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- 芸術活動の底辺を支える米国政府機関の文化政策 -多様な非営利芸術機関(NPOA)の育成に向けて-
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1.
米国の文化政策(Arts Policy)は、そのまま助成政策(Funding Policy)といわれる。その背景には、政府機関は文化事業や文化施設の運営を直接おこなわず、民間の非営利芸術機関(Not-for-Profit Arts Organization、NPAO)の活動を支援・育成するという基本的な考え方がある。
2.
そのための連邦政府の政策は、(1)全米芸術基金(NEA)を経由した幅広いNPAOへの助成活動と、(2)個人や民間企業・財団からの寄付活動を誘導するNPO関連の税制のふたつが柱となっている。しかも、NEAの助成金がNPAOの「保証」として機能し、税制上の優遇措置に裏打ちされた民間からの資金導入に大きな役割を果たすなど、助成金とNPO税制という二つの政策が、相互に作用しながらNPAOの活動を活発化させている点は、とくに注目できる。
3.
NEAは、96年度に予算が大幅にカットされ、事業の枠組みが変更されたが、それまでの活動をとおして、全米に芸術活動を普及させ、米国の芸術活動の底辺拡大と観客層の育成を促した功績は大きい。同時に、設立時には限られていた州政府以下の地方の文化局や文化部、各分野のNPAO、さらには民間の立場から芸術振興を推し進める「芸術サービス機関」の設立・運営にも大きな役割を果たしている。
4.
NPAOの活動を支援する税制では、(1)NPOの設立手続きを簡素化したうえで、税制優遇を受けられるNPO(501(c)(3)団体)の設立は厳しくチェックされること、(2)民間、とくに個人寄付に対して所得の最高50%の控除を認めるなど様々な税制上の優遇措置が設けられていること、(3)収益事業もNPOの公益目的に合致したものであれば、法人税を免除することによって、市場からの財源確保を奨励していること、の3点が主要なポイントである。
5.
州政府や市などの文化政策も、助成金によってNPAOの活動を支援するという基本構造は、連邦政府と同様だが、事業助成ではなく、人件費などNPAOの一般運営費に対する助成によって、運営基盤そのものを支えている点はわが国にはないしくみである。
6.
ニューヨークを例にとれば、州政府の文化局(NYSCA)、市の文化部(NYDCA)、個人アーティストへの支援を主目的に州政府が設立した民間財団(NYFA)の三者が、相互に補完しあいながら、多様で活発なニューヨークの芸術活動を支えている。
7.
助成活動以外では、NYDCAのアーティスト証明書、リサイクル品の芸術活動への活用、あるいはNYFAの「創造芸術家」を支援する助成制度や経営の専門的ノウハウを提供するプログラムなど、芸術家や芸術団体の活動の底辺を支える様々なサービスを提供している点がユニークである。
8.
こうした米国の文化政策から、わが国は次の諸点を学ぶべきである。(1)NPAOを中心とした文化政策の基本構造と活力の創出、(2)芸術活動の経済的効果の再評価による、ハード優先の予算構造の見直し、(3)既存の芸術機関、文化施設のNPOとしての位置づけの確立。
(1998年12月25日「ニッセイ基礎研所報」)
吉本 光宏 (よしもと みつひろ)
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