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- 若者の「高級ブランド離れ」「クルマ離れ」は本当か?-データで見るバブル期と今の若者の違い
2016年11月09日
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1――はじめに
今の若者は、消費に消極的な印象が強く、「高級ブランド離れ」や「クルマ離れ」など「若者の○○離れ」を言われがちだ。本稿では、消費意欲が旺盛と言われたバブル期の若者と今の若者の状況をデータで比べるとともに、社会背景や価値観変化等の考察を行う。
2――「高級ブランド離れ」は本当?
1|若年単身勤労者世帯の被服費の大幅減少と「高級ブランド離れ」
総務省「全国消費実態調査」にて、1989年のバブル期と2014年の30歳未満の単身勤労者世帯の「被服及び履物」の支出額を比べると、男性は月平均1.1万円から5.4千円へ、女性は2.1万円から8.9千円へ大幅に減少している(物価を考慮した実質増減率は男性△58.6%、女性△61.6%)。同調査には「高級ブランド」という品目は存在しないため、「高級ブランド」の支出額の減少を直接的に確認できたわけではないが、2014年の若年単身勤労者世帯の被服費は1万円を下回っており、「高級ブランド」を買う若者が多いとは考えにくい。また、バブル期は、若者の間でも欧米の高級ブランド品や国内のDCブランドがもてはやされていたようだが、今は、そのような風潮が見えにくいこともあわせて考えると、今の若者では「高級ブランド離れ」をしている可能性が高い。
2|消費社会の成熟化と価値観変化
若年単身勤労者世帯の被服費の大幅減少には「高級ブランド離れ」の影響もあるかもしれないが、バブル期でも被服費は月1~2万円程度であり、「高級ブランド」を好んだ若者は多数派ではないだろう。そうなると、「高級ブランド離れ」以外に、どんな理由があるのだろうか。今の若者はおしゃれをしなくなったのだろうか。しかし、若い男性は一昔前より身綺麗になった印象が強く、2000年代には都内で男性専門の百貨店が開店し、毎年、様々なメーカーから男性用化粧品も発売されている。また、女性についても、おしゃれをしなくなったという印象は薄い。
社会背景を振り返ると、バブル期は、欧米の高級ブランド品を持つことが、ある種のステータスで、国内の百貨店でもDCブランドに勢いのある時代であった。消費社会は今ほど成熟しておらず、品質の良い物や流行の物、最新の物を手に入れるためには、その分、高いお金を出す必要があった。裏を返すと、「高い物は良い物」という見方の強い時代であった。
しかし、1990年代以降、日本の消費社会は進化してきた。服飾品ではファスト・ファッションの台頭で、安く高品質な物、流行の物があふれるようになった。今の若者では、バブル期に見られた「良い物は高い」「高い物は良い」という価値観が薄らいでいる可能性がある。また、今の若者は、物があふれる中で育ってきたため、物質的な欲求が弱まっている可能性もある。
よって、今の若者は、消費社会の成熟化によりファスト・ファッションなどを利用すると、過去よりお金をかけなくてもハイレベルな消費生活を楽しむことができる。さらに、安価で高品質な物があふれたことで、物質的欲求が弱まり、「高級ブランド」の所有欲求や憧れも薄れている可能性がある。
若年単身勤労者世帯における被服費の大幅減少は、若者がおしゃれをしなくなったわけではなく、消費社会の成熟化の恩恵と価値観変化の影響が大きいのではないだろうか。
総務省「全国消費実態調査」にて、1989年のバブル期と2014年の30歳未満の単身勤労者世帯の「被服及び履物」の支出額を比べると、男性は月平均1.1万円から5.4千円へ、女性は2.1万円から8.9千円へ大幅に減少している(物価を考慮した実質増減率は男性△58.6%、女性△61.6%)。同調査には「高級ブランド」という品目は存在しないため、「高級ブランド」の支出額の減少を直接的に確認できたわけではないが、2014年の若年単身勤労者世帯の被服費は1万円を下回っており、「高級ブランド」を買う若者が多いとは考えにくい。また、バブル期は、若者の間でも欧米の高級ブランド品や国内のDCブランドがもてはやされていたようだが、今は、そのような風潮が見えにくいこともあわせて考えると、今の若者では「高級ブランド離れ」をしている可能性が高い。
2|消費社会の成熟化と価値観変化
若年単身勤労者世帯の被服費の大幅減少には「高級ブランド離れ」の影響もあるかもしれないが、バブル期でも被服費は月1~2万円程度であり、「高級ブランド」を好んだ若者は多数派ではないだろう。そうなると、「高級ブランド離れ」以外に、どんな理由があるのだろうか。今の若者はおしゃれをしなくなったのだろうか。しかし、若い男性は一昔前より身綺麗になった印象が強く、2000年代には都内で男性専門の百貨店が開店し、毎年、様々なメーカーから男性用化粧品も発売されている。また、女性についても、おしゃれをしなくなったという印象は薄い。
社会背景を振り返ると、バブル期は、欧米の高級ブランド品を持つことが、ある種のステータスで、国内の百貨店でもDCブランドに勢いのある時代であった。消費社会は今ほど成熟しておらず、品質の良い物や流行の物、最新の物を手に入れるためには、その分、高いお金を出す必要があった。裏を返すと、「高い物は良い物」という見方の強い時代であった。
しかし、1990年代以降、日本の消費社会は進化してきた。服飾品ではファスト・ファッションの台頭で、安く高品質な物、流行の物があふれるようになった。今の若者では、バブル期に見られた「良い物は高い」「高い物は良い」という価値観が薄らいでいる可能性がある。また、今の若者は、物があふれる中で育ってきたため、物質的な欲求が弱まっている可能性もある。
よって、今の若者は、消費社会の成熟化によりファスト・ファッションなどを利用すると、過去よりお金をかけなくてもハイレベルな消費生活を楽しむことができる。さらに、安価で高品質な物があふれたことで、物質的欲求が弱まり、「高級ブランド」の所有欲求や憧れも薄れている可能性がある。
若年単身勤労者世帯における被服費の大幅減少は、若者がおしゃれをしなくなったわけではなく、消費社会の成熟化の恩恵と価値観変化の影響が大きいのではないだろうか。
3――「クルマ離れ」は本当?
1|自動車関係費・保有台数の変化
被服費と同様に、1989年と2014年の30歳未満の単身勤労者世帯の「自動車関係費」を比べると、男性は月平均1.8万円から7.3千円へ減少する一方(実質増減率△62.2%)、女性は4.9千円から1.4万円へ増加している(同+154.3%)。その結果、2014年では男女逆転している。ただし、この結果には注意が必要である。同調査では、若年単身勤労者世帯の調査対象世帯数が減少傾向にあること、また、三ヶ月間の家計簿調査であることから、自動車などの高額品の支出額はブレが出やすい。よって、単年度だけでなく、推移も捉えた方が良い。
そこで、「自動車関係費」の実質増減率の推移を見ると、男性は2009年までは横ばい・減少傾向で、2014年で大幅に低下している[図表1]。一方、女性は上昇傾向だが、2014年で著しく上昇している。推移を見ると、2014年の「自動車関係費」の男女逆転はさておき、男性は減少傾向、女性は増加傾向にあることが確かに言えそうだ。
また、若年単身勤労者世帯の自動車保有台数を見ると、男性では減少傾向、女性では増加傾向にあり、その結果、男女差が縮小している[図表2]。
以上より、データの見方に注意は必要だが、若年単身勤労者世帯のクルマ関連の支出や保有状況は、男性はおおむね減少傾向、女性は増加傾向にある。つまり、若い一人暮らしの男性では「クルマ離れ」の傾向があるが、女性では、むしろクルマ利用が増えている。
被服費と同様に、1989年と2014年の30歳未満の単身勤労者世帯の「自動車関係費」を比べると、男性は月平均1.8万円から7.3千円へ減少する一方(実質増減率△62.2%)、女性は4.9千円から1.4万円へ増加している(同+154.3%)。その結果、2014年では男女逆転している。ただし、この結果には注意が必要である。同調査では、若年単身勤労者世帯の調査対象世帯数が減少傾向にあること、また、三ヶ月間の家計簿調査であることから、自動車などの高額品の支出額はブレが出やすい。よって、単年度だけでなく、推移も捉えた方が良い。
そこで、「自動車関係費」の実質増減率の推移を見ると、男性は2009年までは横ばい・減少傾向で、2014年で大幅に低下している[図表1]。一方、女性は上昇傾向だが、2014年で著しく上昇している。推移を見ると、2014年の「自動車関係費」の男女逆転はさておき、男性は減少傾向、女性は増加傾向にあることが確かに言えそうだ。
また、若年単身勤労者世帯の自動車保有台数を見ると、男性では減少傾向、女性では増加傾向にあり、その結果、男女差が縮小している[図表2]。
以上より、データの見方に注意は必要だが、若年単身勤労者世帯のクルマ関連の支出や保有状況は、男性はおおむね減少傾向、女性は増加傾向にある。つまり、若い一人暮らしの男性では「クルマ離れ」の傾向があるが、女性では、むしろクルマ利用が増えている。
2|自動車運転免許保有率の低下
「クルマ離れ」について、自動車運転免許保有率の状況も確認する。なお、得られるデータの制約上、バブル期ではなく、2001年と2015年の比較になる。図表1より、運転免許保有率は、男性は34歳以下、女性は29歳以下で低下しており、低下幅は年齢が低いほど、また、女性より男性で大きい。2015年でも全ての年齢階級で、男性の方が運転免許保有率は高いが、男女差は縮小している。
よって、運転免許保有率の変化からは、若い年代ほど「クルマ離れ」の傾向があり、その傾向は女性より男性で強い様子がうかがえる。
3|業界による「クルマ離れ」の考察
若者の「クルマ離れ」については、一般社団法人日本自動車工業会「2008年度乗用車市場動向調査~クルマ市場におけるエントリー世代のクルマ意識~」における考察も参考になる。
同調査によると、大都市に住む男性では自動車購入意向が弱まっているが、女性や地方居住者では依然として強い。しかし、購入予定時期の先延ばしも見られ、購入に結びつきにくいようだ。
この背景の考察として、今の若者ではクルマに対する負担が効用を上回っていることをあげている。今の若者は景気低迷の中で育ち、保守的な価値観を持つために、事故などのリスクを懸念する姿勢が強い。また、情報通信技術の進化によりゲームや携帯電話、パソコンが普及し、屋内で過ごす時間が多い。移動しなくても友人とコミュニケーションを取れる環境にもあるため、クルマの使用機会が減っている。さらに、成熟した消費社会では、魅力的な商品・サービスも増えたため、相対的にクルマの魅力が低下している。
4|「クルマ離れ」の温度差
以上より、クルマ以外の魅力的な娯楽やモノの増加やリスク回避志向の強まりにより、クルマに感じる魅力が低下したことで、若者の「クルマ離れ」が生じ、結果として運転免許保有率が下がっているようだ。しかし、大都市の男性や一人暮らしの男性では「クルマ離れ」が進む一方、一人暮らしの女性では、むしろクルマ利用が増えており、若者の中でも温度差がある。
「クルマ離れ」について、自動車運転免許保有率の状況も確認する。なお、得られるデータの制約上、バブル期ではなく、2001年と2015年の比較になる。図表1より、運転免許保有率は、男性は34歳以下、女性は29歳以下で低下しており、低下幅は年齢が低いほど、また、女性より男性で大きい。2015年でも全ての年齢階級で、男性の方が運転免許保有率は高いが、男女差は縮小している。
よって、運転免許保有率の変化からは、若い年代ほど「クルマ離れ」の傾向があり、その傾向は女性より男性で強い様子がうかがえる。
3|業界による「クルマ離れ」の考察
若者の「クルマ離れ」については、一般社団法人日本自動車工業会「2008年度乗用車市場動向調査~クルマ市場におけるエントリー世代のクルマ意識~」における考察も参考になる。
同調査によると、大都市に住む男性では自動車購入意向が弱まっているが、女性や地方居住者では依然として強い。しかし、購入予定時期の先延ばしも見られ、購入に結びつきにくいようだ。
この背景の考察として、今の若者ではクルマに対する負担が効用を上回っていることをあげている。今の若者は景気低迷の中で育ち、保守的な価値観を持つために、事故などのリスクを懸念する姿勢が強い。また、情報通信技術の進化によりゲームや携帯電話、パソコンが普及し、屋内で過ごす時間が多い。移動しなくても友人とコミュニケーションを取れる環境にもあるため、クルマの使用機会が減っている。さらに、成熟した消費社会では、魅力的な商品・サービスも増えたため、相対的にクルマの魅力が低下している。
4|「クルマ離れ」の温度差
以上より、クルマ以外の魅力的な娯楽やモノの増加やリスク回避志向の強まりにより、クルマに感じる魅力が低下したことで、若者の「クルマ離れ」が生じ、結果として運転免許保有率が下がっているようだ。しかし、大都市の男性や一人暮らしの男性では「クルマ離れ」が進む一方、一人暮らしの女性では、むしろクルマ利用が増えており、若者の中でも温度差がある。
4――おわりに
「若者の○○離れ」が語られる時、今の若者はお金がないために、節約志向が強くモノを買わない、と言われがちだ。確かに節約志向もあるだろうが、そもそも現代社会では、お金をかけなくても過去よりハイレベルな消費生活を送ることができる。最近では、高級ブランドバッグのシェアリングサービスやカーシェアリングを利用すれば、さらに、お金をかけずに生活できるようになっている。また、モノや娯楽があふれる中で育った今の若者は、価値観も変わり、物質的欲求も弱まっている。よって、「若者の○○離れ」は単純に節約志向だけでは説明できない。
また、データで実態を見ると、若者をひとくくりにできない部分もある。
消費者の現状を的確に捉えるためには、データでの十分な確認と多面的な考察が必要だ。
また、データで実態を見ると、若者をひとくくりにできない部分もある。
消費者の現状を的確に捉えるためには、データでの十分な確認と多面的な考察が必要だ。
(2016年11月09日「基礎研マンスリー」)

03-3512-1878
経歴
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
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