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期待される共働き世帯の消費と、政府統計の整備~現在の世帯・収支構造を捉えた消費統計を
生活研究部 上席研究員 久我 尚子
経済力のある若い共働き世帯の収支を把握することは、低迷する個人消費を上向かせるための一つの活路とも成り得る。しかし、現在の政府統計では、彼らの実態を把握することは、なかなか難しい。
共働き世帯数は、すでに1990年代半ばから、専業主婦世帯数を上回っている(図1)。最近では、保育園待機児童問題の状況からも分かるように、特に若い世代で共働きが増えている。末子が0歳児の母親の就業率は、20年前は2割に満たなかったが、現在では約4割を占める(図2)。
景気起因の労働者の収入減少はありながらも、女性の大学進学率が男性に追随している事実(図3)や、政府の「女性の活躍促進」政策による環境整備を考えると、今後ますます、(1)の働く女性が増えていくだろう。すでに現在でも、冒頭の一部の消費場面では存在感をあらわしている。
第二次安倍政権以降、物価上昇率の数値目標や消費増税もあったことから、以前にも増して、個人消費の動向が注目されている。増税後の低迷から抜けきれない現状において、今後、どこに伸びしろがあるかを考えると、可能性の一つに、(1)の女性による消費があげられる。
属性別の収支構造を把握しようとした場合、政府統計では、総務省「家計調査」が代表的だ。世帯主の年齢階級別に、勤労者世帯の収入や消費支出の状況が分かる。しかし、世帯構造の変化により、最近では、収支構造を把握しにくい部分もでてきているようだ。
また、消費支出についても課題がある。「家計調査」で把握しているものは、主に世帯全体の消費支出であり、個人的な消費は把握しにくい。「何を、誰が、何に使うか」を記入するように案内しているようだが、個計化も進む中、詳細な記入を徹底することは難しいだろう。
また、調査方法にも課題がある。「家計調査」では、紙の家計簿に記入し、調査員が回収する方式を取っているが、スマホの普及で若い世代ではアプリを利用した家計管理も広がるとともに、共働き世帯や単身世帯の増加で世帯の在宅率が低下する中では、現在の方式では、将来的にも調査協力者の確保は難しいだろう。
翻って、民間の事業会社では、POSデータや電子マネー、ポイントサービス等のビッグデータの集積が進んでいる。これらは、個人の消費状況を詳細に、かつ、タイムリーに把握することができ、非常に魅力的な分析対象である。また、個計化が進む中で個人の消費状況を補完し得るデータでもある。しかし、これらは消費支出のみのデータで収入との結びつきがなく、収支構造としては捉えられないこと、また、今後の広がりも予想される「民泊」などのシェアリング・エコノミーによる個人間取引はビッグデータにはなりにくいことを考えると、やはり、世帯に収入と支出を尋ねるという「家計調査」は貴重なデータ資源であり、現状を的確に把握できるような調査方法等の改変が望まれる。
「一億総活躍社会」では、より個人が活躍する時代になる。個人が収入を持ち、それぞれに消費をしていく時代を迎える中では、十分に個人消費の実態を把握でき、有益な消費政策の実施にもつなげられるような消費統計の整備を望みたい。
1 神谷哲司(2010)「育児期夫婦における家計の収入管理に関する夫婦間相互調査」、東北大学大学院教育学研究科研究年報、第58集、第2号、pp.135-151
(2016年09月28日「研究員の眼」)
03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
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