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- 地域アーツカウンシル-その現状と展望
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本稿は2015年5月に「基礎研レポート」に発表したものである。その後、地域アーツカウンシルに関して、文化庁は「平成28年度文化芸術振興費補助金」の「文化芸術による地域活性化・国際発信推進事業」の中に「地域における文化施策推進体制の構築促進事業」を新たに創設し、今年1月に公募を行った。
これは、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会において日本全国で特色ある文化活動が行われ、大会終了後もその成果が継承されるよう、全国の地方公共団体の文化施策推進体制の構築を促進することを目的としたもので、実質的には国が地域アーツカウンシルの創設や運営を後押しする補助金となっている。4月に結果が公表され、横浜市、新潟市、静岡県、大阪府、大分県の5団体が採択された。
横浜市と大阪府(正確には大阪府市)は、本稿に記載したアーツコミッション・ヨコハマ、大阪アーツカウンシルの役割や事業、運営体制等をそれぞれ強化する予定だと考えられるが、これで国内の地域アーツカウンシルは7団体を数えることとなった。文化審議会文化政策部会では、この補助金を継続、強化すべきという意見が出されており、来年度もこの補助金は継続される可能性が高い。
これら7つの地域アーツカウンシルの新たな実績や他の地方公共団体の動きなどについては、機会を見て別の調査レポートにまとめることとし、以下、2015年5月に発表した調査レポートをそのまま転載した。
■目次
1――日本における地域アーツカウンシルの現状
1|アーツコミッション・ヨコハマ
:アーティスト・クリエーターの創造活動を支え横浜市の創造都市政策を牽引
2|沖縄版アーツカウンシル(沖縄文化活性化・創造発信支援事業)
:マネジメント力や組織力の強化、人材育成を促進しアーツカウンシルのあるべき姿を追求
3|東京芸術文化評議会とアーツカウンシル東京
:10名以上のプログラムオフィサーによる審査体制を確立した本格的地域アーツカウンシル
4|大阪アーツカウンシル(大阪府市文化振興会議・アーツカウンシル部会)
:府市が地方公共団体の枠組みを超えて取り組むアーツカウンシルの新たな形
2――文化行政における地域アーツカウンシルの位置づけとモデル
1|地方公共団体における芸術支援の現状
2|地方公共団体における文化予算の使途
3|地域アーツカウンシルのモデル
3――国と地域アーツカウンシルの関係
1|英国アーツカウンシルの地域カウンシルと地域事務所
2|米国における地域アーツカウンシル(州政府芸術支援機関等)の基本構造
3|州政府の芸術支援機関(SAA)
4――日本版地域アーツカウンシルへの展望
1|地方公共団体の文化行政の流れと環境変化
2|地域アーツカウンシルの意義と役割
3|アーツカウンシルの理念とビジョン
* * *
文化政策の分野でアーツカウンシルへの関心が高まっている。
きっかけのひとつは、2011年2月に閣議決定された「文化芸術の振興に関する基本的な方針(第3次方針)」の重点施策において、「諸外国のアーツカウンシルに相当する新たな仕組みを導入する」ことが明記され、独立行政法人日本芸術文化振興会(Japan Arts Council)の実施する文化芸術への支援について、その機能や体制が強化されてきたことである。
また2015年5月22日に閣議決定された「文化芸術の振興に関する基本的な方針(第4次)-文化芸術資源で未来をつくる-」では、重点戦略1の重点的に取り組むべき施策として、「文化芸術への支援策をより有効に機能させるための日本版アーツカウンシルの本格導入について、現在、独立行政法人日本芸術文化振興会において実施されている試行的な取組の結果を踏まえ必要な措置を講ずる」と記されている。従来の、審査、事後評価、調査研究に加え「助言」の機能も付加され、国のアーツカウンシルもさらなる拡充が図られようとしている。
これらと前後して、地方公共団体においても、アーツコミッション・ヨコハマ(横浜市、2007年7月)、沖縄版アーツカウンシル(沖縄文化活性化・創造発信支援事業)(沖縄県、2012年8月)、アーツカウンシル東京(東京都、2012年11月)、大阪アーツカウンシル(大阪府・市、2013年7月)など、設置が続いている。
アーツカウンシルの発祥は、1945年英国だとされる。日本語では芸術評議会などと訳され、欧米諸国やシンガポール、韓国など、世界各国で設置されている。それぞれ国の特性や文化政策の方針に沿った事業、運営が行われており、一概に定義するのは困難だが、「芸術文化に対する助成を基軸に、政府・行政組織と一定の距離を保ちながら、文化政策の執行を担う専門機関」と言える。
本稿では、地域アーツカウンシル(国ではなく地方公共団体等が設立、設置するアーツカウンシル的な機能を持った組織、事業体)1について、日本の現状を整理し、海外の状況も参照しながら、その可能性や目指すべき方向性について考察を行いたい。
1 「アーツサポート関西」や(公社)企業メセナ協議会の「2012芸術・文化による社会創造ファンド」など、民間版アーツカウンシルと呼ばれる動きも見られるが、本稿は行政組織が主導するものに焦点を絞ってまとめた。
1――日本における地域アーツカウンシルの現状
1|アーツコミッション・ヨコハマ:アーティスト・クリエーターの創造活動を支え横浜市の創造都市政策を牽引
名称は異なるものの、日本の地方公共団体が設立したアーツカウンシル的な機能を持つ専門組織は横浜市のアーツコミッション・ヨコハマ(Arts Commission Yokohama、ACY)が最初であろう。横浜市は2004年から文化芸術創造都市政策に取り組んでいるが、それを牽引するため2007年7月に(公財)横浜市芸術文化振興財団の新たな取組としてACYをスタートさせた。当時、創造都市横浜推進委員会では、アーツカウンシルという名称も議論されたが、財団全体の名称との整合性に配慮してACYとなった。
市の創造都市政策の目標のひとつ、アーティスト・クリエーターが活動したくなる創造環境を実現するため、ACYが最初に立ち上げたのが「芸術不動産」という仕組みである。横浜で創造活動を行いたいアーティストやクリエーターに都心部の空きオフィスの情報などを提供し、両者のマッチングを行う、というものであった。その後、横浜市が実施していた芸術系の助成事業などもACYに移管され、事業の拡大が図られた。ちなみに2013年度に実施した助成事業は次のとおりである2。
[活動支援]
- 先駆的芸術活動支援助成(現代芸術分野で活動するアーティストやクリエーターの横浜での創造活動全般を支援|助成額:最大200万円)
- 都市文化創造支援助成(横浜ならではの都市文化の形成を図ることを目的とする活動に対する支援|助成額:最大200万円)
- 創造活動支援助成(「横浜トリエンナーレ」開催都市として現代アートにふれる機会を市民に提供することを目的にした作品発表への支援|助成額:最大80万円、総事業費の3分の2)
- アーティスト・クリエーターのための事務所等開設支援助成(横浜・関内エリア周域の民間物件に新規移転(増床を含む)し、活動拠点を開設することに対する支援|助成額:3.3㎡あたり48,000円、最大200万円)
- 芸術不動産リノベーション助成(アーティスト・クリエーターの活動場所創出を軸として建物の改修・改築を行うオーナーを支援|助成額:改修・改築経費の一部として最大1,000万円、2014年度で終了)
特徴的なのは、後者の拠点形成支援であるが、ACYは2009~14年度、ヨコハマ創造都市センターの運営も担い、資金とスペースの両方を連携させた支援に取り組んでいた点も、ユニークである。
横浜市は創造都市政策の一環として、歴史的建造物や遊休施設等を活用する創造界隈形成推進事業を推進し、2004年3月にオープンしたBankARTを筆頭に、急な坂スタジオ、ヨコハマ創造都市センター、黄金町スタジオ、ZAIMなどのアートスペースを開設してきた。それら公設の創造界隈拠点が呼び水となり、ACYの拠点形成支援、相談対応が後押しする形で、2014年度末には、横浜の都心部の40棟の建物にクリエイティブなスタジオやオフィスが入居し、200組を数えるアーティストやクリエーターが集まるなど3、新たなコミュニティを形成するまでになっている。
ちなみに2014年度の年間の相談件数は150件で、その内の21%、32件が拠点形成に関するものであった。ACYは横浜市の創造都市政策を推進するため、相談・コーディネートや助成、創造都市プロモーション、国際交流など多様な事業展開を行い、アーティストやクリエーターの創造環境を支援する地域アーツカウンシルと言える。
2 2015年度は「創造都市横浜における創造的活動支援助成」と「アーティスト・クリエーターのための事務所等開設支援助成」の2本柱で助成を実施。
3 横浜都心臨海部に集積するアーティスト、クリエーターのスタジオを一般公開するイベントである「関内外OPEN!5」に参加している数字
(2016年07月05日「ニッセイ基礎研所報」)
吉本 光宏 (よしもと みつひろ)
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