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ドイツの生命保険会社の状況(3)-IMFによるFSAPの報告書 「保険部門の監督」-
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ICPに対する詳細な分析のうち、ICP 14 Valuation(ICP 14 評価)とICP 17 Capital Adequacy(ICP 17 資本十分性)について、報告する。
(1) ICP 14 Valuation(ICP 14 評価)
「ICP 14 評価」における「説明」においては、
「16年間の経過措置について、16年間で段階的に廃止されるにもかかわらず、経過措置無しのMCRとSCRは、短中期的に、殆どの保険会社にとっての拘束力のある制約を形成しない。」
「国の会計基準での評価は、ソルベンシーに密接に関連している様々な目的のために、重要な測定のままである。国のGAAPベースの数字は、少なくとも短中期的には、多くの保険会社に拘束力のある制約を形成する。」
としており、16年間の経過措置の問題と、新しいソルベンシーII制度の下でも引き続き現行のドイツのGAAPベースでの数字の重要性が高い、ことを述べている。これは、ドイツに限らずに、各国に共通の点であると考えられる。
「ICP 14 評価」に対する「コメント」については、
「ZZRは、(配当金の削減、コスト削減やその他のリストラのような)意味ある方法でソルベンシー・ポジションを改善することを促すように、中期的に改正されるべきである。」
「(16年間の経過措置に関して)BaFinは経過期間の完全な16年を待つことなく、その資本ポジションを改善するための業界の努力を最大化するために、積極的にその権限を使用する必要がある。 BaFinは、保険会社が経過措置を使用している場合に、保険会社の健全性のための重要性についての潜在的な懸念に対処する方法についての一般公衆へのコミュニケーション戦略を開発することを勧告する。」
としている。
このように、ドイツ固有の状況を踏まえて、(1)ZZRに関連する課題や、(2)16年間の経過措置に関しての課題、についての対応策を求める内容となっている。
ICP 14 Valuation(ICP 14 評価)
監督当局は、ソルベンシー目的の資産及び負債の評価のための要件を設定する。
説明
ICP 14は、2016年1月から、ドイツで実施されるように、ソルベンシーIIの枠組みの下で実施されなければならないソルベンシー目的のための評価に適用される。
しかしながら、ソルベンシーIIは、保険会社に、多くのドイツの生命保険会社が使用すると予想される16年の経過措置を提供している。これらの経過措置は、16年間で段階的に廃止される(もし、特定の保険会社によって、条件が満たされない場合は撤回されうる)にもかかわらず、経過措置無しのMCRとSCRは、短中期的に、殆どの保険会社にとっての拘束力のある制約を形成しない。
ソルベンシーIIとドイツの国家会計要件(国のGAAP)に基づく評価は異なり、国の会計基準での評価は、株主及び保険契約者に対する配当のための測定や破産の場合(ICP12)の保険契約者保護の重要な供給源として保持されなければならない保証資産の算出のようなソルベンシーに密接に関連している様々な目的のために、重要な測定のままである。
この評価の目的のためにドイツの市場参加者と開催された協議によると、ソルベンシーIIの数字と一緒に国のGAAPベースの数字は、少なくとも短中期的には、多くの保険会社に拘束力のある制約を形成する。当局や市場参加者によって提供される情報は、また、この考え方をサポートしている。国のGAAPは、評価時に有効なソルベンシーI要件の基礎となった。したがって、この評価は、各国の会計およびソルベンシーII評価の枠組みの両方をカバーしている。
コメント
国の会計
ZZRもまた、保険会社が、未実現利益を認識して資産サイドの収益を実現するための高価な取引を行うことに主として依存することなく、(配当金の削減、コスト削減やその他のリストラのような)意味ある方法でソルベンシー・ポジションを改善することを促すように、中期的に改正されるべきである。
ソルベンシーII評価
さらなる明確化がBaFinが経過措置に関する権限をどのように使用するかに与えられるべきである。 BaFinは経過期間の完全な16年を待つことなく、その資本ポジションを改善するための業界の努力を最大化するために、積極的にその権限を使用する必要がある。BaFinは、保険会社が経過措置を使用している場合に、保険会社の健全性のための重要性についての潜在的な懸念に対処する方法についての一般公衆へのコミュニケーション戦略を開発することをお勧めする。
「ICP 17 資本十分性」における「説明」においては、
「保険会社の約90%が2016年1月からソルベンシーIIの対象となる。」
としている。
「ICP 17 資本十分性」に対する「コメント」については、
「(内部モデルについて)進行検証に資源を投入し、保険会社がその内部モデルを改善することを要求し続けることを勧告する。」
「標準的手法の下でのSCRを評価するために、内部モデルの検証を通じて開発した分析を使用することを勧告する。」
「ボラティリティ調整がカウンターシクリカルの目的でのみ使用されるように、ORSAプロセスを通じて、安定したボラティリティの期間中の資本リソースの構築を奨励することを検討すべきである。」
としている。
このように、(1)内部モデルの改善、(2)内部モデルの検証を通じて開発した分析の標準的手法への適用、(3)安定したボラティリティ期間中の資本リソースの構築、についての対応策を求める内容となっている。
ICP 17 Capital Adequacy(ICP 17 資本十分性)
保険会社が重要な不測の損失を吸収することができ、監督介入の度合いを提供するために、監督当局は、ソルベンシー目的のための自己資本比率規制を設定する。
説明
ソルベンシーIIは、(5百万ユーロの総保険料収入及び25百万ユーロの技術的準備金等)一定の基準を満たす小規模保険会社以外の保険会社に適用される。保険会社の約90%が2016年1月からソルベンシーIIの対象となる。ソルベンシーI要件は小規模保険会社に適用され続けるが、2016年1月からのソルベンシーII実施の広いカバレッジを考慮して、ここでの説明は、単にソルベンシーIIの下で自己資本比率規制に焦点を当てる。
コメント
BaFinは、内部モデルがリスクを適切に把握し、モデルの使用が保険会社の経営に埋め込まれていることを確実にするために、かなりの努力を積み重ねてきた。BaFinは、進行検証に資源を投入し、保険会社がその内部モデルを改善することを要求し続けることを勧告する。
ソルベンシーIIの標準化されたアプローチは、このICPの「内部モデル」の定義を満たしていないかもしれないが、いくつかの要素は、金利リスクや損失吸収能力のような、会社の前提条件に大きく依存している。仮定及びキャリブレーションのいくつかは、全体的な要件に大きな影響を与える。したがって、BaFinは、例えば、特定のシナリオの下での保険契約者配当削減に関する仮定や繰延税金の課税所得の前提が現実的であるかどうかについて、標準的手法の下でのSCRを評価するために、内部モデルの検証を通じて開発した分析を使用することを勧告する。これは、標準的手法を使用している保険会社があまりにも楽観的な資本要件を計算しているリスクを軽減することになる。
ドイツの保険会社の大半がボラティリティ調整を使用する計画であるならば、BaFinはボラティリティ調整がカウンターシクリカルの目的でのみ使用されるように、ORSAプロセスを通じて、安定したボラティリティの期間中の資本リソースの構築を奨励することを検討すべきである。
3―まとめ
次回のレポートでは、IMFがFSAPにおいて行ったストレステストの結果について報告する。
(2016年10月03日「保険・年金フォーカス」)
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中村 亮一のレポート
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