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日本企業の信用リスクは磐石か-CDSスプレッドの縮小トレンドに潜む不安材料
金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹
また、本稿におけるZ Scoreの分析において、特徴的な動きを見せているのが「売上高」である。売上高に関して、低CDSスプレッド20社と高CDSスプレッド17社の関係に逆転現象が見られる。つまり、信用リスクが高いと考えられる企業の方が総資産に対する売上高の比率が大きく、AltmanのZ Scoreモデルの観点で「信用リスクが低い」ことを示していることになる。しかし、低CDSスプレッド20社との比較で総資産に対する営業利益の比率が低いため、高CDSスプレッド17社は、売上に対して相対的に利益が上がっていない(収益性が低い)ことに注意しなければならない。
さらに、2012年度との比較で見ると、売上高に関して、高CDSスプレッド17社は4.2%上昇しているが、低CDSスプレッド20社では5.1%減少しており、一方で、営業利益に関して、高CDSスプレッド17社で1.3%、低CDSスプレッドで0.3%上昇している。よって、高CDSスプレッド17社において売上高の上昇をそのまま営業利益の上昇に繋げられていないことが分かる。また、低CDSスプレッド20社については、売上高以外の要因で営業利益が上昇していることになるが、この点については、2012年後半以降の円安傾向やコスト削減等によって営業利益を増加させてきた姿が想像される。
以上から、日本企業における信用リスクの改善は、AltmanのZ Scoreモデルの観点から見ると「運転資本」「剰余金(利益剰余金等)」「レバレッジ」といったB/S科目の改善が主に寄与しており、「営業利益」や「売上高」といったP/L項目はあまり寄与していないということになる(そもそも日本企業において「売上高の増加」が、信用リスクの改善に真の意味で寄与するのか、疑わしい側面があると考えている10)。また、今後も日本企業の信用リスクの改善が継続していくには、収益性の改善を伴った営業利益や売上高の向上もテーマになっていくべきだと思われる。
10 iTraxx Japanの構成銘柄に限らず、「信用リスクの低い企業ほど売上高が高い」という傾向は標本を増やしても観測されるだけではなく、ここ数年間の日本における倒産企業の特徴である。詳しくは、「過度な利益調整は企業倒産の可能性を高めるかもしれない-ここ10年間の倒産企業に起きている変化(ニッセイ基礎研究所 2015年)」等を参照されたい。
03-3512-1848
- 【職歴】
2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
2021年7月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)
【著書】
成城大学経済研究所 研究報告No.88
『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
出版社:成城大学経済研究所
発行年月:2020年02月
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