2016年06月07日

オフィス賃料は再上昇、訪日外客数増はホテル市場に加え地価を牽引-不動産クォータリー・レビュー2016年第1四半期

基礎研REPORT(冊子版) 2016年6月号

加藤 えり子

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1――経済動向と住宅市場

2016年3月の日銀短観は、業況判断指数(DI)が、大企業製造業・非製造業ともに低下したが、マイナス金利が追い風となる傾向がある不動産業はわずかに上昇した。しかし3ヵ月後の景況感は不動産業も含め、総じて数値が低下している[図表1]。

2016年1-3月の首都圏新築マンション新規販売戸数は金融危機後の低迷で供給が少なかった2009年と同程度の低水準となっており[図表2]、過去1年(2015年度)の供給戸数は前年比14.4%の減少となった。一方で、戸あたり価格、m2坪単価は4年度連続して上昇、都心での富裕層向けの高額物件供給が価格水準を底上げしている。実需層に手の届く新築マンションの供給が少ないことも影響し、中古マンションの需要が高まり価格も顕著に上昇してきている。東日本不動産流通機構(レインズ)によれば、2016年第1四半期の首都圏中古マンションの成約件数は前年同期比+3.4%、同3月の平均m2単価は47.78万円(前年同月比+5.5%)であった[図表3]。
日銀短観(2016年3月調査)、首都圏分譲マンション新規販売戸数、首都圏中古マンション成約件数㎡単価

2――地価動向

3月に公表された2016年1月公示地価は、全国全用途で+0.1%となり、8年ぶりに上昇に転じた。全国の商業地、住宅地の双方で上昇地点割合は増加、商業地では、前回上昇のピークだった2008年より下落地点割合が低下した[図表4]。商業地の全国上昇率1位と2位は大阪の商業中心エリアで占められた。1位の「心斎橋」は前年から+45.1%、2位の「道頓堀」は+40.1%であった。インバウンド効果による商業販売が好調なエリアで地価も大幅に上昇した。住宅地では「虻田郡倶知安町(北海道ニセコ周辺)」が19.7%と全国で最も上昇している。当該エリアは、豪州や中国等の外国人にリゾート地として評価されており、住宅地においてもインバウンド効果の影響が見られる結果となった。
全国商業地・住宅地公示地価上昇地点割合の推移

3――不動産サブセクターの動向

1│オフィス

三幸エステートとニッセイ基礎研究所が共同で開発した成約賃料データに基づくオフィスレント・インデックスによると、2016年第1四半期の東京都心部オフィス賃料は、Aクラスビルで33,995円/坪、前期比+3.4%、前年同期比+9.1%となった[図表5]。2015年第4四半期は、大型物件供給の影響から一旦下落したものの、当期は再び上昇に転じ、2012年以降の回復基調が継続した。空室率については、前期から横ばいの3.3%で需要は底堅い。しかし、一部では賃料水準が高まったことからテナント誘致に時間がかかる傾向も見られるため、今後上昇ペースは緩和する可能性がある。
東京都心Aクラスビルの賃料・空室率の推移
2│賃貸マンション

東京都心5区のマンション賃料は、2012年以降緩やかな上昇基調を続けてきたが、16年に入り渋谷区以外では上げ止まり感がある[図表6]。
3│商業施設・ホテル・物流施設

図表7に、東京および地方主要都市のプライム商業エリアの路面店舗賃料の推移を示した。銀座は2015年上期までは上昇が続いたが、2015年下期は反転し、前回ピークの2008年の水準までは届かなかった。地方主要都市では、心斎橋(大阪)、天神(福岡)などが上昇基調にある。

訪日外客数の過去12ヶ月合計値の各月推移を見ると[図表8]、2016年1月以降は各月とも年間2,000万人を超えている。円安が顕著になってきた2015年に入って以降、増加のペースが上がっていることが分かる。それにともない、ホテル客室稼働率は好調が続いている。2016年に入り、全国のホテル客室稼働率は2015年とほぼ同水準を維持、2016年3月は、前年同月比+0.7ポイントの82.6%であった[図表9]。力強い需要を背景に、既存ホテルへの投資が活発化するとともに、新規開発計画も相次いでいる。2015年度の宿泊業用建築物の着工床面積は、前年比40%増、着工棟数は34%増となった[図表10]。

シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の16年第1四半期空室率は前期から1.4ポイント上昇し8.3%となり、2010年第4四半期以来の高い水準となった。需要は底堅いが、当該四半期における12万坪の新規供給を吸収しきれなかった。近畿圏の空室率は0.1ポイント低下の3.4%となった[図表11]。しかし、年内に7万坪超の新規供給予定があり、空室率は上昇すると予想される。
主要都市のプライム商業エリア路面店舗賃料、訪日外客数の推移、全国ホテルの平均稼働率の推移、宿泊業用建築物の着工棟数・床面積推移、大型マルチテナント型物流施設の空室率

4――J-REIT(不動産投信)

2016年第1四半期の東証REIT指数(配当除き)は、日本銀行が1月末に「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を発表し長期金利が大きく低下したことなどから前年比8.5%上昇した。マイナス金利はJ-REIT市場の分配金を押し上げる効果が期待できる。図表12は、2015年下期(7-12月期)における市場全体の収益構造を示している。有利子負債額(約5.7兆円)に対する支払利息の利率は年率1.2%であり、マイナス金利導入後の新規の借入利率は0.7%と推測される。既存の借入金のリファイナンスが進んで借入利率が現行水準から0.5%低下した場合、支払利息の減少によって分配金は144億円増加し9%の増益要因となる。
J-REIT市場全体の収益構造(2015年下期)

 
  1 三幸エステート株式会社『オフィスレント・インデックス
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加藤 えり子

研究・専門分野

(2016年06月07日「基礎研マンスリー」)

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【オフィス賃料は再上昇、訪日外客数増はホテル市場に加え地価を牽引-不動産クォータリー・レビュー2016年第1四半期】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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