2016年02月22日

ドイツにおける追加責任準備金(ZZR)制度を巡る動き-BaFinによる適用緩和策-

中村 亮一

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■要旨

ドイツにおいては、一定のルールに基づいて強制的に追加責任準備金の積立を求める、いわゆるZZR(Zinszusatzreserve)と言われる制度が2011年に導入された。昨今の低金利環境下で、この制度に基づく、追加の責任準備金積立負担が大きなものになっていることについては、基礎研レポート「金利低下に保険監督当局はどう対応してきたのか-ドイツBaFinの例-」(2015.6.15)(以下、「前回のレポート」)で報告した。
その後も、ドイツの低金利状況の反転はなく、2015年度決算を迎えるにあたって、実際の積立額やそれが各生命保険会社の経営に与える影響等が再び話題になってきている。こうした中で、現行のZZR制度の見直しについて、保険業界やDAV(ドイツ・アクチュアリー会)等から、提案等がなされていたが、これに対して、ドイツの保険監督官庁であるBaFinも算出方法等についての実質的な緩和策も認めてきている。
今回のレターでは、こうしたBaFinの緩和策等、昨今のZZR制度を巡る状況について報告する。
 
■目次

1―はじめに
2―ZZR制度について
  1|ZZR制度の概要
  2|ZZR制度による追加責任準備金の積立状況
3―2015年度決算におけるZZRの積立額想定と今後の動向
4―BaFinによるZZR算出方法の緩和策について
  1|緩和策の内容
  2|影響及び効果
  3|今回の緩和策についての評価
5―まとめ

1―はじめに

1―はじめに

ドイツにおいては、一定のルールに基づいて強制的に追加責任準備金の積立を求める、いわゆるZZR(Zinszusatzreserve)と言われる制度が2011年に導入された。昨今の低金利環境下で、この制度に基づく、追加の責任準備金積立負担が大きなものになっていることについては、基礎研レポート「金利低下に保険監督当局はどう対応してきたのか-ドイツBaFinの例-」(2015.6.15)(以下、「前回のレポート」)で報告した。
その後も、ドイツの低金利状況の反転はなく、2015年度決算を迎えるにあたって、実際の積立額やそれが各生命保険会社の経営に与える影響等が再び話題になってきている。こうした中で、現行のZZR制度の見直しについて、保険業界やDAV(ドイツ・アクチュアリー会)等から、提案等がなされていたが、これに対して、ドイツの保険監督官庁であるBaFinも算出方法等についての実質的な緩和策も認めてきている。
今回のレターでは、こうしたBaFinの緩和策等、昨今のZZR制度を巡る状況について報告する。
 

ZZR制度について

 

2―ZZR制度について

まずは、ZZR制度について、簡単に説明しておく。詳しくは、前回のレポートを参照していただきたい。

1|ZZR制度の概要
BaFin(連邦金融監督庁:Bundesanstalt fur Finanzdienstleistungsaufsicht)は、低金利環境が続く中で、生命保険会社の健全性の強化を図るために、2011年度決算から、新たに一定のルールに基づいて強制的に追加責任準備金の積立を求める、いわゆるZZR(Zinszusatzreserve:Additional Provision to the Premium Reserve)と言われる制度を導入した。
具体的には、「ドイツ連邦銀行(Deutsche Bundesbank)によって公表されるユーロの10年スワップレートの10年平均1」に基づいて決定される「参照利率(Referenzzins)」を算出し、この参照利率を上回る予定利率で責任準備金を算出している契約については、当初15年間はこの参照利率(16年目以降は契約時の予定利率をそのまま)を使用して、責任準備金を再評価しなければならない。
強制的な追加責任準備金積立制度であるZZRについては、その手法等は責任準備金命令(DeckRV)に規定されており、不足額の算出も機械的に行われる。こうして強制的に積み立てられる追加責任準備金については、将来参照利率が上昇等して、積立の必要がなくなった場合には、取り崩しが行われる。
ZZR(Zinszusatzreserve)のイメージ 2000年1月契約(予定利率4%)の場合-2015年度決算でのZZR-
2|ZZR制度による追加責任準備金の積立状況
BaFinの2014年の年次報告書(Annual Report)によれば、2014年度に生命保険業界全体で、新たに85億ユーロの追加責任準備金の積立が行われ、累計残高は212億ユーロとなった。これは責任準備金の3%程度に相当する数値である。
 
(参考1)参照利率と追加責任準備金残高(業界全体)の推移
 
1 毎年度の数値は、毎月末数値の12ヶ月平均が使用されるが、決算年度だけは1~9月の9ヶ月平均が使用される。
 なお、2014年7月の生命保険改革法以前は、10年国債利回りを使用していた。
 

3―2015年度決算におけるZZRの積立額想定と今後の動向

 

3―2015年度決算におけるZZRの積立額想定と今後の動向

2015年度の参照利率は2.88%となった。これに伴い、BaFinの推定によれば、業界全体で100億ユーロを超える新規の追加責任準備金の積立が必要になり、残高は320億ユーロに達すると想定されている。特に、参照利率が3%を下回ったことにより、1986年以前の契約もZZRの対象に含まれることになり、結果的に、2003年以前の全ての伝統的商品が対象となることとなった。それ以降の契約を含めた伝統的商品の既契約全体の7割程度がZZRの対象になると想定されている。
 
(参考2)最高予定利率の推移(ユーロ建契約の場合)/10年国債金利の推移
さらに、2010年頃までは、10年国債利回りがほぼ3%を上回る水準で推移していたため、現在のような低金利環境が続くと、2016年以降も参照利率は毎年低下していくことになる。次の図表が示すように、金利が2015年度の水準で推移した場合には、2016年度の参照利率はさらに30bp程度低下することになる。そうなれば、2016年度決算においても、2015年度に相当する規模の積立額が発生することが、想定されることになる。
 
(参考3)参照利率の将来推移(2016年以降に一定の金利を想定した場合の数値)(単位:%)
(参考3)に、参照利率の将来推移予測(2016年度以降に一定の金利での推移を想定した場合の数値)を示しているが、現行ルールのままでは、仮に10年スワップレートが2%程度に反転したとしても、2016年度以降の参照利率はさらに低下していくことになる。
具体的には、仮に、基礎数値(=各年度の10年スワップレートの月末数値の12ヶ月平均値)が、今後2015年度の0.85%の水準のままで推移するとした(ケースⅠ)の場合には、2020年度には参照利率が1.39%にまで低下することとなる。このような状況下では、通常の責任準備金の相当程度の割合の追加責任準備金積立が必要になると想定されることになる。
 
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中村 亮一

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