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ドイツの生命保険会社の状況(1)-BaFinの2015年Annual Reportより(低金利環境下における状況、内部モデルの適用等)-
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「最高責任準備金評価利率(Höchstrechnungszins:Maximum technical interest rate)」については、BaFinは、(1)これまでに最高責任準備金評価利率制度が果たしてきた役割を評価するとともに、(2)新たなソルベンシーII制度の下での最高責任準備金評価利率制度の意義について、検討することの必要性について触れている。
具体的には「連邦政府によって計画されているように、BaFinは、2018年に、最高責任準備金評価利率制度を再評価する。」ことを明記している。
新商品の周りの議論は、常に最高責任準備金評価利率の有用性についての質問と混在される。2つのことがこの文脈で考慮されなければならない。まず、保険会社はすでに保証無し、あるいはより低いまたは期間限定の保証付の新しい商品を提供することができる。もう1つの要素は、最高責任準備金評価利率が、保証を含んでいる商品に対しては、バックストップとして働いていることである。
BaFinの観点からは、最高責任準備金評価利率は、保険会社が契約条件について喉をかききるような厳しい競争に従事するのを防いできたことから、過去数十年で、その目的を達成してきた。BaFinのみが、2016年年初に発効した新しいフレームワークを実際に観察する機会がある時に、ソルベンシーIIの規制要件が最高責任準備金評価利率を余剰的なものとするのかどうか、そしてどの程度まで、という点についての意味のある見方をすることができるようになる。連邦政府によって計画されているように、BaFinは、2018年に、最高責任準備金評価利率を再評価する。
また、「2015年の保険業界の業績」に関する記述の中で、ZZRについては、以下の通り記載されている。「ZZRのレビュー」についても触れられていることから、今後必要に応じて、制度の見直し等が行われていくことになる。
ZZR(Zinszusatzreserve)の進展
2011年以来、生命保険会社は、将来的により低い投資収益で、高いままの保証債務に備えるために、追加のバッファであるZZRを積み立てることを要求されてきた。彼らは2015年に、このために€107億を費やした。累積ZZRは、2015年末で、€320億の絶対額に達した。ZZRを算出するために使用される参照利率は、2015年末で2.88%だった。
ZZRのレビュー
今後数年間で、ZZRの積立を行うために、かなりの努力が必要であり続けることが予想される。一般的に、それは低金利時代において長期間にわたる保険契約者の保証を確実にするための適切なツールのままであるが、BaFinは業界全体にわたってそして個々の保険会社に対して、事態がどのように進展していくのかについて見守っていく。必要が生じた場合は、ZZRが適切に較正されているかどうかを調査する。
低金利下で、新規投資の金利は非常に低くなっていることから、生命保険会社は、保険契約者に対する配当率を引き下げてきている。
保証利率と運用差益に関する配当率の合計リターンは、養老保険契約に対して、業界平均で、2014年 3.31%、2015年 3.06%、2016年 2.79%と低下してきている。
6 最高責任準備金評価利率を巡る動向については、保険年金フォーカス「ドイツの責任準備金評価用最高予定利率を巡る最近の動き-財務省が1.25%から0.9%への引き下げを提案-」(2016.6.6)、基礎研レター「ドイツ財務省が責任準備金評価用の最高予定利率の撤廃提案を撤回」(2015.12.28)、基礎研レター「ドイツ財務省が責任準備金評価用の最高予定利率の撤廃を提案-EUソルベンシーII導入に伴う監督規制の見直しの動きに対して、関係者の反応はいかに-」(2015.10.14)等を参照いただきたい。
7 ZZRについては、基礎研レター「ドイツにおける追加責任準備金(ZZR)制度を巡る動き-BaFinによる適用緩和策-」(2016.2.22)を参照いただきたい。
3―ソルベンシーIIの内部モデルの適用状況
ソルベンシーIIにおいては、保険会社は監督官庁の承認を受けて、ソルベンシー比率の分母にあたるSCR(ソルベンシー資本要件)の算出において、内部モデルを使用することが認められるが、この内部モデルの適用会社について、
「2016年1月1日から、5つの保険グループ、3つの生命保険会社、3つの健康保険会社、12の損害保険会社、4つの再保険会社が、SCRを算出するために内部モデルを使用する承認を受けた。」8
ことが示されている。
ソルベンシーIIの重要な要素は、リスクベースのソルベンシー資本要件の算出である。会社は、標準的な式または個々のリスク・プロファイルを正確に表す内部モデルのいずれかを使用することによってこれを行うことができる。BaFinは、前もって内部モデルを承認しなければならないが、このプロセスを2015年4月にスタートさせ、2016年1月以来、4つの再保険会社、12の損害保険会社、3つの健康保険会社と3つの生命保険会社が、そのSCRを計算するために内部モデルを使用することが承認された。また、5つのドイツの保険グループは、グループのソルベンシーを計算するために(部分)内部モデルを使用する。BaFinは、2016年にさらなる申請に関する決定を行う。加えて、BaFinからの承認を得る必要があるモデルの拡張や変更がある。
(参考)内部モデルの申請に伴うBaFinの業務対応
内部モデルの申請に関してのBaFinにおける業務負荷に関して、以下の記述がなされており、ソルベンシーIIという枠組みの中での監督当局の承認審査業務の大変さが示されている。
申請に要求される文書化だけでも、2つの側面で、かなりのものとなっている。1つには、申請は最大10万ページにもなるかもしれず、その完全性と内容がBaFinによって確認されなければならない。2つ目に、監督当局はその文書を関係する外国の監督当局に遅滞なく転送しなければならない。
申請が受領されたら直ぐに、会社は確認書を受け取る、申請の完全性は30日以内、ソルベンシーⅡ指令の第231条の下でのグループ内部モデルの場合には45日以内にチェックされる。もし、申請が完全であれば、その受領から6ヶ月の(審査)期間がスタートする。BaFinはその期間内に申請に関する完全な決定を行わなければならない。
内部モデルに関する今後の課題としては、「EIOPAの優先事項の1つとして、内部モデルのさらなる調和」が挙げられており、「市場リスクモデルのキャリブレーションについて、国の監督当局と一緒にベンチマーク調査を行い、加えて、使用されるモデルの継続的なパフォーマンステストを可能にする適切な定量的なツールを開発することを計画している。」としている。
2016年におけるEIOPAの優先事項の一つは、内部モデルの監督をさらに調和させることである。このために、EIOPAは、例えば、市場リスクモデルのキャリブレーションについて、国の監督当局と一緒にベンチマーク調査を行う。加えて、使用されるモデルの継続的なパフォーマンステストを可能にする適切な定量的なツールを開発することを計画している。BaFinは、これらのプロジェクトに関与している。また、例えば、特定のキャリブレーションで資本規制要件を不当に減らすことによって、保険会社が内部モデルを乱用することを防ぐために密接に事業を監視し続けていく。
8 BaFinの監督下にあり、事業活動を行っている保険会社は、2015年12月末時点で、生命保険会社84社、健康保険会社47社、損害保険会社205社、再保険会社28社、となっている。
(2016年09月20日「保険・年金フォーカス」)
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