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中期経済見通し(2016~2026年度)

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3. 日本経済の見通し
日本の人口はすでに減少局面に入っており、このことが経済成長率の低迷をもたらしているとの見方は根強い。しかし、日本の経済成長率の低下に大きく寄与しているのは人口増加率の低下よりも一人当たりGDPの伸び率低下である。
実質GDP成長率を人口増加率と一人当たりGDPの伸び率に分けてみると、人口増加率は1970年代の1%台から1980年代が0.6%、1990年代が0.3%、2000年以降が0.0%(人口のピークは2008年)と徐々に低下しているが、変化のペースは緩やかである。これに対し、一人当たりGDPの伸びは1980年代の3.7%から1990年代が1.2%、2000年以降が0.8%と大きく低下している。
人口増加が一国の経済成長にプラスに寄与することは間違いないが、人口増加率は一人当たりGDPの伸び率と連動しない。実際、OECD加盟国(35カ国)における1990年以降の人口増加率と一人当たりGDP成長率の関係をみると、両者にはっきりとした相関は見られない。
日本の低成長は人口減少とは直接関係のない一人当たりGDP成長率の低下によってもたらされている部分が大きい。人口減少率は今のところ年率0.1%程度にすぎないので、一人当たりGDPの伸びを高めることによって国全体の成長率を高めることは可能だ。

労働力人口は1990年代後半から減少傾向が続いてきたが、2005年頃を境に減少ペースはむしろ緩やかとなり、2013年からは3年連続で増加している。15歳以上人口の減少、高齢化の進展が労働力人口の押し下げ要因となっているが、女性、高齢者を中心とした年齢階級別の労働力率の大幅上昇がそれを打ち消す形となっている。少なくとも現時点では労働力人口の減少が経済を下押しする形とはなっていない。
日本経済の停滞が長期化している一因として、需要と供給のミスマッチの問題が挙げられる。たとえば、マクロ的には需要不足の状態が続いている一方で、医療、介護、保育などの分野では満たされない需要が多く存在する。需要の大きい分野に十分なサービスが提供されていないため、本来あるはずの需要が顕在化せず、不必要な分野に過剰な供給力が残っている。このため、マクロ的な需給バランスは需要不足・供給過剰の状態が続いている。
日本は高齢化の進展によってサービスへの需要が高まっており、企業もサービス産業を中心に高齢者の需要掘り起こしに向けた取り組みを進めている。しかし、現時点では高齢者の潜在的な需要に十分に対応できているとは言えない。OECD加盟国(先進国)について、高齢化率(65歳以上人口比率)とサービス産業比率(GDPに占めるサービス産業の割合)の関係を見ると、高齢化率が高いほどサービス産業比率も高いという傾向がある。日本のサービス産業比率は先進国の平均よりは高いものの、高齢化が先進国で最も進んでいる一方で、サービス産業比率は米国、英国、フランスなどよりも低い。このことは、高齢化の進展に伴い需要はモノよりもサービスにシフトしているにもかかわらず供給側がそれに対応しきれていないことを意味している。
(女性、高齢者の労働参加拡大が鍵)
労働力人口は3年連続で増加しているが、先行きについては、人口減少ペースの加速、さらなる高齢化の進展が見込まれるため、減少基調となることは避けられないだろう。ただし、女性、高齢者の労働力率を引き上げることにより、そのペースを緩やかにすることは可能である。
近年、女性の労働力率は大幅に上昇しているが、注目されるのは労働力率の上昇とともに就業希望の非労働力人口を加えた潜在的労働力率も上昇している点である。このことは現時点の潜在的労働力率が天井ではなく、育児と労働の両立が可能となるような環境整備を進めることにより、女性の労働力率のさらなる引き上げが可能であることを示している。
女性の労働参加拡大とともに重要なのは高齢者の継続雇用をさらに進めることだ。成長戦略では高齢者の活躍推進も掲げられているが、2020年までの数値目標は64歳までとなっている。少子高齢化がさらに進展する中では、将来的には65歳以上の高齢者も働かなければ労働供給力は大きく低下してしまう。
今回の見通しでは、女性は25~54歳の労働力率が70%台から潜在的な労働力率である80%台まで上昇、男性は60歳代の労働力率が現在よりも10ポイント程度上昇(60~64歳:78.9%(2015年)→88.9%(2026年)、65~69歳:54.1%(2015年)→66.1%(2026年))することを想定した。2015年時点の男女別・年齢階級別の労働力率が今後変わらないと仮定すると、2026年の労働力人口は2015年よりも522万人減少する(年平均で▲0.7%の減少)が、高齢者、女性の労働力率上昇を見込み、2026年までの減少幅は183万人(年平均で▲0.3%の減少)とした。
(2016年10月14日「Weekly エコノミスト・レター」)
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