨交換業者に対しては、登録制を導入し、情報の安全管理義務、利用者への情報提供義務、利用者の財産の分別管理義務などを定めている。また、犯罪収益移転防止法が改正され、仮想通貨交換業者に対し、口座開設時の本人確認、本人確認記録・取引記録の作成・保存、疑わしい取引の当局への届出義務などが課された。

4――おわりに

仮想通貨規制の目的は、マネロン・テロ資金供与規制と消費者保護である。マネロン防止のため、ロシア・中国などでは仮想通貨を禁止した。Mt.Gox社の破綻は、顧客の大半は外国人であったが、社長が顧客資金を横領したなどで逮捕され、仮想通貨への信頼を大きく損なった。こうした点は、仮想通貨の「陰」の部分といえる。一方、仮想通貨には、金融分野の技術革新であるFintech(フィンテック)としての「光」の部分もある。第一に、技術の革新性である。ブロックチェーン(取引履歴の連鎖)による転々流通の仕組みは、「社会インフラの1つとして利用できる可能性を持っている」と指摘されている。三菱東京UFJ銀行の「MUFGコイン」と称される独自の金融サービス構想は、ブロックチェーンによる流通性に着目したものといえよう。第二に、ビックデータとしての活用の可能性である。膨大な取引履歴は、決済行動の分析やマーケティングなどに大きく貢献しうる。第三に、低コストであることである。たとえば、海外送金については、現在銀行での通貨の送金では一件当たり数千円であるが、仮想通貨の海外への移転は数十円程度で、通貨での為替変動や、仮想通貨での価格変動および通貨への換金の際の手数料を除外して考えれば、顧客の負担は軽くなる。銀行のほか、証券会社や保険会社などが顧客との膨大な取引データを維持・管理しており、効率的なシステム構築により、顧客に対し低コストでサービスを提供できる可能性がある。さまざまな可能性を秘めた仮想通貨について、規制導入を契機に、消費者保護や利便性向上を優先した健全な発展を期待したい。
 

 
  * 引用文献など、詳細については、拙稿「ビットコインなど仮想通貨の動向」を参照されたい
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(2016年11月09日「基礎研マンスリー」)

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