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災害時のトリアージの現状-救急医療の現状と課題 (後編)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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6――トリアージの実務
1|現場でのトリアージでは、応急処置や病院搬送の優先順位を決める
現場でのトリアージは、現場トリアージ、救護所トリアージ、搬送トリアージに分かれる。
(1)現場トリアージ
災害現場の近くに設けられた傷病者集積場所で行われる。救護所への搬送の優先順位を決めることが目的である。なお、災害現場に多数の傷病者が残されている場合、どの傷病者を優先して救出するか、を決めるためのトリアージが、行われる場合もある。
(2)救護所トリアージ
通常、災害時には、災害現場の近くに、臨時に救護所が設置される15。救護所では、入り口にトリアージエリアが設けられる。救護所には、黒、赤、黄、緑エリアが設けられ、トリアージエリアで行ったトリアージの結果に応じて、傷病者が各エリアに振り分けられる。各エリアで、心肺蘇生術や、止血等の応急処置が行われる。
(3)搬送トリアージ
救護所の赤と黄のエリアの出口には、病院への搬送のための救急車搭乗エリアが設けられる。赤エリアの傷病者を優先して、トリアージを行う。傷病者の状態を再評価した上で、搬送先の医療提供態勢、搬送手段、搬送時間等の情報をもとに、搬送順位や搬送先を決定する。それに応じて、病院への救急搬送が行われる。
15 救護所の歴史は古い。日本では、1877年の西南戦争や、1923年の関東大震災で、救護所が開設された。欧米では、戦争時の負傷兵の応急処置のための収容施設として開設された。災害時にも、開設されている。
(1)病院前トリアージ
病院前では、病院に来院した傷病者のトリアージが行われる。これにより、病院に受け入れるかどうかを決める。受け入れる場合、病院内に赤、黄、緑、黒のゾーン分け(「ゾーニング」と呼ばれる)をしているときは、どのゾーンに受け入れるかを決める。
(2)転送・広域医療搬送トリアージ
一旦受け入れた患者でも、その後の症状の変化や、病院の医療提供態勢の変化などにより、その病院での対応が困難となることがある。その場合、他の病院への転送や、被災地外の病院への広域医療搬送が必要となる。その転送・搬送の優先順位を決めるために、トリアージが行われる。
(3)手術トリアージ
手術を行うべき患者が複数いる場合、手術スタッフや、手術室、器材等の医療資源に制約があれば、手術の優先順位をつける必要がある。そのために、トリアージが行われる。緊急度が高い患者が複数いて、他の患者の手術を待つことができない場合には、転送・広域医療搬送が必要となることもある。
(4)入院トリアージ
病院の病床には、ICUや外科病棟の一般病床、内科病棟の一般病床など、いくつかの種類がある。入院することが決まった患者について、どの病床に入院させるかをトリアージで決めることとなる。なお、場合によっては、災害発生前から入院している患者もトリアージして、優先順位が低い場合には、他の病床に移したり、他の病院に転送したりする場合もある。
トリアージは、何回も行われるが、その内容は異なる。これらのトリアージは、大きく、一次トリアージと、二次トリアージに分けることができる。
(1)一次トリアージ
一次トリアージは、短時間で、傷病者のふるい分けをすることを重視する。日本では、START法16 が用いられる。この方法は、1人30秒以内が目安とされる。一次トリアージは、赤色の判定の傷病者を抽出することが目的であり、赤色の判定が出たら、その時点でトリアージを終了する。
まず、歩行可能者17を緑色と判定して、排除する。その後、自発呼吸の有無を確認する。自発呼吸がなければ、気道確保を行う。それでも呼吸が再開しなければ黒色と判定する。呼吸が再開すれば赤色と判定する。次に、呼吸数をみて、1分間に10回未満もしくは30回以上の場合、赤色と判定する。迅速な判定のために、10秒間の呼吸数を測り、それを6倍する方法などがとられる。次に、橈骨(とうこつ)動脈18を確認して、脈触知がなければ赤色と判定する。最後に、従命反応をみる。具体的には、目をつぶる、手を握る等の簡単な命令に従うことができれば黄色、できなければ赤色、と判定する。
16 STARTは、Simple Triage And Rapid Treatmentの頭文字をとったもの。
17 Walking woundedと呼ばれる。地震等の大規模災害発生時には、負傷者の大多数を占めるため、円滑な対応が必要となる。
18 前腕にある2本の動脈の一つ。肘の前面で上腕動脈から分かれ、尺骨動脈とともに手に血液を送る。(「広辞苑 第六版」(岩波書店)より。)
(2016年08月03日「基礎研レポート」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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